・和牛にシマウマ模様で虫よけ効果：日本人19年連続のイグ・ノーベル賞受賞
・シマウマ模様の虫よけ効果とは？
和牛にシマウマ模様で虫よけ効果：日本人19年連続のイグ・ノーベル賞受賞
2025年9月18日（米国時間）、米ボストン大学で開催されたイグ・ノーベル賞授賞式で、日本の研究チームが「生物学賞」を受賞しました。この賞は、ノーベル賞のパロディとして「人を笑わせ、考えさせる」ユニークな研究を表彰するもので、今年の受賞テーマは「黒毛和牛にシマウマ模様を塗ると虫が寄りつきにくくなる」という革新的な発見です。日本人の受賞は2007年以来、19年連続となり、畜産業界に新たな可能性を示す研究として注目を集めています。
イグ・ノーベル賞とは
イグ・ノーベル賞（Ig Nobel Prize）は、1991年に米国で創設された賞で、科学的なユーモアを交えた独創的な研究を称えるものです。毎年9月にハーバード大学やMITの科学者らが選考し、授賞式では受賞者が本物のノーベル賞受賞者から表彰されるユニークなイベントとして知られています。過去の受賞例には、「バナナの皮で滑るメカニズム」や「大量のバナナの皮で船を滑らせる」などの風変わりなテーマがあり、単なるお笑いではなく、実用的価値を秘めた発見を評価します。今年も10分野で受賞者が発表され、日本勢の活躍が光りました。
研究の背景と目的
この研究は、農業・食品産業技術総合研究機構（農研機構）畜産研究部門の兒嶋朋貴研究員ら、愛知県農業総合試験場、京都大学の共同チームによるものです。きっかけは、シマウマの白黒縞模様がハエなどの吸血昆虫を寄せ付けないという海外の論文でした。シマウマの模様は、光の干渉や視覚的な錯覚により虫の着陸を妨げると言われており、研究チームはこれを和牛に応用できないかと着目。2017年から本格的な実験を開始しました。
畜産現場では、アブやサシバエなどの虫が牛に寄生し、痛みやストレスを与える問題が深刻です。従来の殺虫剤使用は環境負荷が高く、代替策が求められていました。この研究は、化学薬品に頼らない自然な虫よけ方法として、持続可能な畜産の実現を目指しています。
実験方法の詳細
実験は愛知県の牧場で行われ、黒毛和牛を対象に実施されました。対象牛を以下の3グループに分け、右半身に虫の着陸数を観察：
- 通常の牛：何も塗布せず、自然な黒毛の状態。
- 黒く塗った牛：黒いスプレーで全体を塗装し、模様なし。
- シマウマ模様の牛：白いスプレーでシマウマのような白黒縞模様を描画（「シマウシ」）。
各牛を柵に固定し、30分間放置した後、右半身に付着した虫の数をカウント。観察対象は主にアブやサシバエなどの吸血昆虫で、複数回の試験を繰り返しました。このシンプルながら徹底した方法で、模様の視覚効果を定量的に検証しました。
実験結果と科学的意義
結果は驚くべきものでした。通常の牛には平均128匹の虫が付着、黒く塗った牛は111匹でしたが、シマウマ模様の牛はわずか55匹と半分以下に抑えられました。この効果は、縞模様が虫の視界を混乱させ、着陸を妨げる「光学的なバリア」によるものと分析されています。
この発見は、牛のストレス軽減だけでなく、成長促進や乳量増加にも寄与する可能性があります。将来的には、模様付きの牛舎設計や遺伝子工学による「シマウマ柄牛」の開発につながるかもしれません。論文は専門誌に掲載され、畜産のイノベーションとして国際的に評価されています。
受賞者のコメントと今後の展望
兒嶋研究員は授賞式後のインタビューで、「笑ってもらえて光栄ですが、現場の役に立つ研究を目指しました。シマウシが牧場で普通になる日が来るかも」とユーモアを交えて語りました。チームは今後、模様の最適デザインや他の動物への応用を検討中です。
この受賞は、日本科学の創造性を世界に示す好例。イグ・ノーベル賞を通じて、真剣な課題解決が楽しく伝わる好循環を生んでいます。畜産従事者や科学ファン必見のニュースです！
シマウマ模様の虫よけ効果とは？
シマウマの特徴的な黒と白の縞模様は、単なる迷彩や捕食者回避の手段ではなく、実はハエやアブなどの吸血昆虫を寄せ付けない効果があることが科学的に明らかになっています。この模様は、昆虫の視覚を混乱させ、着陸を妨げる仕組みが鍵です。自然界のシマウマだけでなく、人間が牛や馬にこの模様を施す実験でも、虫の飛来が大幅に減少する結果が得られています。
シマウマの縞模様の科学的背景
シマウマの縞模様の目的について、長年研究されてきましたが、2012年のナショナル ジオグラフィックの研究では、縞模様がハエを遠ざける効果があると指摘されています。昆虫は、単色の表面では容易に着陸できますが、縞模様のコントラストが視覚的な錯覚を生み、減速や方向感覚を失わせるのです。また、2022年のWIRED誌の記事では、この効果がさらに検証され、昆虫が「ジグザグに飛ぶ」理由として、模様による知覚の乱れが挙げられています。
牛への実験結果：シマウシの効果
日本では、愛知県や山形県で「シマウシ」と呼ばれるシマウマ模様の牛の実験が行われています。2019年の愛知県の検証では、白と黒のスプレーで模様を施した牛にハエが付着する数が、通常の牛の半分以下（128匹から55匹）に減少しました。 また、2024年の山形県の実験では、虫の着陸回数が黒毛牛の16回から5回へ7割減少し、ストレス軽減効果が確認されています。 2025年9月には、この研究がイグ・ノーベル賞生物学賞を受賞し、シマウマ模様の虫よけ効果が国際的に注目されました。
馬や他の動物への応用
牛以外にも、馬にシマウマ模様を施す実験でハエの避け効果が確認されており、2025年の研究では50%以上の減少が報告されています。 これにより、放牧時の薬剤使用を減らし、環境負荷の低い虫よけ方法として実用化が進んでいます。模様の持続期間はスプレー使用で1週間、ブリーチ剤で1カ月半程度です。
メカニズムの詳細：なぜ虫が寄せ付けないのか
主な理由は、光の偏光と縞のコントラストです。ハエなどの昆虫は、偏光を頼りに着陸しますが、シマウマ模様はこれを乱し、正確な位置を特定しにくくします。CNNの報道でも、この視覚的錯覚がハエの着陸をほぼ半減させると説明されています。 また、温度調整の説もありますが、虫よけ効果が最も有力視されています。
実用的な活用と今後の展望
シマウマ模様の虫よけは、畜産だけでなく、人間用の服やテントに応用可能です。薬剤を使わず自然な方法で虫を防げるため、持続可能な農業やアウトドア活動に役立ちます。今後、さらに詳細な研究が進むことで、日常的な虫よけツールとして普及する可能性が高いでしょう。
