・トランプ米大統領、関税無効化で「世界恐慌」を警告
・トランプ関税の裁判所による無効化:経緯と背景
トランプ米大統領、関税無効化で「世界恐慌」を警告
2025年8月9日、ドナルド・トランプ米大統領は、自身が発動した関税が裁判所によって権限逸脱と判断され無効化された場合、米国経済に壊滅的な影響を及ぼし、「1929年の世界恐慌の再来」を引き起こすと警告しました。この発言は、トランプ氏が自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿した内容として報じられています。以下、詳細を解説します。
発言の背景と内容
トランプ氏は、自身の経済政策の柱である関税について、裁判所がこれを無効化する判断を下した場合、「莫大な金額と名誉を回復したり、返済したりするのは不可能になるだろう」「1929年の再来、世界恐慌だ!」と述べました。この発言は、トランプ氏が緊急権限を活用して広範な関税を課すことの合法性を巡る裁判が進行中であるタイミングで出されました。関税は、トランプ政権が米国経済を保護し、貿易赤字を削減する手段として積極的に推進してきた政策です。
関税政策とその影響
トランプ氏は、2025年7月30日に新たな関税の発動を発表し、8月7日から世界各地の貿易相手国に対して関税を適用しています。これには、インドに対する25%の包括的関税や、EUに対する10%、ベトナムに対する20%の関税などが含まれます。これらの関税は、米国の貿易赤字是正や国内産業保護を目的としていますが、国際的な反発や経済への影響が懸念されています。
一部の専門家やネット上の意見では、関税の無効化が逆に物価を下げ、景気を刺激する可能性があるとの見方もあります。「関税無効なら株価は上がる」「元の関税に戻るだけ」との声が上がっており、トランプ氏の発言が誇張されているとの批判も見られます。
経済への潜在的リスクと批判
トランプ氏の関税政策は、米国の経済成長に一時的な刺激を与えたとされる一方で、貿易戦争の激化やサプライチェーンの混乱を引き起こすリスクも指摘されています。たとえば、半導体に対する100%関税の提案に対し、「サプライチェーンを寸断する」との懸念が表明されています。また、関税による物価上昇が米国内の消費者や企業に負担を強いる可能性も議論されています。
さらに、トランプ氏が「極左の裁判所」と表現したことに対し、司法への圧力や脅迫とも受け取れるとの批判が上がっています。「トランプ氏自身が恐慌を加速させている」との意見や、「経済の都合で司法が曲げられるなら法治国家ではない」との声も見られ、賛否が分かれています。
国際的な反応と今後の展望
トランプ氏の関税政策は、国際社会にも波紋を広げています。たとえば、日本に対しては、関税交渉の中で80兆円規模の負担を求める発言があったと報じられており、経済的圧力が高まっています。また、ウクライナやガザ問題など、同時期に進行する国際的な緊張も、関税問題と絡み合い、地政学的なリスクを増大させています。
裁判所の最終判断次第では、トランプ氏の関税政策の継続性や米国の経済戦略に大きな影響が出る可能性があります。専門家は、関税無効化が米国経済に与える影響を慎重に見極める必要があると指摘しており、今後の動向が注目されます。
トランプ関税の裁判所による無効化:経緯と背景
2025年、トランプ米大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動した広範な関税に対し、複数の連邦裁判所がこれを無効とする判断を下しました。この一連の出来事は、米国経済や国際貿易に大きな影響を及ぼす可能性があり、トランプ氏が「世界恐慌の再来」を警告する発端となりました。以下では、裁判所の関税無効化に至る経緯を時系列で詳しく解説します。
背景:トランプ政権の関税政策とIEEPAの活用
2025年1月の第2期トランプ政権発足以降、トランプ大統領はIEEPAを活用して、従来の貿易関連法(例:1974年貿易法のSection 301や1962年貿易拡張法のSection 232)とは異なる形で関税を課しました。IEEPAは、国家安全保障や経済に対する「異常かつ特別な脅威」に対応するための大統領の緊急権限を定める法律で、過去には制裁や資産凍結に使用されてきましたが、広範な関税の根拠としては初めて用いられました。トランプ政権が課した主な関税は以下の通りです
- トラフィッキング関税:メキシコとカナダからの輸入品に25%、中国からの輸入品に20%の関税を課し、フェンタニルなどの薬物密輸や国境安全保障を理由に正当化。
- 世界的・報復関税(リシプロカル関税):すべての輸入品に10%のベースライン関税を課し、特定の貿易相手国(例:インド25%、EU10%、ベトナム20%)にはさらに高い関税を適用。貿易赤字や非対称な貿易政策を理由に掲げました。
これらの関税は、2025年4月2日に「解放の日(Liberation Day)」と称して発表され、貿易赤字の是正や国内産業保護を目的としていました。しかし、関税の規模とIEEPAの異例な使用は、国内外で議論を呼び、法的な挑戦を引き起こしました。
裁判所の無効化判断:2025年5月の画期的な判決
2025年5月28日、米国国際貿易裁判所(CIT)は、V.O.S. Selections, Inc. v. United StatesおよびThe State of Oregon et al. v. United States Department of Homeland Securityの2つの統合訴訟において、IEEPAに基づく関税が違法であるとの判決を下しました。この判決の主要なポイントは以下の通りです:
- IEEPAの権限の限界:CITは、IEEPAの「輸入を規制する」権限が、広範で裁量的な関税の課税を許可するものではないと判断。関税は議会の専権事項であり、IEEPAは明確な緊急事態に直接関連する場合に限定されるとしました。
- 緊急事態の要件不足:裁判所は、トランプ氏が主張した「貿易赤字」や「薬物密輸」が、IEEPAが要求する「異常かつ特別な脅威」に該当しないと結論。特に、貿易赤字は1974年貿易法のSection 122で対処すべき非緊急事態であり、関税による薬物対策は直接的な関連性が欠けるとされました。
- 憲法上の問題:CITは、議会の関税設定権限を大統領に無制限に委譲することは、非委譲原則や主要問題原則(major questions doctrine)に違反すると指摘。関税は議会の憲法上の権限(Article I)に属すると強調しました。
- 原告の訴訟資格:中小企業や12の州政府(オレゴン州やニューヨーク州など)が原告として認められ、関税による経済的損害(サプライチェーン混乱や調達コスト増)が訴訟資格の根拠とされました。
CITはこれらの関税を無効とし、全国的な差し止め命令を発令。政府に対し、6月7日までにIEEPA関税の徴収停止と既払い関税の払い戻しを命じました。
並行する訴訟:コロンビア特別区連邦地方裁判所の判断
同日、コロンビア特別区連邦地方裁判所(DDC)は、Learning Resources, Inc. v. Trumpにおいて、IEEPAに基づく関税(特に中国からの輸入品を対象としたもの)が違法であるとの予備的差し止め命令を発令しました。DDCの判断は以下の点で注目されます
- IEEPAの関税非対象性:DDCは、IEEPAが関税の課税を想定しておらず、経済制裁や資産凍結のための法律であると明確に判断。「輸入の規制」が関税を意味しないとしました。
- 限定的な救済:CITの全国的差し止めに対し、DDCの命令は原告企業に限定され、全国適用ではありませんでした。ただし、この判決もIEEPAの解釈においてCITと一致していました。
DDCの命令も、司法省が14日間の執行停止を求め、控訴中です。
控訴と現状:連邦控訴裁判所の介入
2025年5月29日、トランプ政権はCITの判決を不服として連邦控訴裁判所(Federal Circuit)に控訴し、判決の執行停止を求めました。同日、連邦控訴裁判所はCITの差し止め命令を一時的に停止し、関税は継続して徴収される状態を維持しました。この行政上の停止は、控訴審の最終判断までの「現状維持」を目的としたもので、以下のようなスケジュールが設定されています
- 原告側は6月5日までに政府の停止申請への回答を提出。
- 政府は6月9日までに反論を提出。
- 連邦控訴裁判所は、CITでの並行する停止申請の結果を通知するよう指示。
7月31日には連邦控訴裁判所が11人の判事による全体審理(en banc)で議論を行い、IEEPAの関税権限や大統領の緊急事態宣言の司法審査可能性について厳しい質問が飛び交いました。判事らは、IEEPAが関税を明示的に含まない点や、関税が議会の権限を侵す可能性について疑問を呈しました。
現在、関税は控訴審の結果が出るまで有効であり、企業は引き続き関税を支払う必要があります。最終的な決着は、最高裁判所への上訴が予想される2026年中頃までずれ込む可能性があります。
今後の展望と影響
裁判所の最終判断は、以下のような広範な影響を及ぼす可能性があります
- 経済的影響:関税無効化が確定すれば、輸入業者は関税還付を請求でき、消費者価格の低下やサプライチェーンの安定化が期待されます。一方で、トランプ政権はSection 232やSection 122など他の法的手段で関税を再課する可能性があり、貿易政策の不確実性は続きます。
- 国際的影響:日本を含む貿易相手国は、関税無効化を交渉の「レバレッジ」と見なし、米国との貿易協定交渉を有利に進める可能性があります。たとえば、日本に対しては80兆円規模の負担を求める発言が報じられており、国際的な緊張が高まっています。
- 法的・政治的影響:控訴審や最高裁の判断は、大統領の緊急権限と議会の貿易権限のバランスを再定義する可能性があります。民主党はIEEPAの改正を求める「貿易レビュー法」を検討中ですが、共和党支配の議会では2026年の中間選挙まで進展は難しいとされています。
企業は、関税の継続や還付の可能性に備え、米国税関国境保護局(CBP)のガイダンスを注視し、輸入計画やサプライチェーン戦略を調整する必要があります。