・トランプ政権の「関税15%」を巡る日米の認識の相違
・米国の関税状況:自動車、織物、電子機器、機械類、食品
トランプ政権の「関税15%」を巡る日米の認識の相違
2025年8月7日、トランプ米政権が新たな「相互関税」を発動し、日本からの輸入品に対して15%の関税を適用しました。しかし、この関税率を巡って、日米間で認識の相違が生じていることが明らかになっています。日本政府は、従来の税率が15%以上の品目については相互関税が上乗せされないとする特例措置で合意したと主張していますが、米側の大統領令や連邦官報にはこの特例が明記されておらず、すべての品目に一律15%が上乗せされる状況となっています。この問題は、両国間での合意文書の不存在や、交渉過程でのコミュニケーション不足に起因していると指摘されています。
日米交渉の背景と合意内容
トランプ大統領は2025年7月22日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、日本との貿易交渉において「大規模な合意」に達したと発表しました。この合意では、日本に対する相互関税を当初予定されていた25%から15%に引き下げること、自動車関税も従来の27.5%(2.5%の基本税率+25%の追加関税)から15%に引き下げることで合意したとされました。さらに、日本は米国に約5500億ドル(約80兆円)の投資を行い、米国産のコメや自動車などの市場開放を進めることが含まれていました。日本側は、自動車関税の引き下げや、従来税率が15%以上の品目に対する特例措置を勝ち取ったとして、交渉の成果を強調していました。
認識のズレの原因
問題の核心は、日米間で合意文書が作成されなかったことにあります。日本側は、従来の税率が15%未満の品目は15%に、15%以上の品目には相互関税を適用しないとする特例措置が合意されたと説明していました。しかし、トランプ大統領が署名した大統領令や、2025年8月6日付の連邦官報にはこの特例が記載されておらず、米側は日本からの輸入品に一律15%の関税を上乗せする方針を明確にしています。このため、例えば従来7.5%だった織物は15%になるはずが22.5%に、牛肉は26.4%のままのはずが41.4%になる可能性が浮上しています。この食い違いについて、米側は日本が「最良の関税措置」を誤解したとし、EUに適用された特例措置が日本には適用されないとしています。
日本側の対応と影響
この認識の相違に対し、日本政府は速やかな修正を求めて動いています。赤沢亮正経済再生担当大臣は8月5日から訪米し、米商務長官らと会談して合意内容の反映を要求しましたが、8月7日の関税発動時点では解決に至っていません。自民党の小野寺政務調査会長も、米側の対応が日米合意と異なるとして、早急な修正を求めています。経済界では、自動車産業において関税が15%に引き下げられたことで一部の負担軽減が期待されるものの、織物や牛肉など他の品目での関税上乗せが企業に追加コストを強いる懸念があります。例えば、マツダは追加関税の影響で2025年4~6月期に421億円の赤字を計上しており、さらなる関税負担が中小企業にも波及する可能性が指摘されています。
今後の課題と展望
日米間の認識の相違は、合意文書の不存在による曖昧さが大きな要因とされています。専門家は、日本側が交渉のスピードを優先するあまり、正式な文書化を省略した可能性を指摘しています。この問題は、トランプ政権の関税政策が世界経済に与える影響を象徴しており、今後、米側が日本との合意内容を反映した大統領令を発令するか、さらなる交渉で特例措置を明確化できるかが焦点となります。また、日本企業は関税コストの上昇に対応するため、価格転嫁やサプライチェーンの見直しを迫られる可能性があり、長期的な影響への備えが求められています。
米国の関税状況:自動車、織物、電子機器、機械類、食品
2025年8月7日、トランプ米政権が日本からの輸入品に対して一律15%の「相互関税」を発動しました。この関税は、日本側が主張する特例措置が反映されず、従来の税率に一律15%が上乗せされる形で適用されています。牛肉の関税が従来26.4%から41.4%に上昇する可能性が指摘されていますが、他の品目についても関税率の変動が注目されています。以下では、主要な品目の現在の関税状況について詳しく解説します。
自動車および自動車部品
日本の自動車および自動車部品は、従来2.5%の基本関税に加え、トランプ政権下で一時期25%の追加関税が課され、合計27.5%となっていました。2025年7月の日米交渉により、この関税は15%に引き下げられる合意がなされたと日本側は主張しています。しかし、米国の大統領令では一律15%の相互関税が上乗せされるため、実際の税率は17.5%(2.5%+15%)となる可能性があります。この状況は、特にトヨタやホンダなど米国市場に依存する自動車メーカーにとって、コスト上昇の懸念材料となっています。
織物および繊維製品
織物や繊維製品の従来の関税率は品目によって異なりますが、例えば衣類や布地の一部は平均7.5%程度でした。今回の相互関税により、従来の7.5%に15%が上乗せされ、22.5%となる見込みです。日本側は、従来税率が15%以上の品目には相互関税を適用しないとする特例措置を主張していましたが、米国の連邦官報にはこの特例が記載されておらず、織物産業への影響が懸念されています。特に中小の繊維企業は、価格競争力の低下を避けるため、値上げや米国以外の市場開拓を迫られる可能性があります。
電子機器
電子機器は、従来の関税率が比較的低く、0~3%程度の品目が多くを占めていました。しかし、一律15%の相互関税が適用されると、例えば従来2%だった電子機器は17%に上昇します。この関税上昇は、ソニーやパナソニックなどの電機メーカーや、半導体製造装置を輸出する東京エレクトロンなどにとって、米国市場でのコスト増を意味します。特に、半導体はグローバルサプライチェーンにおいて重要な役割を果たしており、関税による価格上昇が最終製品の価格に波及する可能性が指摘されています。
機械類および工業製品
工作機械や産業用ロボットなど、日本の機械類は従来の関税率が1~5%程度でした。今回の相互関税により、例えば従来4%だった工作機械は19%に上昇する可能性があります。この分野は、日本企業の米国向け輸出の主要な柱であり、関税上昇はファナックや三菱重工業などの企業に影響を与えると予想されます。企業は、関税コストを吸収するか、価格転嫁による競争力低下のリスクを考慮する必要があります。
農産品および食品(牛肉を除く)
牛肉以外の農産品や食品についても、関税率の変動が見られます。例えば、従来の関税率が10%だった水産加工品(例:缶詰や冷凍魚)は、相互関税により25%に上昇します。また、酒類(日本酒やウィスキー)は従来5.3%程度だったものが20.3%となる見込みです。これにより、米国市場での日本産食品の価格競争力が低下し、特に中小の食品輸出企業への影響が懸念されています。
今後の影響と課題
一律15%の相互関税の適用により、日本の輸出企業は広範な品目でコスト増に直面しています。日米間の認識のズレにより、特例措置が適用されない現状では、企業は関税負担を軽減するための戦略を早急に構築する必要があります。具体的には、米国以外の市場へのシフト、サプライチェーンの再構築、または現地生産の拡大が検討されています。また、日本政府は米側との再交渉を通じて、合意内容の明確化や特例措置の反映を目指していますが、トランプ政権の保護主義的な姿勢が交渉のハードルとなる可能性があります。