台湾有事はアメリカ次第? 竹島問題と重ねる高市首相発言の限界

中国政府、台湾有事の高市首相発言への非難
日本の領土問題:竹島の現状
台湾有事の米依存状況と高市首相発言の説得力

中国政府、台湾有事の高市首相発言への非難

2025年11月12日、中国国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は、北京市での定例記者会見で、日本の自民党総裁選で勝利し首相に就任したばかりの高市早苗氏の発言を厳しく批判しました。高市首相は11月7日の衆院予算委員会で、台湾有事が日本の「存立危機事態」に該当し得る可能性を指摘し、集団的自衛権の行使を視野に入れた対応を示唆しました。これに対し、陳報道官は「悪質な発言であり、中国への粗暴な内政干渉です」と非難し、「一つの中国」原則に著しく反すると主張しました。中国側は「強烈な不満と断固反対」を表明し、日本政府に対して抗議を行いました。

高市首相の発言内容と背景

高市早苗首相は、就任直後の国会答弁で、台湾海峡における有事のシナリオについて触れました。具体的には、中国による台湾への武力攻撃が、日本の安全保障に深刻な影響を及ぼす「存立危機事態」となり得ると述べ、自衛隊の武力行使を含む対応を可能とする集団的自衛権の適用を検討する姿勢を示しました。この発言は、安保法制で規定された「存立危機事態」の具体例として、台湾有事を挙げた点で注目を集めました。日本の政府はこれまで、台湾有事の判断を「個別具体的な状況に即して総合的に行う」と曖昧に留めていましたが、高市氏の答弁はより踏み込んだものとなりました。

高市首相は11月10日の衆院予算委員会でも、この発言を「撤回するつもりはありません」と明言し、日本政府の安全保障政策の継続性を強調しました。一方、中国外務省の林剣副報道局長は11月10日の会見で、同発言を「台湾海峡への武力介入の可能性を示唆するものです」と批判し、日本に「猛烈な抗議」を行ったと発表しました。中国国営放送のCCTVも11日夜、高市氏の発言を「極めて悪質な性質と影響力を持つものです」と報じ、中国との「一線を越えた」と指摘しました。

中国側の反応と外交的影響

陳斌華報道官の非難は、中国政府の公式見解を反映したものであり、台湾を「不可分の領土」とする一つの中国原則を基盤としています。中国側は、高市首相の発言が台湾独立勢力を助長し、地域の緊張を高めるとの見方を示しています。在日中国大使館も11日、X(旧Twitter)上で「日本の軍国主義は『存立の危機』を口実に幾度も対外侵略を行いました」と投稿し、発言の撤回を警告しました。これにより、日中間の舌戦がエスカレートしており、両国間の外交関係に新たな緊張を生んでいます。

日本政府は、中国側の抗議に対し、答弁の趣旨と政府の立場を説明したと官房長官が明らかにしていますが、具体的な譲歩は示していません。この事態は、2025年の日中関係の早期改善を求める国際社会の期待に逆行する可能性があります。

日本の領土問題:竹島の現状

日本の領土問題として象徴的な竹島(韓国名:独島)は、日韓両国が領有権を主張する島嶼で、現在も韓国による実効支配が続いています。日本政府は、竹島を歴史的事実および国際法上、固有の領土と位置づけ、韓国による1952年の「李承晩ライン」設定以降の占拠を「不法占拠」とみなしています。サンフランシスコ平和条約(1951年)の起草過程で、米国は竹島を日本領と扱い、韓国の領有主張を明確に否定した文書が存在します。

竹島の実効支配と最近の動向

韓国は1954年以降、竹島に警備隊を常駐させ、宿舎、監視所、灯台、接岸施設を構築しています。日本はこれらの措置を一切認めず、厳重抗議を繰り返しています。2025年9月17日には、韓国の調査船が竹島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内で無断の海洋調査を実施し、日本政府が外交ルートで抗議した事例があります。また、2025年7月15日の防衛白書では、竹島を「日本の領土」と明記したため、韓国政府が「不当な主張」として即時撤回を求め、駐韓日本大使館に抗議しました。

日本は1954年から3度にわたり、国際司法裁判所(ICJ)での解決を提案しましたが、韓国は全て拒否しています。この現状は、日韓関係の構造的な課題を象徴しており、経済協力が進む一方で、領土問題が外交の障壁となっています。

竹島問題の国際的文脈

竹島問題は、単なる二国間紛争にとどまらず、東アジアの領土・海洋権益をめぐる緊張を反映しています。日本政府は、国際法に基づく平和的解決を主張し続け、韓国側の措置が国際法に反すると指摘しています。2025年現在も、韓国による実効支配が維持される中、日本は冷静な外交努力を継続する方針です。

台湾有事の米依存状況と高市首相発言の説得力

台湾有事の対応は、米国の戦略的曖昧さと日本への期待が交錯する中で議論されています。日本は日米安全保障条約に基づき、米国に強く依存していますが、米側の対応は不透明です。2025年の戦略環境では、米中関係の不確実性が高まっており、高市首相の発言が日本の自主性を強調する一方で、現実の制約を考慮すると説得力が限定的であるとの指摘があります。

アメリカの台湾有事対応の不透明さ

米国は台湾関係法に基づき、台湾の防衛を支援する立場ですが、軍事介入の有無を明言しない「戦略的曖昧さ」を維持しています。2025年11月2日のCBSインタビューで、ドナルド・トランプ大統領(第47代)は、中国の台湾侵攻について「もしそうなればどうなるか彼らは理解しています」と述べ、自身の任期中は中国が「何もしない」との約束を強調しました。これにより、米国の介入が保証されない可能性が示唆されています。

また、2025年2月のトランプ大統領の発言でも、台湾有事への対応を「コメントしません」とし、明確な軍事介入の意思を示していません。アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)では、米国防長官が台湾有事を「破滅的な衝突」と警告しましたが、具体的な日米共同作戦の詳細は不明瞭です。日本は米軍の西太平洋再編に協力する立場ですが、米国内の政治的分断が外交の集中を妨げています。

高市首相発言の文脈と説得力の限界

高市首相の発言は、日本の存立危機事態を台湾有事に適用する可能性を強調し、抑止力を高める狙いがあります。しかし、台湾有事の成否が米国の判断に大きく依存する現状を考慮すると、発言の実行可能性に疑問符がつきます。日本の世論調査では、台湾有事の発生可能性を「ある」とする回答が42.1%に上り、国益上の重要性を77.1%が認識する一方、軍事関与のあり方で「後方支援まで」と「避けるべき」が拮抗しています。

さらに、竹島問題のように、日本が単独で実効支配を回復できない領土争いの経験は、台湾有事での日本の役割を相対化します。高市氏の発言は国内の安全保障議論を活性化させますが、米依存の構造を変えぬ限り、国際的な説得力は限定的です。日本は対話と抑止のバランスを強化し、欧州やグローバル・サウス諸国との連携を深める外交努力が求められます。