消毒用アルコールを用途外で使う危険性

焼肉店での消毒用アルコールによる火災事故

2025年7月25日、京都市下京区の「京都焼肉enen四条河原町店」で、消毒用アルコールをグリルの燃料として使用したことが原因で火災が発生し、女性客と従業員が重いやけどを負う事故が起きました。この事件は、消毒用アルコールの誤った使用がどれほど危険かを浮き彫りにしています。

事故の概要

事故は、同店の屋上ビアガーデンで発生しました。21歳の女性従業員が、食材を焼くためのグリルに「燃料として使っていた」消毒用アルコールを継ぎ足したところ、炎が上がり、近くにいた27歳の女性客と従業員の衣服に燃え移りました。女性客は右腕や左肩、従業員は両太ももなどに重いやけどを負い、ともに救急搬送されました。京都府警下京署は、業務上過失傷害の可能性も視野に調査を進めています。

消毒用アルコールの危険性

消毒用アルコールは、新型コロナウイルス感染症の流行以降、手指消毒や表面の除菌に広く使用されています。しかし、その引火性の高さから、火気付近での使用は非常に危険です。特に、以下の点が問題となります。

  • 高い揮発性:消毒用アルコールは揮発性が高く、気化した蒸気が火源に触れると一瞬で引火します。今回の事故では、グリルの火にアルコールを追加したことで、爆発的な炎が発生しました。
  • 消防法上の危険物:濃度60%以上のアルコールは消防法で「危険物」に分類され、取り扱いに厳格な注意が必要です。火気付近での使用は、フラッシュバック現象(炎が液面に逆流する現象)を引き起こす可能性があります。
  • 用途外使用のリスク:消毒用アルコールはあくまで除菌用途であり、燃料としての使用は想定されていません。燃料として使用すると、想定外の燃焼挙動が起こり、制御不能な火災につながります。

過去の類似事故

消毒用アルコールによる火災事故は今回が初めてではありません。2023年5月、福岡県柳川市の美容専門学校でのバーベキュー中に、教員が火勢を強めるために消毒用アルコールを加えたところ火柱が上がり、学生4人がやけどを負い、1人が死亡する事故が発生しました。このような事例からも、消毒用アルコールを火気付近で使用することの危険性が繰り返し問題視されています。

安全な取り扱いのための教訓

今回の事故から、飲食店や個人での火気使用時の安全対策として、以下の点が重要です。

  1. 適切な燃料の使用:グリルやバーベキューでは、専用の固形燃料や炭を使用し、消毒用アルコールなどの引火性液体を絶対に使用しない。
  2. 従業員教育の徹底:飲食店では、火気を取り扱う従業員に対し、燃料の正しい使用方法や危険物の取り扱いについて十分な教育を行う。
  3. 安全意識の向上:火気付近での引火性物質の使用は、事前の注意書きや教育があってもリスクが伴うことを全スタッフが認識する。

利便性と安全性のバランス

消毒用アルコールは手軽に入手でき、除菌に効果的ですが、燃料としての使用は想定外であり、重大な事故を招く可能性があります。利便性を追求するあまり、安全性を軽視した結果、今回の事故が発生したと考えられます。飲食店だけでなく、家庭でのバーベキューやキャンプでも同様のリスクが存在するため、用途を正しく理解し、適切な取り扱いを心がけることが不可欠です。

まとめ

焼肉店での消毒用アルコールによる火災事故は、用途外使用の危険性を改めて浮き彫りにしました。火気付近でのアルコール使用は、爆発や重いやけどなどの重大な結果を招く可能性があり、絶対に避けるべきです。安全な環境で食事を楽しむためにも、飲食店は適切な燃料の使用と従業員教育を徹底し、利用者も安全意識を持つことが求められます。この事故を教訓に、火気と引火性物質の取り扱いについて再考するきっかけにしましょう。