斯波正樹のワックス問題概要
2026年ミラノ・コルティナ五輪のスノーボード男子パラレル大回転予選において、斯波正樹選手がボードから禁止成分フッ素が検出され失格となった問題について紹介します。この問題は、環境負荷の高いフッ素含有ワックスの使用が国際スキー・スノーボード連盟(FIS)により今季から禁止されている中で発生しました。
フッ素含有ワックスの禁止背景
フッ素含有ワックス(フッ素系ワックス)は、雪面との摩擦を大幅に低減し、滑走性能を向上させるため、長年競技で使用されてきました。しかし、有機フッ素化合物(特にPFOA:ペルフルオロオクタン酸など)は、自然界でほとんど分解されず、環境中に残留・蓄積する性質があります。これにより、土壌や水系を通じて人体に取り込まれ、子供の出生時体重減少、糖尿病、甲状腺代謝障害などの健康被害が懸念されています。
このため、欧州連合(EU)では2019年にEU規則2019/1021(POP規制)およびEC規則1907/2006(REACH規制)により、PFOAを含むフッ素系ワックスの生産、取引、使用を2020年7月4日から禁止しました。これを受けて、国際スキー・スノーボード連盟(FIS)は2019年11月の評議会で、2022/2023シーズン以降のすべてのFIS公認大会においてフッ素含有ワックスの使用を全面禁止することを決定(ICR第222.8条)。当初は2020/2021シーズンからの適用を予定していましたが、検知機器の開発・実用化に時間を要したため延期され、2023/2024シーズンから検査が本格実施されています。
全日本スキー連盟(SAJ)もFISの決定に準じ、2022年7月に2022/2023シーズンからフッ素系ワックスの使用禁止を通知。スノースポーツが自然と共存するスポーツであることを踏まえ、環境破壊や健康被害防止の意識を高めることが重要と強調しています。2024/2025シーズンからは国内のFIS・SAJ公認大会でも検査を実施しています。
失格の経緯
斯波正樹選手(39歳、TAKAMIYA所属)は、2月8日の予選1回目を終えた後、ボードの検査でフッ素成分が検出されたため失格となりました。これにより、決勝進出をかけた2回目の滑走は許されませんでした。これは2018年平昌五輪以来、2大会ぶりの五輪出場で、日本から唯一の出場選手でした。失格後、選手は原因が分からない状態で困惑を表明しています。
検査結果と過去の状況
検査では、滑走面の左足より前方はフッ素検出なし(ゼロ)でしたが、後方にかけて明確なフッ素反応が確認されました。これまでワールドカップで同一の板とワックスの構成で毎試合フッ素検査を受けており、陽性反応が出たことは一度もありませんでした。失格後、非公式にフッ素検出機器で再検査を行った結果、フッ素は検出されませんでした。
ワックス作業の詳細
通常、練習時は選手自身がワックス作業を行い、大会期間中はプロのサービスマンに依頼していました。しかし、五輪では宿泊地とワックスキャビンが離れており、いつも依頼するサービスマンが別の場所に滞在していたため、チームコーチにワックス作業を依頼しました。エッジ作業は選手自身が行いました。選手はコーチにハヤシワックスのベースワックスおよびレースワックス一式を手渡しましたが、コーチは施工経験がなく、他国チームで使用されていた海外製ワックスを施工したことが判明しています。レース前夜、コーチから「他国チームのサービスマンと同じ内容を塗っている」と説明を受け、渡したワックスとは異なる可能性を認識していましたが、時間的制約から強く確認できなかったと選手は述べています。
メーカーの対応
今季ワールドカップで使用してきたワックスの製造元であるハヤシワックスは、公式サイトで「弊社製品からフッ素が検出された事実は一切ない」と断言しました。施工されたワックスは海外製であることが判明しており、同社製品が原因ではないことを強調しています。また、一部報道で同社製品が使用されたかのように受け取られる表現に対し、懸念を示し、事実と異なる報道には厳重に抗議する姿勢を明らかにしています。
本人の説明と主張
選手は自身のSNSで詳細を説明し、「これは責任の所在を誰かに向けるためではなく、自分が置かれている現実を正直にお伝えしています」と前置きした上で、経緯を公開しました。意図的に禁止物質を使用し失格になる理由はないとし、メダル候補ではない立場や、シーズンごとに2千万円以上の活動費を自己資金で集めている点から、不正の動機がないことを主張しています。また、多くの報道で「不正使用」と書かれることに対し、規則上は間違いないが、そう受け取る人がいることを懸念しています。
その他の対応と反応
全日本スキー連盟の依頼で、ワックスキャビン周辺の監視カメラ映像を確認予定ですが、第三者の関与を特定するのは困難とされています。選手の母は、地元メディアに対し「本人が向かう方向をバックアップする」と心境を述べています。X(旧Twitter)では、コーチの対応を批判する声や、ウィンタースポーツでの類似問題の多さを指摘する投稿が見られます。
