コンビニ業界におけるセブンイレブンの苦戦

コンビニ業界におけるセブンイレブンの苦戦とローソン・ファミリーマートの好調の理由

はじめに

日本のコンビニエンスストア業界は、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートの3社が市場を牽引しています。しかし、2024年および2025年の業績を見ると、ローソンとファミリーマートが増収増益を達成する一方、業界首位のセブンイレブンは減収減益に陥り、明暗が分かれています。この記事では、3社の戦略や業績を比較しながら、セブンイレブンが苦戦している理由を詳しく分析します。

業績比較:2024年3~8月期の概況

2024年3~8月期の決算を基に、3社の業績を比較します。ローソンは営業収益が前年同期比4.9%増の5721億円、事業利益が3.4%増の548億円と、売上高、営業利益、当期利益全てで過去最高を記録しました。ファミリーマートは営業収益が1.4%減の2575億円だったものの、事業利益はほぼ横ばいの517億円を維持し、既存店売上高は6カ月連続で前年を上回りました。一方、セブン&アイ・ホールディングス(セブンイレブン)は国内コンビニ事業で営業総収入が1.7%減の8794億円、営業利益が6.9%減の2337億円と減収減益に転じました。特に、セブンイレブンは既存店売上高が6~9月期で4カ月連続前年割れとなるなど、明確な苦戦が見られます。

セブンイレブンが苦戦する主な理由

セブンイレブンの苦戦には複数の要因が絡んでいます。以下に主要な理由を挙げます。

  • 価格戦略と消費者イメージの悪化
    セブンイレブンは高付加価値戦略を掲げ、プレミアム商品や独自のプライベートブランド(セブンプレミアム)を展開してきました。しかし、2022年以降の物価高に伴う値上げが顕著で、例えばホットコーヒーSサイズが110円から120円に、おにぎりや弁当も150円から250円近くに上昇するケースが見られました。この値上げが、消費者の節約志向と相まって「セブンは高い」というイメージを強め、客離れを招いています。特に、上げ底容器やパッケージによる「量が少ない」印象がSNSで拡散され、消費者信頼を損なう一因となっています。
  • セルフレジの導入による顧客体験の悪化
    セブンイレブンはセルフレジの導入を進めており、バーコード以外の操作を顧客に委ねるシステムを採用しています。これが、特に高齢者層を中心に使いづらいとの声が上がり、来店頻度の低下につながっています。対照的に、ローソンやファミリーマートは有人レジを維持しつつ、デジタルツールを補完的に活用しており、顧客体験のバランスが取れています。
  • 海外事業の低迷
    セブン&アイの2025年2月期第3四半期決算では、海外コンビニ事業(特に北米)の営業利益が32.1%減と大幅に落ち込みました。物価高や競争激化が影響し、国内事業の回復努力を相殺する形となっています。ローソンやファミリーマートも海外展開を進めていますが、セブンイレブンの海外店舗数(約6.3万店)は規模が大きく、海外事業の不振が全体業績に与える影響が大きいです。

ローソンの好調要因

ローソンは、2024年3~8月期に唯一の増収増益を達成しました。その要因は以下の通りです。

  • 商品力の強化とPB刷新
    ローソンは「まちかど厨房」や新PB「3つ星ローソン」を展開し、約1000アイテムを統一ブランドに刷新。コスパやタイパを意識した商品開発で、客単価と客数をともに伸ばしました。特に、名店監修のグルメフェアやPontaパス会員向けクーポン施策が好評で、既存店売上高は2.8%増、全店平均日販は57.4万円と過去最高を記録しました。
  • デジタル活用と効率化
    AIを活用した次世代発注システム「AI.CO」を全店舗に導入し、在庫管理やデリバリーサービスを最適化。KDDIとの連携による店舗・本部業務のデジタル変革(DX)で、30%以上の効率化を目指しています。これにより、人手不足の中でも生産性を向上させました。
  • 地域密着と多様な出店戦略
    ローソンは駅や病院、学校などへの出店拡大や、ドラッグストアとの提携によるヘルスケア強化型店舗を展開。地域ニーズに応じた店舗運営が、顧客の支持を得ています。

ファミリーマートの好調要因

ファミリーマートも堅調な業績を維持しています。その背景には以下の戦略があります。

  • オリジナル商品の強化
    プライベートブランド「ファミマル」やコンビニエンスウェアが好調で、既存店日商は42カ月連続で前年超えを達成。全国のおにぎり工場への最新機器導入や、伊藤忠グループの調達力を活用した米価高騰への対応も、商品力強化に寄与しています。
  • 不採算店舗の整理
    ファミリーマートは不採算店舗の閉鎖を進め、収益性の高い店舗に注力。2025年1月時点で店舗数は前年比0.29%減ですが、既存店売上高は6カ月連続増(6月:2.9%増、11月:5.3%増)で、効率的な店舗運営が奏功しています。
  • 新ビジネスへの投資
    無人決済店舗やデジタルサイネージ、ファミペイを活用した金融・広告事業を拡大。物流面ではローソンとの共同輸送を開始し、CO2削減とコスト効率化を実現しています。

セブンイレブンの挽回策と今後の課題

セブンイレブンは苦戦を挽回すべく、下期に「うれしい値!宣言」を実施し、手頃な価格帯の商品を強化。若年層の来店増につながる兆しを見せています。また、100円ショップのダイソー商品導入やデリバリーサービス「7NOW」の全店展開を計画し、新規顧客獲得を目指しています。しかし、以下の課題が残ります。

  • 消費者イメージの改善
    「高い」「量が少ない」といった負のイメージを払拭するため、価格と価値のバランスを見直す必要があります。特に、上げ底容器問題への対応や透明性の向上が求められます。
  • 顧客体験の最適化
    セルフレジの利便性向上や、有人レジの選択肢維持が、高齢者やデジタルに不慣れな層の取り込みに不可欠です。
  • 海外事業の立て直し
    北米市場での競争激化や物価高への対応が急務。PB商品の強化や現地ニーズに合わせた商品開発が必要です。

結論

ローソンとファミリーマートは、消費者ニーズに合わせた商品開発、デジタル活用、効率的な店舗運営で好調を維持しています。一方、セブンイレブンは値上げによる客離れ、セルフレジの問題、海外事業の低迷が重なり、業界首位の地位に陰りが見えます。セブンイレブンが今後挽回するには、価格戦略の見直しと顧客体験の改善が急務です。コンビニ業界は競争が激化する中、各社の戦略の差が業績に明確に表れており、セブンイレブンの「独り勝ち」時代は過去のものとなりつつあります。引き続き、3社の動向に注目が必要です。