メディアの選挙前の報道とその意図
メディアが選挙前に「選挙に行こう」と呼びかけるのは、民主主義の基盤である投票率の向上を促すため、あるいは公共の関心を高めるための一種の社会的責任として行われることが多いです。しかし、メディアの多くは特定の政治的傾向やイデオロギーを持ち、意図的または無意識に特定の政党や政策を支持する傾向が見られる場合があります。特に日本のメディアは、歴史的に自民党や立憲民主党といった主要政党に注目しがちで、新興勢力や非主流派の政党(例えば参政党や国民民主党)に対しては、選挙前に十分な注目を与えないこともあります。
メディアが「選挙に行こう」と呼びかけた背景には、投票率が上がれば「反自民」の票が立憲民主党に流れるという期待があった可能性は否定できません。2025年参院選の事前調査では、自民党の支持率が低下(例:NHK世論調査で24.0%、2012年政権復帰以降最低)しており、立憲民主党が野党第一党として議席を増やす可能性が予測されていました(NHK予測:18~30議席)。メディアの一部は、こうした情勢を基に、反自民票が立憲民主党に集約されると想定していたかもしれません。
実際の選挙結果とメディアの反応
2025年参院選の結果は以下の通りでした
- 自民党:39議席(選挙区27、比例12)
- 立憲民主党:22議席(選挙区15、比例7)
- 国民民主党:17議席(選挙区10、比例7)
- 参政党:14議席(選挙区7、比例7)
- 公明党:8議席
- 日本維新の会:7議席
- その他(れいわ新選組3、日本保守党2、社民党1など)
自民党は過去3番目の低さ(39議席)で過半数を割り、立憲民主党は議席を維持したものの予想されたような大幅な伸長は見られませんでした。一方、国民民主党と参政党がそれぞれ17議席、14議席と大幅に議席を増やし、特に参政党は改選1議席から飛躍的に躍進しました。
メディアの反応の背景
この結果に対し、メディアや一部のコメンテーターが「知識のない人は選挙に行くな」「参政党叩き」に走った背景には、以下の要因が考えられます
- 予想外の結果への驚きと反発:参政党の「日本人ファースト」などの主張や、SNSを活用した戦略が若者やネットユーザーの支持を集め、予想以上に議席を獲得したことが、既存のメディアやリベラル層に衝撃を与えた可能性があります。
- 立憲民主党への期待の裏切り:メディアやリベラル層の一部は、立憲民主党が反自民票の受け皿になると期待していましたが、比例票分析では国民民主党が自民党に次ぐ762万票を獲得し、参政党が立憲民主党を上回る票数を獲得するなど、反自民票が分散した結果、立憲民主党の議席は横ばいにとどまりました。この「想定外」の結果が、メディアの苛立ちや参政党への批判的な報道につながった可能性があります。
- 参政党への警戒感:参政党の神谷宗幣代表の発言(例:「高齢の女性は子どもを産めない」)や、外国人政策に関する議論(「日本人ファースト」)が、メディアやリベラル層から「排外主義的」と受け止められ、批判の対象となった。X上でも、参政党の躍進を「極右カルト」「民主主義の危機」と捉える投稿が見られました。一方で、参政党支持者はこれを「レッテル貼り」と反発し、SNSでの拡散を通じて支持を広げました。
メディアの想定と現実のギャップ
「選挙に行く人が多ければ立憲民主党の議席が伸びるとでも思っていたのだろうか?」
メディアの想定
投票率が上がれば、自民党の支持率低下(24.0%)を背景に、立憲民主党が野党第一党として反自民票を吸収し、議席を大幅に増やすと期待していた可能性があります。特に、立憲民主党の野田佳彦代表が「政権交代」を訴え、内閣不信任案の提出を示唆していたことから、メディアは立憲民主党を中心とした野党連合の台頭を予想していたかもしれません。
現実の結果
投票率は前回より6.46ポイント高い58.51%だったものの、反自民票は立憲民主党ではなく、国民民主党や参政党に分散しました。特に国民民主党は「手取りを増やす」「ガソリン税暫定税率廃止」などの政策が若者層(18~29歳で10%、30代で20%の支持率)に響き、参政党もSNS戦略で30代以下の支持を集めました。この分散が、立憲民主党の議席増を抑える結果となり、メディアの想定とのギャップを生んだと考えられます。
メディアの「知識のない人は選挙に行くな」という反応について
この反応は、参政党や国民民主党の躍進を「予想外」かつ「好ましくない」と捉えた一部メディアやコメンテーターの感情的な反発を反映していると言えます。
- 知識の定義の偏り:メディアやリベラル層が「知識のある投票」を、自身の価値観や政策(例:多様性、反排外主義)に合致する投票とみなす傾向がある場合、参政党のような新興勢力への支持は「無知」や「感情的な選択」と見なされることがあります。しかし、参政党の支持者は、街頭演説やSNSを通じた情報発信に共感し、積極的に支持を表明しており、これを「知識不足」と一括りにするのは支持者の動機を無視した批判と言えます。
- SNSの影響力への不慣れ:参政党の躍進は、SNSや街頭演説の拡散に支えられました。従来のメディアは、こうしたネット中心の選挙戦略に十分対応できず、参政党の支持拡大を過小評価していた可能性があります。結果として、予想外の躍進に対する苛立ちが、「知識のない投票」との批判につながったと考えられます。
- 民主主義への矛盾した態度:選挙前に「投票に行こう」と呼びかけながら、結果が期待と異なる場合に「知識のない人は投票するな」と言うのは、民主主義の原則(全ての有権者の自由な選択)を否定する矛盾した態度です。これは、メディアが特定の結果を期待し、それが実現しなかった場合のフラストレーションの表れと言えます。
結論
メディアが「選挙に行こう」と呼びかけた背景には、投票率向上による反自民票の立憲民主党への集中を期待した可能性があります。しかし、2025年参院選では、反自民票が国民民主党や参政党に分散し、立憲民主党の議席は横ばいにとどまりました。このギャップが、メディアや一部コメンテーターの参政党批判や「知識のない人は選挙に行くな」といった反応につながったと考えられます。特に参政党のSNS戦略や「日本人ファースト」などの訴えが若者層に支持されたことは、従来のメディアの影響力低下を示しており、メディアの想定と現実の乖離を浮き彫りにしました。
この現象は、メディアが民主主義の多様な声を十分に反映できていない可能性や、SNS時代における新たな選挙運動の影響力を示しています。参政党や国民民主党の躍進は、有権者が従来の二大政党(自民・立憲)以外の選択肢を積極的に選んだ結果であり、メディアはこれを「無知」と批判するよりも、有権者の動機や新たな政治潮流を分析する姿勢が求められるでしょう。