日銀利上げ後もドル円が157円超え、円安継続の背景と主な要因

日銀利上げ後のドル円157円超えの概要
利上げ後も円安が継続した主な要因

日銀利上げ後のドル円157円超えの概要

2025年12月19日、日本銀行(日銀)は政策金利を0.25%引き上げ、0.75%としました。これは1995年以来の最高水準となる決定で、インフレ圧力への対応を目的としたものです。しかし、この利上げ決定後もドル円相場は円安方向に進み、157円を超える水準を記録しました。12月19日の高値は157.755円に達し、利上げが即時の円高効果を生まなかったことが明らかになりました。

利上げ決定の背景

日銀の決定は、11月のコア消費者物価指数が前年比3.0%上昇したインフレ環境を反映したものです。これにより、短期政策金利は0.5%から0.75%へ調整され、30年ぶりの高水準となりました。日銀は実質金利が依然として大幅にマイナス圏にあるとし、緩和的な金融環境を維持する方針を示しました。

為替市場の即時反応

利上げ発表直後、ドル円は155円台から157円台へ急伸しました。10年国債利回りも2%を超え、1999年以来の水準となりました。この動きは、市場が日銀の利上げを事前に織り込んでいたことを示しています。

利上げ後も円安が継続した主な要因

日銀が利上げに踏み切ったにもかかわらず、なぜ円安が進んだのか。そこには複数の構造的・心理的要因が絡み合っています。

1. 日米金利差の継続と「期待外れ」の利上げペース

米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利が3.5-3.75%という高い水準にある中、日銀の0.75%は依然として低く、日米の金利差は約300ベーシスポイント弱存在します。市場は日銀の利上げが「慎重すぎる」と見ており、依然として円を売ってドルを買うキャリートレードの優位性が揺るがなかったことが大きな要因です。

2. 「材料出尽くし」による投機筋の買い戻し

為替市場では利上げが事前に相当程度織り込まれていたため、発表後は「事実で売り(Sell the fact)」の動きが強まりました。利上げ期待で円を買っていたトレーダーが利益確定の円売りに動いたこと、また植田総裁の会見が先行きの利上げに慎重なトーンを含んでいたことが、ドル買い・円売りを再燃させました。

3. 構造的な実需の円売り(デジタル赤字とNISA)

金利差以上に深刻なのが、日本経済の構造的な円売りフローです。

  • デジタル赤字の拡大:海外クラウドサービスや広告への支払いによる恒常的なドル需要。
  • 個人マネーの流出:新NISAを通じた海外投資信託(オルカン・S&P500等)への積立投資が定着し、家計から毎月数千億円規模の円売りが機械的に発生しています。

これらの「実需」は金利差に関わらず発生するため、円高への戻りを抑える強力な重石となっています。

4. 米国経済のレジリエンス(強靭さ)

日本側の要因だけでなく、米国側の要因も無視できません。最新の米雇用統計や消費指標が市場予想を上回る堅調さを示していることから、「ドルそのものが強い」状況が続いています。FRBの利下げ開始が想定より遅れるとの観測が、ドル高・円安を支えています。

5. 財政の持続可能性への懸念

政府が閣議決定した18.3兆円の補正予算のうち、約6割が新規国債で賄われるなど、財政拡大への警戒感が広がっています。利上げは債務返済コストの増大を意味するため、日本の財政健全化に対する不透明感がJGB(日本国債)の売却を誘発し、長期金利の上昇とセットで「日本売り」の様相を呈しています。

今後の展望とリスク

日銀の利上げという「伝家の宝刀」を抜いた後も円安が止まらない現状は、通貨当局にとって極めて厳しい局面です。今後は政府による為替介入の可能性に加え、さらなる金利上昇が国内景気に与える副作用(住宅ローン金利の上昇や中小企業の利払い負担)にも注目が集まります。ドル円157円台の定着は、日本のインフレをさらに加速させる輸入物価の上昇を招くリスクを孕んでいます。