・アサヒグループHDのサイバー攻撃被害と復旧の見通し
・ランサムウェアから企業を守るための実践的防御策8選
アサヒグループHDのサイバー攻撃被害と復旧の見通し
アサヒグループホールディングス(以下、アサヒHD)は、2025年9月29日以降に発生したサイバー攻撃により、社内システムに深刻な障害が生じ、商品の受注や出荷業務が一時停止する事態に陥りました。この攻撃はランサムウェアによるもので、身代金支払いを拒否した同社は、システムの封じ込めと復元作業を進めてきました。27日に行われた記者会見で、勝木敦志社長は、完全復旧の見通しについて「2026年2月以降」と明言し、関係者への謝罪を述べました。
攻撃の影響と被害状況
今回のサイバー攻撃により、アサヒHDの内部システムが侵害され、顧客や従業員の個人情報約191万件の流出が懸念されています。これは、攻撃者がデータを盗み出した可能性が高いことを示すものです。システム障害の影響で、主にビール「スーパードライ」などの主力商品の受注・出荷が停止していましたが、同社は手作業による電話やファクスでの対応を余儀なくされ、業務の混乱を最小限に抑える努力を続けてきました。社長の勝木氏は会見で、「多くのお客様、関係先の皆様に多大なるご迷惑をおかけしている」と陳謝し、被害の深刻さを認めました。
復旧スケジュールと対応策
アサヒHDは、システムの復旧を段階的に進めています。まず、2025年12月2日からシステム経由での受注を順次再開する予定です。これにより、手作業中心の業務からデジタル化への移行が図られます。さらに、物流業務全体の正常化を2026年2月までに目指しますが、社長は完全復旧、すなわち通信経路やネットワークの再設計を含む全システムの安定化については「2月以降」との見通しを示しました。この遅れの要因として、攻撃の封じ込め後の徹底したセキュリティ強化と、再発防止のための基盤整備が挙げられます。同社は身代金を支払わず、自力での復旧を選択しており、外部専門家との協力のもとで作業を継続中です。
今後の展望と注意点
完全復旧が2026年2月以降にずれ込むことで、一部の商品出荷が制限される可能性が残りますが、アサヒHDは主力商品の供給を優先し、顧客への影響を軽減する方針です。また、個人情報漏洩のリスクに対し、影響を受けた可能性のある方に通知とサポートを提供する体制を整えています。この事件は、企業におけるサイバーセキュリティの重要性を改めて浮き彫りにするものであり、同社の対応が今後の業界標準に影響を与える可能性があります。
ランサムウェアから企業を守るための実践的防御策8選
近年、アサヒグループHDをはじめとする大手企業でも被害が相次いでいるランサムウェア攻撃。攻撃者は一度侵入すれば横移動を行い、重要なデータを暗号化して身代金を要求します。以下に挙げた8つの対策は、国内外のセキュリティ機関(JPCERT/CC、CISA、NISTなど)や実際のインシデント対応経験から「最も効果が実証されている」基本対策です。特別な予算がなくても、今日から実行可能な項目から順に取り組みましょう。
1. 端末への管理者権限を極力与えない(原則一般ユーザー権限で業務)
ランサムウェアの多くは、実行時に管理者権限を求めてUACプロンプトを表示します。一般ユーザー権限であれば、仮にマルウェアに感染してもシステム全体への暗号化やレジストリ改変が大幅に制限されます。Microsoftも「Least Privilege(最小権限の原則)」を最優先推奨しており、実際の攻撃解析でも管理者権限付与端末は被害が2〜5倍に拡大する傾向が確認されています。
2. ローカル管理者アカウントのパスワードを強力化&定期変更、可能ならLAPS導入
攻撃者はPass-the-Hashやローカル管理者アカウントのブルートフォースで横移動します。すべてのPCで同一のローカル管理者パスワードを使用している環境は極めて危険です。Microsoft LAPS(Local Administrator Password Solution)を導入すれば、各端末ごとにランダムで強力なパスワードを自動設定・管理できます。無料で利用可能で、中小企業でも広く採用されています。
3. 重要なデータは定期的に別メディア・別ネットワークにバックアップ(3-2-1ルール)
ランサムウェア対策で最も確実な最終防衛線は「復旧可能なバックアップ」です。推奨されるのが3-2-1ルール:
・重要なデータのコピーを3世代保持
・2種類以上の異なるメディアに保存
・1つはオフラインまたは別ネットワークに保管
空き容量のあるNASに毎日差分バックアップ+週1回外付けHDDにコピー+月1回クラウド(Immutableストレージ推奨)という組み合わせが現実的です。
4. EDR(Endpoint Detection and Response)の導入
CISA(米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)は「ランサムウェア対策として最も効果が実証されているのはEDR」と明言しています。従来のアンチウイルスでは検知できないファイルレス攻撃や正規プロセス悪用型ランサムにも対応可能。CrowdStrike、Microsoft Defender for Endpoint、SentinelOneなどが実績豊富です。2025年現在、EDR未導入企業は被害発生時の復旧確率が大幅に低下することが統計的に示されています。
5. ネットワークのセグメント化(事務系/工場系/サーバー系を論理的・物理的に分離)
一つのフラットなネットワークでは、1台のPCが感染すると全サーバーまで数分で到達します。VLANやファイアウォールで「事務系」「工場・製造系」「サーバー・バックアップ系」を分離し、必要な通信のみを許可するマイクロセグメンテーションを実施することで、攻撃者の横移動を大幅に遅延・阻止できます。
6. USBデバイス制御(私物USB禁止+ホワイトリスト化)
ランサムウェアの初期侵入経路として依然として多いのがUSBメモリ経由です。グループポリシーや専用ツールで「許可された企業支給USBのみ使用可」に制限することで、従業員・協力会社が持ち込む私物USBによる感染リスクをほぼゼロにできます。
7. RDPやVPNはインターネットに直接さらさない(ゼロトラスト構成)
ポート3389(RDP)をインターネットに公開しているだけで、1日数万回のブルートフォース攻撃を受けます。RDP・VPNを利用する場合は、必ず
・ゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)
・多要素認証(MFA)必須
・IPホワイトリスト制限
・ジャンプサーバー経由
のいずれかを組み合わせ、直接露出をゼロにしてください。
8. Windows・業務ソフトの更新を確実に適用
ランサムウェアの約7割は、既知の脆弱性を悪用しています(2024年Verizon DBIRより)。特にPrintNightmare、EternalBlue、ProxyShellなどの永続的な人気脆弱性は今も攻撃されています。WSUSやIntune、自動更新を有効にし、月例パッチを遅くとも公開後14日以内に適用する体制を必ず構築してください。
これら8項目を確実に実行すれば、ランサムウェアの「侵入を100%防ぐ」ことは難しくても、「重大な業務停止や身代金支払いに至る被害」を9割以上低減できることが、国内外のインシデント統計で繰り返し証明されています。まずは現在の環境で「すぐに実行可能なもの」から着手し、段階的に強化していくことを強くおすすめします。
