認知的不協和理論の概要
認知的不協和理論は、1957年にレオン・フェスティンガーによって提唱された心理学の理論です。この理論によると、人々は自身の信念、態度、行動が互いに矛盾する場合に心理的な不快感(不協和)を感じ、それを解消するための認知の調整を行う傾向があります。この不協和の解消は、信念の変更、行動の正当化、または新たな情報の追加によって達成されます。
フェスティンガーとカールスミスの実験
認知的不協和理論を検証するための代表的な実験として、1959年にレオン・フェスティンガーとジェームズ・M・カールスミスが行った研究があります。この実験は、強制服従(forced compliance)の状況下で生じる認知的不協和を調べるものです。参加者はスタンフォード大学の男子学生で、実験の目的は、報酬の違いが態度変容に与える影響を測定することでした。
実験の目的
この実験の主な目的は、個人が自分の信念に反する行動を強制された場合に、認知的不協和が生じ、それを解消するために態度を変容させるかどうかを検証することです。特に、行動に対する報酬の額が不協和の程度に影響を与えるかをテストしました。仮説では、報酬が少ない場合の方が不協和が強く、態度変容が大きくなるというものでした。
実験の方法
参加者はまず、退屈で単調なタスク(例: ボード上のペグを1/4回転させる作業を1時間行う)を実行しました。その後、実験者の指示で、次の参加者にこのタスクが「非常に面白かった」と嘘をつくよう求められました。参加者は3つのグループに分けられました:
- 1ドルグループ: 嘘をつく対価として1ドルを受け取る。
- 20ドルグループ: 嘘をつく対価として20ドルを受け取る。
- コントロールグループ: 嘘をつかず、単にタスクの評価を行う。
最後に、参加者はタスクの面白さを1から11のスケールで評価しました。
実験の結果
結果として、1ドルグループの参加者はタスクをより面白かったと評価しました(平均評価: 約1.35)。一方、20ドルグループの評価は低く(平均評価: 約-0.05)、コントロールグループも同様に低評価(平均評価: 約-0.45)でした。この差は統計的に有意でした。
結果の解釈
この結果は、1ドルグループで認知的不協和が強く生じたことを示しています。報酬が少ないため、行動(嘘をつく)を正当化できず、不協和を解消するためにタスクに対する態度を変容させたのです。一方、20ドルグループでは高い報酬が行動の正当化となり、不協和が少なく、態度変容が起こりませんでした。この実験は、認知的不協和理論の有効性を支持する証拠を提供しました。
実験の意義と影響
この実験は、認知的不協和理論の基盤を確立し、社会心理学の分野で広く引用されています。以降の研究では、態度変容のメカニズムや、自己知覚理論との関連がさらに探求されました。ただし、実験の倫理的側面(参加者への欺瞞)については、現代の基準で議論されることがあります。
