米価維持のために食料安定供給を捨てるのか 2026年減産+おこめ券の深い矛盾

2026年コメ生産目標の新方針:主食用米生産を2.7万トン削減
鈴木農水相「市場原理」発言の直後に減産+おこめ券?
減産指導=価格カルテルと何が違うのか

2026年コメ生産目標の新方針:主食用米生産を2.7万トン削減

2025年11月25日時点で、新潟県は2026年産の主食用米生産目標を、前年の水準から2.7万トン減少させる56.2万トンに設定する方針を発表しました。この決定は、県の農業再生協議会で関係者による議論を経てまとめられたもので、主に民間在庫の過剰懸念に対応したものです。全国的な米需給の動向を踏まえつつ、地域レベルの生産調整が進められる中、この方針は食料自給率の維持と市場バランスの観点から注目を集めています。

具体的な生産目標と前年比

新潟県の2026年産主食用米生産目標は56.2万トンで、2025年産の59万トンから約4.6%の削減となります。この目標は、作付面積の調整を通じて実現される見込みです。県の担当者は、2026年6月末時点での主食用米民間在庫が適正量を上回る可能性を指摘し、2027年6月末の在庫を適正水準に抑えるための措置として位置づけています。

背景:米需給の変動と在庫過剰の懸念

日本全体の米市場では、2025年産の生産量が前年を上回る748万トンに達する見通しとなり、価格高騰が続いています。一方で、国内の主食用米需要は年間約700万トン前後で推移しており、インバウンド需要の増加や訪日外国人による消費拡大が一部でみられるものの、全体として在庫の積み上がり懸念が強まっています。農林水産省のデータによると、2026年産の全国主食用米生産量は711万トンに抑えられる方針で、前年比37万トンの減産となります。

新潟県の地域特性と協議会の役割

新潟県は日本有数の米どころとして知られ、生産量の約8%を占める主要地域です。県農業再生協議会は、JAや農家代表、行政が参加する場で、需給見通しに基づく生産目標を毎年策定しています。今回の決定では、2025年の豊作傾向と価格高止まりの状況を考慮し、過剰生産を避けるための自主的な調整が強調されました。農家の声として「価格が高止まりしすぎる中での減産は負担になる」との懸念も表面化しています。

高い米価維持と食料安定供給の理念との乖離

この生産削減方針は、在庫調整を名目に掲げつつ、結果として米価の安定・維持に寄与する側面が指摘されています。2025年を通じての米価高騰は、消費者物価指数の上昇要因の一つとなっており、政府は「おこめ券」などの支援策を導入しています。しかし、食料の安定供給を基本理念とする農林水産省の政策指針(食料・農業・農村基本法)では、国民への安定的な供給が最優先とされています。生産目標の削減が需給のタイトさを保つことで価格を支える場合、長期的な供給余力の低下を招き、気候変動や国際情勢による供給リスクへの耐性を弱める可能性があります。

価格動向のデータと消費者への影響

農水省の公表資料に基づく米価指数は、2025年10月時点で前年比約20%の上昇を示しており、主食用米の小売価格は1kgあたり400円を超える水準が定着しています。新潟県の減産方針は、この価格環境下で在庫を適正化する狙いですが、結果として2026年の供給量減少が価格のさらなる押し上げ要因となる懸念があります。一方、食料安定供給の観点から、備蓄米の買い入れ再開が全国で予定されており、短期的な不足リスクは緩和される見込みです。

今後の展望と政策課題

2026年産米の生産調整は、全国・地域レベルで連動して進む可能性が高く、農家の作付け意欲や収穫量の変動が鍵となります。食料安定供給の理念を再確認する上で、価格維持策と供給量確保のバランスが求められます。政府は、需給見通しの定期更新を通じて柔軟な対応を約束しており、消費者や生産者の動向を注視する必要があります。この方針が、持続可能な米政策の転機となるかどうかは、2026年の実績次第です。

鈴木農水相「市場原理」発言の直後に減産+おこめ券?

2025年に入ってからも、鈴木憲和農林水産大臣は繰り返し「米の価格は市場の需要と供給で決まる」と主張してきました。しかし、現実には政府・与党主導で「おこめ券」配布を決め、2026年産の主食用米生産量を全国で37万トン、新潟県だけで2.7万トン削減する方針を打ち出しています。市場原理を唱えながら、価格が下がるのを恐れて供給を人為的に絞る——このダブルスタンダードはあまりにも明らかです。

鈴木大臣の発言と実際の政策のギャップ

鈴木憲和大臣は国会答弁や記者会見で以下のように述べてきました。

「米価は基本的には需要と供給で決まるものであり、政府が直接価格を決めるものではない」

「市場メカニズムを尊重する」

ところが同じ時期に進められている政策は、完全に逆方向です。

  • 2025年10月 低所得世帯向け「おこめ券」配布を閣議了解(実質的な補助金)
  • 2025年11月 2026年産主食用米生産目標を前年比37万トン減の711万トンに決定
  • 新潟県など主要産地に減反相当の生産調整を強く要請

需要がほぼ横ばいであるにもかかわらず、供給を意図的に減らして価格を支える。これは「市場原理」の完全否定です。

おこめ券はなぜ必要だったのか

2025年10月時点の主食用米小売価格は60kg当たり約21,000~22,000円(新米5kgで2,000円超)と、平年比で大幅に高騰しています。消費者から「生活が苦しい」との声が上がり、与党内からも選挙への影響を懸念する声が続出しました。そこで急遽打ち出されたのが「おこめ券」です。

つまり、市場原理の結果生まれた高米価を、国民が耐えきれなくなったから税金で補填する——これが実態です。市場原理を信じるなら、高くなった米価に対して消費者が節約し、在庫が増え、価格が自然に下がるのを待つのが筋です。そこに介入するのは、まさに「市場原理の放棄」です。

減産指導=価格カルテルと何が違うのか

2026年産の生産目標711万トンは、需要見込み(約690~700万トン)をわずかに上回る水準に抑えられています。意図的に「需給をタイトに保つ」ことで、2025年のような価格下落を防ごうとしているのは明らかです。

過去の減反政策と本質は同じです

2018年に減反政策が「廃止」された際、政府は「生産調整はあくまで農家の自主的な判断」と強調しました。しかし実際には

  • 都道府県ごとの生産目安を提示
  • 目安を守らないと補助金が減額される仕組み
  • 実質的な強制力を持つ「要請」

という構造は今も変わっていません。形を変えた減反政策が復活したに等しい状況です。

大臣発言との決定的な矛盾点

鈴木大臣の発言(2025年) 実際の政策(2025-2026年)
「米価は需要と供給で決まる」 供給量を37万トン人為的に削減
「市場メカニズムを尊重する」 高くなりすぎた米価を税金(おこめ券)で補填
「生産調整は農家の自主的判断」 目標未達成で補助金減額の圧力

結論:市場原理は都合のいい時だけ持ち出す道具です

農林水産省・政府が本当に市場原理を信じているなら、2025年の高米価に対して何もしないのが筋です。価格が高ければ消費が減り、在庫が増え、来年は自然に価格が下がる——それが本来の市場原理です。

しかし現実には、

  • 消費者から悲鳴が上がれば → おこめ券で税金を投入します
  • 来年価格が下がりそうなら → 減産指導で供給を絞ります

都合のいい時だけ「市場原理」を持ち出し、都合が悪くなると即座に介入する。このダブルスタンダードこそが、米政策に対する国民の不信を深めている最大の原因です。

鈴木大臣は国会でこう答弁した方が正直だったかもしれません。

「米価は需要と供給で決まる……ただし、私たちに都合のいい範囲で」

この矛盾を私たちはしっかりと見つめ、声を上げていく必要があります。米政策の本質的な見直しが、今こそ求められています。