ニデックの株価がストップ安

2025年10月28日、東京株式市場で精密モーター大手のニデック(コード:6594)の株価が急落し、ストップ安水準に達しました。この出来事は、同社のガバナンス問題と不適切な会計処理の疑いが重なり、投資家の信頼を大きく損なった結果です。ニデックはこれまで精密小型モーターやHDD用スピンドルモーターなどで知られるグローバル企業でしたが、近年相次ぐ会計関連のトラブルが株価に深刻な影響を及ぼしています。本記事では、このストップ安の詳細を時系列で追いながら、原因と今後の展望を詳しく解説します。

ストップ安の詳細:株価の急落と市場反応

10月28日午前の取引で、ニデックの株価は前日比500円(19.45%)安の2070円50銭まで下落し、値幅制限の下限であるストップ安水準に到達しました。これは4月後半以来、約半年ぶりの安値更新であり、市場に大きな衝撃を与えました。ストップ安とは、株価が1日の値幅制限の下限に達し、取引が一時停止される状態を指しますが、この日は前日の終値2570円50銭から急激な売り注文が殺到した結果です。

この急落の直接的な引き金となったのは、以下の2つの発表です:

  • 東京証券取引所(JPX)が27日にニデック株を28日から「特別注意銘柄」に指定することを発表。内部管理体制の改善が必要と判断されたためです。
  • 日本経済新聞社が、日経平均株価の構成銘柄からニデックを除外し、11月5日からイビデンに置き換えることを発表。指数連動型ファンドからの大量売却が予想され、売り圧力を強めました。

これにより、機関投資家を中心にパニック売りが広がり、株価は瞬く間に下限に張り付きました。取引終了時にはストップ安が解除されず、終値も同水準で引けました。

ストップ安の根本原因:不適切会計処理の疑い

ニデックのストップ安は、単なる市場の反応ではなく、長期にわたる会計問題の蓄積が爆発した形です。発端は2025年9月3日の発表で、中国子会社(ニデックテクノモータの中国法人)で約2億円相当の購買一時金(取引先からの値引き分)を適切に処理しなかった疑いが発覚しました。これを受け、ニデック本体およびグループ会社で不適切な会計処理を示唆する資料が複数発見され、経営陣がこれに「関与または認識」していた可能性が指摘されました。

同社は即座に外部弁護士らによる第三者委員会を設置し、事実関係の調査を開始。調査の結果、2025年3月期の有価証券報告書(有報)の適正性について、監査法人が「意見不表明」とする事態に発展しました。これは、監査人が財務諸表の信頼性を保証できないことを意味し、投資家にとって最大級の警戒信号です。

さらに、過去のトラブルも影を落としています:

  • 2024年5月:子会社の売上高計算ミスなどが発覚し、2023年3月期と2024年3月期の連結純利益を計82億円下方修正。
  • 2025年6月:イタリア子会社の貿易取引問題で、有報提出期限を9月26日まで延期。
  • 2025年9月4日:不適切会計発表直後、株価が前日比700円(22%)安の2420円でストップ安(2回目のストップ安)。
  • 2025年10月23日:2026年3月期の業績予想を「未定」に変更し、中間配当を無配に転落(従来予想20円)。

これらの連鎖が、ガバナンスの不備を露呈し、市場の信頼を失わせました。SMBC日興証券の分析では、「機関投資家を中心にガバナンスを不安視し、有報提出の再延期も懸念される」と指摘されています。

市場への波及効果:社債市場と指数除外の影響

株価のストップ安は、株式市場にとどまらず、社債市場にも悪影響を及ぼしました。2027年11月償還のニデック社債のスプレッド(国債との利回り格差)は、9月初旬の29ベーシスポイント(bp)から44bpへ拡大。信用リスクの高まりを反映しています。

また、日経平均からの除外は、ETF(上場投資信託)やインデックスファンドからの機械的な売り注文を誘発。代わりに追加されるイビデン株は一時21%高と上昇しましたが、ニデックにとっては流動性の低下とさらなる株価下落のリスクを増大させました。日経株価指数300や日経500種平均からも除外されるため、全体的な投資魅力が低下しています。

ニデックの対応と今後の展望

ニデックは28日、特別注意銘柄指定に対する声明を公表。「第三者委員会の調査に全面的に協力し、ガバナンスおよび内部管理体制の整備・強化を図り、信頼回復に尽力する」と表明しました。調査結果次第では、過年度決算の訂正や追加の業績下方修正が発生する可能性が高く、2026年3月期の通期純利益予想(従来2000億円)は未定のままです。

投資家にとっては、第三者委員会の報告書公表(未定)を注視する必要があります。ガバナンス改革が成功すれば回復の道筋が見えますが、問題の深刻化が続けば上場廃止リスクすら囁かれる状況です。精密モーター市場での競争力は健在ですが、まずは透明性の回復が急務です。