年金制度と国の負担額(歳出)について

日本の年金制度について
公的年金保険料の支払い状況
公的年金収支と差額補填の仕組
国庫負担(歳出)と社会保障関係費の関係

日本の年金制度について

日本の年金制度は、老後の生活を支える重要な社会保障制度です。主に公的年金として「国民年金」と「厚生年金」があり、これに私的年金が加わることで、3階建ての構造を形成しています。以下では、年金制度の概要、国が1年間で支払う総額、受給者数、そして関連する詳細情報を解説します。

年金制度の概要

日本の公的年金制度は、20歳以上60歳未満のすべての国民が加入する「国民年金」と、会社員や公務員が加入する「厚生年金」の2つで構成されています。国民年金は老齢基礎年金を支給し、厚生年金は老齢基礎年金に上乗せして老齢厚生年金を支給します。さらに、個人型確定拠出年金(iDeCo)や企業年金などの私的年金が存在し、老後の収入を補完します。受給開始は原則65歳ですが、繰り上げ(60歳~64歳)や繰り下げ(66歳~75歳)も可能です。

国が1年間で支払う年金の総額

2023年度(令和5年度)の公的年金の総支出額は、厚生労働省のデータによると約57.7兆円です。この金額は、国民年金、厚生年金、障害年金、遺族年金などを含む公的年金全体の支出です。このうち、老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)が大半を占め、約80%以上が老齢年金関連の支給とされています。総額は物価や賃金の変動に応じて毎年改定され、2025年度は1.9%増となる見込みですが、マクロ経済スライドにより実質的な価値は目減りする可能性があります。

年金受給者数

2023年度時点で、公的年金の受給者数は約4,070万人です。このうち、老齢基礎年金(国民年金)の受給者は約2,900万人、老齢厚生年金の受給者は約1,800万人です(一部は両方を受給)。受給者数は高齢化に伴い増加傾向にあり、特に65歳以上の高齢者が大半を占めます。なお、厚生年金の受給者数は会社員や公務員の加入期間に依存するため、国民年金のみの受給者に比べて少ない傾向があります。

年金の種類と平均受給額

年金には主に以下の種類があります:

  • 老齢基礎年金:2025年度の満額は月額6万9,308円(年額83万1,700円)。40年間保険料を納付した場合に満額受給が可能で、納付期間が短い場合は比例して減額されます。2023年度の平均受給額は月額5万7,584円。
  • 老齢厚生年金:収入や加入期間に応じて変動し、2023年度の平均受給額は月額14万6,429円(国民年金分含む)。モデル世帯(夫が平均収入で40年働き、妻が専業主婦)の場合、2025年度の夫婦合計は月額23万2,784円。
  • その他の年金:障害年金や遺族年金もあり、これらは受給資格や条件に応じて支給されます。

年金財源とマクロ経済スライド

年金の財源は、現役世代が納める保険料、国の負担(税金)、および年金積立金の運用益で賄われています。2025年度の国民年金保険料は月額1万7,510円で、物価や賃金の変動に応じて改定されます。年金財政の健全化のため、「マクロ経済スライド」が導入されており、2025年度は0.4%の調整率が適用され、賃金上昇率(2.3%)を下回る1.9%の年金額増となる。これは、将来の給付水準を維持するための仕組みですが、実質的な受給額の目減りにつながります。

年金受給額を増やす方法

年金受給額を増やす主な方法は以下の通りです:

  • 保険料の追納:免除や猶予期間がある場合、10年以内に追納することで受給額を増やせます。
  • 任意加入:60歳以降65歳まで(または70歳まで特例で)国民年金に任意加入し、納付期間を延長。
  • 付加年金:国民年金に月400円の付加保険料を上乗せし、受給額を増やす(例:5年加入で年1万2,000円増)。
  • 繰り下げ受給:受給開始を遅らせると、1カ月につき0.7%増額(75歳までで最大84%増)。
  • 厚生年金加入の延長:70歳まで厚生年金に加入し、受給額を増やす(例:年収300万円で10年加入すると年約17万円増)。
  • 私的年金:iDeCoやNISAを活用し、税制優遇を受けながら老後資金を準備。

老後の生活費と年金の役割

総務省の2023年家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均生活費は月額約25万円、ゆとりある生活には約37万9,000円必要とされています。国民年金のみでは不足し、厚生年金でも不足する可能性があるため、貯蓄や私的年金での補完が推奨されます。公的年金は老後資金の基盤ですが、不足分を補う計画的な準備が重要です。

年金制度の課題と展望

少子高齢化による労働人口の減少や賃金の停滞は、年金財源に影響を与えています。マクロ経済スライドによる調整は、将来世代の負担を軽減する一方、現在の受給者の実質受給額を抑える要因です。今後、経済成長や労働力人口の増加が年金額の安定に影響を与えるため、個人でも資産形成や働き方の工夫が求められます。また、「ねんきん定期便」や日本年金機構のシミュレーターを活用し、自身の受給額を確認することが重要です。

2023年度の公的年金保険料の支払い状況

公的年金保険料を支払っている人の人数

2023年度(令和5年度)の公的年金保険料を支払っている人の総数は、厚生労働省のデータによると約6,700万人です。この人数には、国民年金に加入する第1号被保険者(自営業者やフリーランスなど、約1,400万人)、第2号被保険者(会社員や公務員など、約4,000万人)、第3号被保険者(被扶養配偶者、約900万人)が含まれます。これらの被保険者が保険料を納付し、年金制度の財源を支えています。

2023年度の公的年金保険料の支払総額

2023年度の公的年金保険料の総額は、国民年金と厚生年金の保険料収入を合わせて約34.5兆円です。この内訳は、国民年金保険料が約2.8兆円、厚生年金保険料が約31.7兆円です。国民年金保険料は月額1万6,520円で、第1号被保険者が主に納付。厚生年金保険料は、給与や賞与に基づき労使折半で納付され、保険料率は18.3%です。なお、これに国の負担(税金)や年金積立金の運用益が加わり、年金給付の財源となります。

公的年金収支と差額補填の仕組み

2023年度の年金収支の概要

2023年度(令和5年度)の公的年金の総支出額は約57.7兆円、保険料収入は約34.5兆円であり、その差額は約23.2兆円となります。この差額は、公的年金制度の持続性を維持するために、複数の財源を組み合わせて補填されています。以下で、その具体的な仕組みを解説します。

差額23.2兆円の補填方法

公的年金の収支差額を埋めるために、以下の財源が主に活用されています:

  • 国庫負担(税金):国民年金の基礎年金部分は、法律に基づき国が費用の2分の1を負担します(2020年度以降)。2023年度では、国庫負担として約10.2兆円が投入されており、この金額は一般会計からの税金で賄われます。厚生年金の一部も基礎年金勘定に繰入れられ、国民年金の給付を支えています。
  • 年金積立金の運用益:年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が管理する積立金の運用益も重要な財源です。2023年度には、GPIFが約34.3兆円の運用益を計上し、過去最高を記録しました。この運用益の一部が、収支差額の補填に充てられます。
  • 厚生年金からの繰入れ:厚生年金保険料の一部(約23兆円)が、基礎年金勘定に繰り入れられ、国民年金の給付を支えます。これは、会社員や公務員の保険料が自営業者などの国民年金受給者を間接的に支援する仕組みです。

具体的には、2023年度の収支差額23.2兆円の補填は、国庫負担(約10.2兆円)とGPIFの運用益を中心に行われ、不足分は年金積立金の取り崩しや厚生年金からの繰入れで調整されます。なお、積立金の総額は2023年度時点で約271兆円(公的年金全体の55%)に及び、将来の給付に備えています。

年金財政の課題

この差額補填の仕組みは、少子高齢化による労働人口の減少や高齢者人口の増加により、将来的に持続可能性が課題となっています。2023年度の出生数は過去最低を記録し、総生育率は1.20に低下する一方、2070年には65歳以上の人口が約40%に達すると予測されています。 このため、年金積立金の運用益への依存度が高まり、市場リスクが増大しています。また、国庫負担の増大は財政赤字を拡大させ、将来世代への負担先送りとの批判もあります。

今後の展望

年金制度の持続性を高めるため、政府はマクロ経済スライドの調整や、厚生年金の適用拡大(パートタイム労働者への適用)、受給開始年齢の引き上げ(最大75歳まで)などの改革を進めています。 しかし、抜本的な解決には、税収の増加や経済成長、労働力人口の確保が不可欠です。個人においては、iDeCoやNISAを活用した私的年金の積み立てが推奨されます。

国庫負担と社会保障関係費の関係

国庫負担(税金)10.2兆円と社会保障関係費

2023年度の公的年金に対する国庫負担(約10.2兆円)は、国の一般会計歳出における「社会保障関係費」に含まれています。社会保障関係費は、年金、医療、介護、福祉などの社会保障制度を支えるための予算で、2023年度の総額は約36.9兆円です。このうち、年金関連の国庫負担は基礎年金勘定(国民年金の給付費用)や厚生年金の基礎年金繰入分として計上されており、約10.2兆円がこれに該当します。具体的には、国民年金の給付費の2分の1(約9.8兆円)および厚生年金の一部繰入分が含まれます。

社会保障関係費の内訳

2023年度の社会保障関係費(約36.9兆円)の主な内訳は以下の通りです:

  • 年金関係:約12.5兆円(うち国庫負担10.2兆円が主に基礎年金に充当)。
  • 医療関係:約15.3兆円(健康保険や国民健康保険の補助など)。
  • 介護・福祉関係:約6.8兆円(介護保険や障害福祉サービスなど)。
  • その他:約2.3兆円(児童手当や生活保護など)。

年金に関する国庫負担は、社会保障関係費の約3分の1を占め、歳出全体(2023年度一般会計歳出:約114.4兆円)の約9%に相当します。この国庫負担は、主に消費税や所得税、法人税などの一般税収から賄われています。

確認ポイント

国庫負担が社会保障関係費に含まれることは、予算書や厚生労働省の資料で明確に示されています。ただし、年金以外の社会保障(医療や介護)にも多額の国庫負担が投入されているため、年金関連の10.2兆円は社会保障関係費全体の一部に過ぎません。また、年金財政の収支差額(約23.2兆円)は、国庫負担に加えて年金積立金の運用益や厚生年金の繰入れで補填されている点も重要です。