・FPパートナーに業務改善命令
・ネクステージにも業務改善命令
・金融庁の業務改善命令の強制力について
金融庁、「マネードクター」運営のFPパートナーに業務改善命令
金融庁は2025年8月6日、保険や資産形成に関する相談サービス「マネードクター」を運営する大手保険代理店FPパートナーに対し、保険業法に基づく業務改善命令を発出しました。顧客のニーズに応じた適切な商品提案が不十分で、特定の保険会社の商品を優先的に推奨する不適切な販売行為が疑われるとして、業界最大手に対する異例の措置となりました。
FPパートナーの問題点と金融庁の指摘
FPパートナーは全国に2500人を超える保険募集人を擁する訪問型保険代理店で、複数の保険会社の商品を取り扱う「乗り合い代理店」として知られています。金融庁の調査によると、同社は多額の広告料や顧客情報の提供といった便宜供与の見返りに、特定の生命保険会社の商品を優先的に顧客に推奨していた疑いが浮上しました。これにより、顧客が自身のニーズに合った商品を選択する機会が阻害されていると金融庁は指摘しています。特に、顧客の意向を確認する体制が不十分で、適切な業務運営が担保できていない点が問題視されました。さらに、顧客から「意向に合わない商品を勧められた」といった苦情が確認されており、業界全体の信頼性を損なう行為だと厳しく批判されています。
初の「比較推奨」違反に対する改善命令
乗り合い保険代理店には、顧客の意向に沿って最適な商品を提案する「比較推奨」の義務があります。金融庁は、FPパートナーがこの義務を適切に履行せず、特定の保険会社に偏った販売を行っていたとして、比較推奨を巡る業務改善命令を初めて発出しました。金融庁は2024年から同社への立ち入り検査を実施し、内部管理体制の不備や不適切な販売実態を確認。加えて、便宜供与に関与した8社の生命保険会社にも報告徴求命令を出し、関係の実態解明を進めています。
ネクステージにも業務改善命令
同日、金融庁は中古車販売大手で損害保険代理店を兼ねるネクステージに対しても、保険業法に基づく業務改善命令を発出しました。ネクステージでは、自動車保険の不正請求問題や企業統治体制の不備が指摘されています。
ネクステージの不正行為と金融庁の対応
ネクステージを巡っては、2023年9月に複数の従業員が友人名義で保険契約を捏造したり、保険契約を条件に車両価格を割り引く「特別利益の提供」といった不正行為が発覚。金融庁は2024年12月から同社への立ち入り検査を行い、不正請求事案への対応や社内調査が不十分だと判断しました。特に、過去の不正に対する真因分析や再発防止策が不十分で、場当たり的な対応に終始している点が批判されています。東海財務局は、保険金の不正請求が現在も多数存在する可能性が高いと指摘し、企業統治の抜本的な見直しを求めています。
業界全体への影響と今後の課題
今回のFPパートナーとネクステージに対する業務改善命令は、保険代理店業界における顧客本位の業務運営の徹底を求める金融庁の姿勢を明確に示すものです。特に、FPパートナーの事例は、比較推奨義務の違反に対する初の処分として、業界に大きな波紋を広げています。金融庁は両社に対し、2025年10月までに業務改善計画の提出を求め、適切な管理体制の構築を強く促しています。また、保険業界全体に対して、顧客の利益を最優先にした販売体制の確立が急務とされています。
金融庁の業務改善命令の強制力について
金融庁が保険業法に基づいて発出する業務改善命令は、法的な強制力を持つ行政処分です。この命令は、保険会社や保険代理店などの金融機関が不適切な業務運営を行っていると判断された場合に、問題の是正を求めるために発出されます。以下では、その強制力の内容や影響について詳しく解説します。
業務改善命令の法的根拠
業務改善命令は、保険業法(平成7年法律第105号)第132条に基づいて発出されます。この条文では、金融庁が保険会社や保険代理店に対し、業務運営の健全性や顧客保護を確保するために必要な措置を講じるよう命じることができると定められています。命令を受けた企業は、指定された期限内に改善計画を提出し、実行する義務があります。この義務を怠った場合、さらなる行政処分や罰則が科される可能性があります。
強制力の内容
業務改善命令には以下のような強制力が伴います
- 改善計画の提出義務:命令を受けた企業は、通常1~2か月以内に具体的な業務改善計画を金融庁に提出する必要があります。たとえば、2025年8月6日にFPパートナーおよびネクステージに対して発出された命令では、2025年10月までに改善計画の提出が求められています。
- 履行の監視:金融庁は、提出された改善計画の実行状況を監視します。必要に応じて追加の検査や報告徴求を行い、改善が不十分な場合はさらなる措置(例:業務停止命令)を発出する可能性があります。
- 罰則の可能性:保険業法第133条に基づき、業務改善命令に違反した場合、企業やその役員に対し、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります(保険業法第317条)。
実際の影響と事例
業務改善命令は、企業の経営や業務運営に大きな影響を与えます。たとえば、FPパートナーの場合、特定の保険会社への偏った販売や顧客ニーズの軽視が指摘され、信頼性やブランドイメージの低下が懸念されます。また、ネクステージでは不正請求問題が発覚し、企業統治体制の抜本的な見直しが求められています。これらの企業は、命令に従わない場合、業務停止命令や登録取消といったより厳しい処分に直面するリスクがあります。過去の事例では、2018年に大手銀行が投資信託の不適切販売で業務改善命令を受け、業務プロセスの全面見直しを余儀なくされたケースがあります。
業界全体への波及効果
業務改善命令は、対象企業だけでなく、保険業界全体に対する警告としての役割も果たします。金融庁は、顧客本位の業務運営を徹底する方針を掲げており、今回のFPパートナーやネクステージへの命令は、比較推奨義務の違反や不正行為に対する厳格な姿勢を示しています。業界全体が内部管理体制やコンプライアンス強化に取り組む契機となるでしょう。
まとめ
金融庁の業務改善命令は、保険業法に基づく強制力を持つ行政措置であり、企業は命令に従い、期限内に改善計画を提出・実行する法的義務を負います。違反した場合、罰則やさらなる処分が科される可能性があり、企業にとって重大な影響を及ぼします。FPパートナーやネクステージの事例は、顧客保護と業界の信頼性向上を目指す金融庁の姿勢を反映しており、今後も同様の措置が強化される可能性があります。