・職代行「モームリ」の運営会社に対する家宅捜索の概要
・モームリの運営会社「アルバトロス」のプロフィール
・モームリ利用者が増えている要因
退職代行「モームリ」の運営会社に対する家宅捜索の概要
2025年10月22日、警視庁は弁護士法違反の疑いで、退職代行サービス「モームリ」を運営する会社「アルバトロス」(東京都品川区)に対し、家宅捜索を実施しました。この捜索は、報酬を得る目的で依頼者を弁護士に違法にあっせんし、紹介料を受け取っていた疑いが強まったことを受け、関係先複数箇所を対象とした一斉捜索です。主な対象はアルバトロス本社と、提携する都内の2つの弁護士事務所で、捜査員が午前9時頃から入室し、押収物を段ボールで運び出す様子が報道されました。
捜索の背景と経緯
モームリは2022年に創業したサービスで、利用者の代わりに企業へ退職の意思を伝える業務を主としています。累計利用者数は4万人を超え、特に20代の若者層に人気を集め、料金は正社員の場合2万2,000円、パート・アルバイトの場合1万2,000円と設定されています。しかし、退職交渉で残業代請求などの法的問題が発生した場合、依頼者を提携弁護士に紹介し、紹介料として弁護士から報酬を得ていた疑いが浮上。2025年4月頃に「週刊文春」などでパワハラ疑惑やキックバック(紹介料の還流)疑惑が報じられ、これが捜査のきっかけとなりました。谷本慎二社長は取材に対し無言を保ち、会社側は「事実関係の確認および適切な対応を進めてまいります」とコメントしています。
違反容疑の詳細:弁護士法違反とは
弁護士法は、弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で法律事務を扱う「非弁行為」や、弁護士業務のあっせんを禁じています。モームリの場合、法的交渉が必要となった依頼者を自社で請け負ったり、提携弁護士に斡旋して紹介料を受け取ったりした点が問題視されています。東京弁護士会も過去に「退職代行サービスには非弁行為が含まれる場合がある」と声明を出しており、専門家は「単なる意思伝達は合法だが、交渉業務が入ると違法の線引きが曖昧」と指摘。警視庁は押収資料の分析を通じて、刑事責任を問えるかを慎重に捜査中です。
モームリの運営会社「アルバトロス」のプロフィール
アルバトロスは退職代行「モームリ」の運営元で、東京都品川区に本社を置く中小企業です。創業者で代表取締役の谷本慎二氏(35歳)が率い、従業員数は約50名。サービス開始以来、24時間365日対応を売りにし、電話やSNSを活用した迅速な退職手続きで急成長を遂げました。公式サイトでは「退職成功率100%」を謳い、メディア露出も多く、日テレ「シューイチ」などで取り上げられています。しかし、内部では元従業員からの告発があり、社長のパワハラやブラック労働環境が指摘されていました。
サービスの特徴と実績
モームリは、利用者が退職の連絡を避けたいというニーズに応え、依頼後すぐに企業へ連絡。退職が確定するまでフォローアップします。実績として、3年で3万件以上の退職を確定させたとしており、宣伝トラックを街中で走らせるなど積極的なマーケティングを展開。利用者の6割以上が20代で、「入社式直後に依頼」といった事例も報告されています。一方で、法的トラブルが発生した場合の対応が不十分だった点が、今回の捜査につながりました。
社内の実態と過去の疑惑
元従業員の証言によると、社内は高プレッシャーで、社員の離職率が高く、社長の谷本氏による「社員全員の前での叱責」などが横行していたそうです。2025年4月の報道では、弁護士からのキックバック(違法報酬)疑惑が詳細に報じられ、谷本社長がSNSで釈明する事態に発展。家宅捜索後、警視庁は関係者数十人に任意事情聴取を実施し、さらなる事実解明を進めています。
モームリ利用者が増えている要因
モームリの利用者が急増している背景には、以下のような社会的・経済的要因が挙げられます。
若年層のメンタルヘルス意識の高まり
特に20代を中心に、職場でのストレスやパワハラに対する意識が高まり、直接対話を避けたいというニーズが増加。モームリは、気軽に依頼できる料金設定(2万2,000円~)と、LINEや電話での簡単な申し込み手順で、心理的ハードルを下げています。厚生労働省の調査では、若年層の約3割が「職場での人間関係に悩んだ経験がある」と回答しており、退職代行の需要を後押ししています。
SNSを活用した積極的なマーケティング
モームリはTikTokやTwitter(現:X)での広告展開に注力し、若者に身近なインフルエンサーを起用したプロモーションを展開。街中の宣伝トラックや「退職成功率100%」といったキャッチフレーズが注目を集め、気軽に利用できるイメージを構築。特に「入社数日で退職」といった事例がSNSで話題化し、バイラル効果で利用者が増加しました。
労働環境の変化と雇用の流動化
コロナ禍以降、リモートワークの普及や転職市場の活性化により、若年層のキャリア観が変化。「嫌なら辞める」という価値観が浸透し、退職代行サービスの需要が高まりました。モームリは24時間対応で即日退職を可能にし、ブラック企業や過重労働からの迅速な離脱を求める層に支持されています。実際、利用者の約7割が「上司との対話が苦手」と回答しています(モームリ公式データより)。
低価格とアクセスの容易さ
モームリの料金は業界内でも低価格帯に設定されており、弁護士事務所運営のサービス(5万円~)と比べ手軽。加えて、公式サイトやアプリでの申し込みが簡便で、深夜や休日でも対応可能。こうした利便性が、短期間での利用者4万人超えにつながりました。
社会的な退職への抵抗感の低下
近年、日本社会において終身雇用制度が薄れ、転職や退職に対する心理的抵抗が減少。特に若年層では、早期退職を「自己実現の一環」と捉える傾向が強まり、モームリのようなサービスが「気軽に辞められる手段」として受け入れられています。SNS上での「退職体験談」の共有も、利用の敷居を下げる要因となっています。
職場の人間関係やパワハラへの即時対応ニーズ
モームリは「即日対応」を強みとし、依頼から数時間で退職連絡を代行。パワハラや過酷な労働環境から即座に逃れたい利用者にとって、迅速性が魅力です。特に、精神的な負担を感じる若者が「自分で退職を切り出すストレス」を回避するために利用するケースが増加しています。
家宅捜索の影響と今後の展望
今回の家宅捜索により、モームリのサービスは一時的に停止または制限される可能性があり、利用者からの不安が高まっています。警視庁の捜査は継続中で、押収資料から違法行為の規模が明らかになれば、谷本社長ら幹部の逮捕・起訴も視野に入ります。一方、退職代行業界全体への波及効果も懸念され、弁護士監修の有無や業務範囲の明確化が求められています。利用を検討中の人は、信頼できる弁護士法人運営のサービスを選ぶよう専門家がアドバイスしています。
利用者へのアドバイス
退職代行を利用する際は、弁護士法違反のリスクを避けるため、弁護士や社労士が運営するサービスを選びましょう。モームリのような非資格者運営の場合、法的交渉が発生するとトラブルになりやすいです。万一の際は、労働基準監督署や弁護士会への相談をおすすめします。
業界への示唆と規制強化の可能性
この事件は、退職代行ブームの影の部分を露呈。政府や弁護士会が業界ガイドラインを強化する動きがあり、将来的に登録制や監修義務化が進む可能性があります。モームリのような人気サービスが摘発されたことで、利用者の信頼回復が急務です。
