・2025年度国家公務員採用試験(大卒程度試験)の合格者発表について
・国家公務員採用試験(技術系区分)の低迷理由
2025年度国家公務員採用試験(大卒程度試験)の合格者発表について
人事院は2025年8月12日、2025年度の国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)および専門職試験(大卒程度試験)の最終合格者を発表しました。以下では、一般職試験と専門職試験の合格状況や特徴について、人事院の公式発表に基づき詳しく紹介します。
一般職試験(大卒程度試験)の合格状況
2025年度の国家公務員一般職試験(大卒程度試験)は、8,815人の合格者を記録しました。これは前年度(7,557人)比で16.6%増となり、採用予定数の増加と新設された「教養区分」の影響が大きいと考えられます。ただし、技術系区分の合格者数は採用予定数を2年連続で下回りました。
区分別の合格者数
- 行政区分:5,846人(前年度6,075人)
- 技術系区分:1,206人(前年度1,482人)
- 教養区分:1,763人(2025年度新設)
新設された教養区分は、法律などの専門試験に代えて一般的な教養を基盤とした判断力や思考力を問う試験を実施。受験可能年齢が21歳以上から20歳以上に引き下げられ、大学3年生など若年層の受験を可能にしたことで、20歳の合格者が868人(教養区分合格者の49.2%)を占めました。
女性の合格状況
女性の合格者数は4,152人で、全体の47.1%を占め、2012年度以降の現行試験制度で過去最高を記録しました。区分別の女性合格者割合は以下の通りです:
- 行政区分:49.2%(前年度46.2%)
- 技術系区分:31.3%(前年度29.8%)
- 教養区分:51.1%(新設区分で半数超)
女性の合格者数および割合は、いずれも2012年度以降の最高値を更新し、多様な人材の登用が進んでいることを示しています。
技術系区分の合格者不足は課題
2025年度の国家公務員採用試験は、一般職試験で8,815人の合格者を輩出し、前年度比16.6%増を記録しました。新設の教養区分が若年層や女性の受験機会を拡大し、女性の合格者数(4,152人)および割合(47.1%)は2012年度以降の過去最高となりました。技術系区分の合格者不足は課題として残っています。
国家公務員採用試験(技術系区分)の低迷理由
2025年度の国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)において、技術系区分(機械、土木、建築、電気・電子、化学など)の合格者数は1,206人で、採用予定数1,682人を476人下回りました。これは2年連続の「定員割れ」で、技術系公務員の確保が課題となっています。以下では、技術系区分の低迷の理由を、複数の要因から考察します。
1. 公務員職の魅力低下と民間企業との競争
近年、国家公務員全体の志願者数が減少傾向にあり、特に技術系区分では民間企業との競争が激化しています。日本のトップ大学卒業生が公務員を避ける傾向が強まっており、2023年には国家公務員総合職試験の志願者数が2012年度比で約30%減少しました。技術系分野では、ITや製造業などの民間企業が競争力のある給与や柔軟な働き方を提示しており、特に若い技術系人材が民間を選ぶ傾向が顕著です。技術系公務員の初任給は民間企業のエンジニア職に比べ低めであり、キャリア初期の魅力が不足している可能性があります。
2. 過重な労働環境とワークライフバランスの課題
公務員の長時間労働が、技術系志願者の減少に影響を与えています。2023年の調査によると、20代の総合職公務員の30%以上が月80時間以上の残業を経験しており、「過労死ライン」に達するケースも報告されています。技術系公務員は、防災やインフラ整備など責任の重い業務を担う一方、過酷な労働環境が敬遠される要因となっています。民間企業が働き方改革を進める中、公務員の労働環境改善が遅れていることも、技術系人材の確保を難しくしています。
3. 試験制度の構造と準備負担
国家公務員試験の技術系区分は、専門知識を問う試験内容が難易度が高く、準備負担が大きいとされています。2022年の報道によると、学生が公務員試験の準備を「負担」と感じ、試験の競争率が低下していることが指摘されています。技術系区分では、機械、土木、電気・電子などの専門試験に加え、面接や論文試験も必要であり、準備に多くの時間を要します。一方、民間企業の採用プロセスは比較的短期間で済む場合が多く、技術系学生が公務員試験を敬遠する一因となっています。
4. 技術系公務員の社会的評価とキャリアパスの不透明さ
技術系公務員の社会的評価やキャリアパスの魅力が低下していることも要因です。かつて日本の官僚は高い社会的地位を誇りましたが、1990年代以降の行政不信やスキャンダルにより、官僚全体のイメージが低下しています。技術系公務員は、政策立案よりも実務的な業務(例:インフラ管理、災害対応)に携わることが多く、若手が「やりがい」を感じにくい場合があります。また、キャリアパスが明確でないため、技術系学生が民間企業での明確な昇進やスキルアップの機会を優先する傾向があります。
5. 日本の技術系人材の労働市場動向
日本の労働市場全体で、技術系人材の需要が高まっています。2024年の報告によると、2030年までに日本は644万人の労働力不足に直面し、特に技術系分野(IT、ヘルスケア、グリーンエネルギーなど)で人材需要が急増しています。民間企業はAIや自動化技術を活用して採用プロセスを効率化し、技術系人材を積極的に確保しています。一方、技術系公務員の採用は従来の試験制度に依存しており、迅速な採用や柔軟な条件提示が難しい状況です。この労働市場の競争が、技術系区分の定員割れを助長していると考えられます。
6. 政策立案の役割縮小と官僚のモチベーション低下
日本の官僚の役割が、1990年代以降の政治主導の政策立案により縮小していることも影響しています。技術系公務員は、首相官邸や政治家主導の政策に従う役割が増え、専門知識を活かした政策立案の機会が減少しています。これにより、技術系学生にとって公務員の仕事が「単なる事務作業」と見なされ、魅力が低下している可能性があります。報道では、官僚の専門性が軽視される現状が、志願者減少の一因と指摘されています。
まとめ
2025年度の国家公務員採用試験の技術系区分の低迷は、民間企業との競争、長時間労働、試験準備の負担、社会的評価の低下、労働市場の動向、政策立案の役割縮小などが複合的に影響しています。特に、防災やインフラ整備で重要な役割を果たす技術系公務員の不足は、社会的な課題として深刻です。人事院は、試験日程の前倒しや働き方改革を進めていますが、技術系人材の確保には、給与改善、キャリアパスの明確化、労働環境の抜本的改革が求められます。