キオクシア:7-9月期純利益62%減、株価は公募価格から約10倍

キオクシアHD:7-9月期純利益62%減の決算が明らかに

半導体メモリ大手、キオクシアホールディングス(以下、キオクシアHD)が2025年11月13日に発表した2025年7~9月期の連結決算は、市場の期待を下回る結果となりました。純利益は前年同期比で62%もの大幅減となる406億円にとどまり、QUICKコンセンサスによる市場予想平均(474億円)をも下回りました。この減益の背景には、NAND型フラッシュメモリの価格高騰が続いた前年同期との反動が強く影響しています。

売上高は4483億円(前年同期比6.8%減)と微減にとどまりましたが、利益率は前年同期の34.5%から19.2%へ急低下。メモリ市況の改善が見られたものの、スマートフォンやPCの販売鈍化による需要減退が足かせとなりました。また、上期累計(4~9月)では純利益が66.5%減の589億円と、さらに厳しい数字が並びました。

減益要因の深層分析:市況変動と為替の逆風

キオクシアHDの主力製品であるNANDフラッシュメモリは、AIサーバーやデータセンター向け需要の拡大で市況が回復傾向にありましたが、前年同期の高水準からの反動が避けられませんでした。出荷量は増加したものの、平均販売単価の下落が利益を圧迫。加えて、円高基調が輸出中心の同社に重くのしかかりました。

第1四半期(4~6月)比では増収増益を達成したものの、金融費用の増加(借入金返済関連)も無視できません。今後、第3四半期(10~12月)の純利益見通しは600~880億円と回復を予想していますが、トランプ米政権の関税政策の影響は未織り込みで、リスク要因として警戒が必要です。

一方で急上昇の株価:9月からの高騰と現在の14,000円超えの勢い

決算発表直前の株価は、2025年9月頭から急激な上昇を記録。2024年12月の上場時公募価格1440円から、一時1万4255円を突破する約10倍近い高騰を見せました。PBR(株価純資産倍率)は5倍近くまで膨張し、市場の熱狂ぶりがうかがえます。この上昇劇は、決算の減益とは対照的で、投資家心理の複雑さを象徴しています。

上場後の株価は当初2000~3000円台で推移していましたが、9月以降の急騰は半導体セクター全体のブームと連動。生成AIの普及によるメモリ需要の長期拡大期待が株価を押し上げ、現在の最高値圏を維持しています。

株価上昇の原動力:AIブームと市場センチメント

最大の要因は、生成AIの爆発的需要です。キオクシアHDのNANDメモリは、AIサーバーの大容量ストレージに不可欠で、NVIDIAやSanDiskとの提携効果も連想を買いました。9月からの上昇は、半導体業界の「ブルウィップ効果」(需要変動の増幅)による楽観ムードが加速。MSCI指数への新規採用も、機関投資家の買いを誘いました。

しかし、この急騰にはリスクも潜んでいます。直近四半期の最終利益74%減という現実が、株価の過熱を冷ます可能性があります。将来的な売上変動の激しさを考慮すれば、短期的な調整局面も想定されます。投資家は、AI需要の本格化と市況回復のバランスを見極める必要があるでしょう。

今後の展望:回復の兆しと課題の狭間

キオクシアHDは、メモリ市況の回復とAI向け製品の強化で、2026年3月期の通期黒字化を目指しますが、為替変動や地政学リスクが影を落とします。株価の急上昇は成長期待の表れですが、決算の減益が示すように、業界のボラティリティは依然高く、慎重な投資判断が求められます。半導体メモリの未来を担う同社の動向から、目が離せません。