日本政府が経済安全保障新機関の創設を検討

日本政府、経済安全保障新機関の創設を検討

日本政府は、経済安全保障の強化を目的として、総合的なシンクタンク機能を持つ新たな機関の創設を検討しています。この動きは、国際情勢の複雑化や社会経済構造の変化により、経済分野における安全保障の重要性が増していることを背景としています。特に、重要技術や半導体などの重要物資のサプライチェーン(供給網)に対する脅威が高まる中、情報収集・分析能力の強化が急務とされています。以下では、この新機関の概要や目的、背景について詳しく解説します。

新機関創設の背景

近年、グローバルな経済環境は急速に変化しており、米中間の技術覇権争いや地政学的緊張の高まりにより、経済安全保障の重要性が一層注目されています。日本では、2022年5月に「経済安全保障推進法」が成立し、重要物資の供給網の安定確保や先端技術の保護、基幹インフラの安定提供、特許出願の非公開化など、経済面からの安全保障を強化する枠組みが整備されました。しかし、現在の政府機関だけでは、複雑化する経済安全保障の課題に対応するための情報収集や分析、官民連携の調整が十分でないとの認識が広がっています。

特に、半導体や先端技術のサプライチェーンは、国際的な供給網の混乱や技術流出リスクにより、国家安全保障に直接的な影響を及ぼす可能性があります。このため、政府は、経済安全保障に関する情報を一元的に収集・分析し、迅速な政策対応を可能にする新たな機関の必要性を検討しています。

新機関の目的と役割

新機関は、経済安全保障に関する総合的なシンクタンクとして、以下の役割を担うことが期待されています

  • 情報収集・分析の強化:重要技術やサプライチェーンに関する国内外の情報を収集し、分析を行うことで、潜在的なリスクや脅威を早期に特定します。これにより、政府は迅速かつ適切な政策を立案・実行することが可能になります。
  • 官民連携の推進:産業界との対話を強化し、民間企業が直面する経済安全保障上の課題に対応するための支援や調整を行います。民間企業の技術開発やサプライチェーン管理におけるリスク低減策を共同で検討する場を提供します。
  • 国際協力の強化:友好国のシンクタンクや政府機関と連携し、経済安全保障に関する情報共有や共同研究を推進します。特に、米国や欧州諸国との協力により、グローバルなサプライチェーンの強靭化や技術保護の枠組みを構築します。

新機関創設に向けた進め方

政府は、新機関の創設に先立ち、既存の政府関係機関の人員増強や連携強化を進めています。これにより、情報収集や分析の基盤を整備し、新機関の設立に向けた準備を段階的に進める方針です。具体的には、経済産業省や内閣府を中心に、経済安全保障推進法の運用で培った知見を活用し、新機関の役割や組織体制を具体化する予定です。また、2024年5月に施行された「重要経済安保情報保護活用法」に基づくセキュリティ・クリアランス制度の導入により、機微情報の取り扱いに関する基盤も強化されています。

新機関の設立には、法的枠組みの整備や予算の確保、専門人材の採用など、多くの課題が伴います。特に、民間企業や国際機関との連携を効果的に進めるためには、明確な役割分担とガバナンス体制の構築が求められます。政府は、これらの課題を克服しつつ、2020年代後半を目途に新機関の運用開始を目指しているとみられます。

今後の展望と課題

新機関の創設は、日本が経済安全保障を強化する上で重要な一歩となりますが、成功にはいくつかの課題が伴います。まず、情報収集・分析の精度を高めるためには、高度な専門知識を持つ人材の確保が不可欠です。また、官民連携を円滑に進めるためには、民間企業との信頼関係の構築や、過度な規制によるイノベーションの抑制を避ける工夫が必要です。

さらに、国際協力においては、友好国との利害調整や情報共有の範囲を巡る課題が浮上する可能性があります。特に、米国や中国の経済安全保障政策がグローバルなサプライチェーンに大きな影響を与える中、日本は独自の立場を維持しつつ、国際的な協力を効果的に進める必要があります。

政府は、これらの課題に対処しながら、新機関を通じて経済安全保障の総合的な強化を図る方針です。この取り組みは、日本の産業競争力の維持・強化や国家安全保障の確保に大きく寄与するものと期待されています。