川合俊一JVA会長の講演料を巡る特別背任疑惑:週刊文春報道の概略と法的争点

週刊文春が報じた川合俊一氏の講演料に関する疑惑

2025年12月17日頃に公開された週刊文春の報道によると、日本バレーボール協会(JVA)会長の川合俊一氏が、協会会長としての立場で引き受けた講演の報酬を、協会ではなく自身の個人事務所で受け取っていたことが明らかになりました。この行為を巡り、特別背任罪に問われる可能性が指摘されています。

告発の概要と経緯

JVAと公式代理店契約を結ぶ企業(A社)の経理担当者(X氏)が週刊文春の取材に対し、2023年に川合氏から400万円の支払いを要求されたと証言しました。X氏によると、この要求は代理店契約の見返りとしてなされ、「講演料」という名目で正当な取引を装い、報酬が川合氏の個人事務所に直接振り込まれたということです。

講演の内容は「一流アスリートが生まれる条件」と題した基調講演で、川合氏がJVA会長として登壇したものです。

企業ガバナンス専門家の指摘

青山学院大学名誉教授の八田進二氏は、週刊文春の取材に対し、次のようにコメントしています。JVA会長として講演を行った場合、報酬は個人事務所ではなく本来協会に支払われるべきであり、協会に損失を与えたとして特別背任罪に問われる可能性があるということです。

川合俊一氏の対応

週刊文春の取材に対し、川合氏は12月中旬に約4時間にわたり説明を行いました。本人によると、この講演はJVA会長としてではなく私個人で請け負ったものだという主張をしています。また、報道直後には自身のInstagramで取材対応の経緯を公表し、記事内容に悪意がある情報が含まれている可能性に言及しています。

報道の背景

川合俊一氏は元バレーボール日本代表選手で、2022年にJVA会長に就任しました。男子バレー人気の高まりとともに協会の業績が向上する中、今回の疑惑が浮上しました。週刊文春はこれを「銭ゲバ講演」と表現し、詳細な取材に基づいて報じています。

特別背任罪とは

特別背任罪は、会社法第960条に規定された犯罪です。株式会社の取締役、執行役、支配人など、会社に対して重要な任務を負う立場にある者が、自己または第三者の利益を図る目的、または会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を与えた場合に成立します。

特別背任罪の主な成立要件

特別背任罪が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 行為者が会社法で定められた特定の地位(取締役、監査役、支配人など)にあること
  • 自己または第三者の利益を図る、または会社に損害を加える目的(図利加害目的)があること
  • 任務に背く行為を行ったこと
  • その行為により会社に財産上の損害が生じたこと

罰則は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、またはこれを併科するものとされています。通常の背任罪(刑法第247条、罰則は5年以下の懲役または50万円以下の罰金)と比べて、重い処罰が定められています。これは、重要な地位にある者の行為が会社に与える影響が大きいためです。

なお、日本バレーボール協会は一般社団法人であるため、会社法の特別背任罪が直接適用されるわけではありませんが、類似の規定(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第334条など)や、刑法の背任罪が問題となる可能性があります。報道では、専門家が特別背任罪の可能性を指摘していますが、実際の適用は捜査機関の判断によるものです。

なぜ「個人の仕事」として認められない可能性があるのか

今回の疑惑の核心は、講演料の支払元が「JVAと利害関係にある取引先(公式代理店)」だった点にあります。報道および専門家の見解によると、以下の理由から「個人の仕事」という主張は苦しい立場にあります。

利益相反とリベートの疑い

全く無関係の企業からの依頼であれば「タレント・川合俊一」としての個人活動と主張できます。しかし、自身の権限で契約を結べる「JVAの取引先」からの金銭授受は、実質的な「契約への謝礼(リベート)」や「裏金」とみなされやすく、コンプライアンス上、極めて不適切な取引となります。

協会への背任(中抜き)構造

取引先が支払う金銭が「JVAとの契約に関連するもの(見返り)」であるならば、そのお金は本来100%協会に入るべき収益です。それを「講演料」という名目にすり替えて個人で受け取る行為は、協会の利益を個人が横取り(中抜き)したことになり、協会に損害を与えたとみなされます。