令和7年版「過労死等防止対策白書」の公表について
厚生労働省は、2025年10月28日、過労死等防止対策推進法(平成26年法律第100号)第6条に基づき、「令和6年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(令和7年版 過労死等防止対策白書)を閣議決定し、公表しました。この白書は、過労死等防止対策の年次報告書として国会に提出されるもので、10回目となる今回の報告書では、我が国における過労死等の現状分析と、政府の防止施策の進捗状況が詳細にまとめられています。厚生労働省は、「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会」の実現に向け、引き続き対策を強化する方針を示しています。
白書の概要と目的
令和7年版過労死等防止対策白書は、過労死(脳・心臓疾患による労災認定)や過労自殺(精神障害による労災認定)などの過労死等に関する最新のデータを基に、政府の施策を総括したものです。主な目的は、過労死等の発生実態を明らかにし、労働者の健康確保のための政策を推進することです。白書は、本文、骨子、概要版として厚生労働省のウェブサイトからダウンロード可能で、PDF形式で提供されています(令和7年度過労死等防止対策白書ページ)。
過労死等の発生状況
白書では、令和6年度の過労死等認定件数が報告されており、特に精神障害による労災認定が過去最多の1,055件に上ることが明らかになりました。これは15年前の約3倍に相当し、仕事上の強いストレスが主な要因です。認定の要因として「対人関係」が最多を占め、特に「上司とのトラブル」が6割超を占めています。また、脳・心臓疾患による過労死認定件数も依然として高水準で、月平均80時間を超える長時間労働がリスク要因として指摘されています。これらのデータは、労働安全衛生法に基づく労災補償の審査結果から抽出されたものです。
特定業種の長時間労働実態
飲食店や小売業などの店舗責任者(店長等)を対象とした調査では、約3割が月平均で過労死ライン(週60時間以上)の労働時間を記録していることが判明しました。人手不足の影響が強く、責任ある立場にある労働者の負担増大が問題視されています。厚生労働省担当者は、「責任者の長時間労働が減っていない」と指摘し、業種ごとの労働環境改善の必要性を強調しています。この調査は、白書特有のフィールドデータを基にしており、過労死防止のための具体的な対策立案に活用されます。
労働時間やメンタルヘルス対策等の状況
白書では、労働時間管理やメンタルヘルス対策の現状も詳述されています。以下に主なポイントをまとめます。
勤務間インターバル制度及び年休の状況
- 勤務間インターバル制度について、制度を知らない企業割合は14.7%、制度の導入企業割合は5.7%で、いずれも前年より低下。
- 年次有給休暇の取得率は、9年連続で増加(令和5年:65.3%)し、過去最高。
- 国家公務員、地方公務員の年次(有給)休暇の平均取得日数も、それぞれ前年より増加。
職場におけるメンタルヘルス対策の状況
- メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.2%と、前年より0.6ポイント低下。
- 労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェックの実施割合は、令和6年が33.5%。
- 仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスがあるとする労働者の割合は、68.3%となっている。
過労死等に係る調査・研究 労災事案の傾向の分析
労災事案の傾向分析では、業種ごとの特徴が明らかになりました。
- 「(重度の)病気やケガ」は建設業が高い。
- 「悲惨な事故や災害の体験、目撃」及び「同僚等から暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせ」は医療が特に高い。
- 「仕事内容・仕事量の(大きな)変化」はIT産業や芸術・芸能分野が特に高い。
- 「1か月に80時間以上の時間外労働」は自動車運転従事者や外食産業が、「2週間以上の連続勤務」は建設業が高い。
- 「上司とのトラブル」、「パワーハラスメント」は教職員が高い。
パワハラ・セクハラの経験
パワハラ・セクハラの経験の有無は、「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」が最も高く、次いで「店舗従業員(調理)」が高い傾向。
カスタマーハラスメントの経験
カスハラを経験した割合は、「エリアマネージャー・スーパーバイザー等」が最も高く、次いで「店舗従業員(接客)」、「店長」の順に高い。
経験したカスタマーハラスメントの種類
「継続的な執拗な言動」「威圧的な言動」「精神的な攻撃」の順に多い。
政府の防止施策と今後の取り組み
政府は、過労死等防止対策推進協議会の活動を通じて、労働時間の上限規制(年720時間以内、月100時間未満)の徹底、ストレスチェックの義務化、メンタルヘルス対策の推進を進めています。白書では、これらの施策の実施状況がレビューされ、効果的な事例として、企業向けの相談窓口拡充や、過労死遺族支援プログラムの成果が挙げられています。また、医療・芸能分野での過酷な労働条件に対する特化対策も急務とされ、業界団体との連携強化が示唆されています。今後、厚生労働省は、白書の知見を活かし、労働基準監督署の指導強化や、AIを活用した労働時間管理ツールの導入を検討する予定です。
白書の意義と社会的影響
この白書の公表は、過労死等を社会問題として再認識させる機会を提供します。労働者の権利保護と企業のコンプライアンス向上を促すとともに、国民全体の働き方改革を後押しするものです。詳細なデータと施策提案は、企業経営者、労働組合、政策立案者にとって貴重なリソースとなります。過労死ゼロの実現に向け、継続的な監視と改善が求められる中、本白書は重要な一歩と言えるでしょう。
