トヨタ自動車の2025年度、決算見通しと主要自動車メーカーの決算概要

トヨタ自動車、2025年度通期決算見通しを発表
2025年4~6月期 決算概要:ホンダ、日産、マツダ
2025年4~6月期 決算概要:テスラ、GM、フォード

トヨタ自動車、2025年度通期決算見通しを発表:営業利益が1兆4000億円押し下げ

トヨタ自動車は、2025年8月7日に2025年3月期の通期決算見通しを発表しました。この発表では、アメリカのトランプ政権による関税措置の影響を受け、今年度1年間の営業利益が1兆4000億円押し下げられる見込みであることが明らかになりました。この下方修正により、営業利益および最終利益の予想が大幅に見直されています。

2025年4月~6月期決算:過去最高の営業収益を記録

トヨタは2025年4月から6月までの3か月間のグループ全体の決算を発表しました。売上にあたる営業収益は12兆2533億円で、この時期としては過去最高を記録しました。しかし、営業利益は前年同期比10.9%減の1兆1661億円、最終利益は36.9%減の8413億円となりました。この減益の主な要因として、アメリカの関税措置による4500億円の利益押し下げや為替変動の影響が挙げられています。それでも、販売台数自体は堅調に推移している点が強調されています。

通期業績見通しの下方修正

トヨタは、2025年度通期の業績見通しについて、営業利益を当初の3兆8000億円から3兆2000億円に、最終利益を3兆1000億円から2兆6600億円に下方修正しました。この修正は、主にアメリカでの関税引き上げによる影響を反映したものです。具体的には、2025年8月から自動車や部品に対する関税が15%に引き下げられ、年度末まで継続する場合を想定しています。この関税措置により、年間で1兆4000億円の営業利益が押し下げられると試算されています。

トヨタの戦略と今後の展望

トヨタの東崇徳経理本部長は、オンライン決算説明会で「厳しい外部環境の中でも、販売台数の増加や原価改善の努力を積み重ね、マイナスの影響を最小限に抑えたい」と述べました。また、仕入れ先や販売店との連携を強化し、生産性の向上につなげる方針を示しました。さらに、トヨタは国内生産体制の維持を重視し、愛知県豊田市に新たな車両工場を建設する計画を発表。2030年代初頭の稼働を目指し、年間300万台の国内生産体制を堅持する姿勢を強調しています。

アメリカと中国での投資計画

トヨタは、アメリカと中国での新たな投資計画も明らかにしました。アメリカでは、ノースカロライナ州の電池工場が2025年4月から出荷を開始し、約5000人の雇用創出を見込んでいます。一方、中国では上海に高級車ブランド「レクサス」の電気自動車(EV)と電池の生産会社を設立し、2027年以降に年間10万台の生産を目指します。これらの投資は、関税の影響を受けつつも、グローバル市場での競争力を維持するための戦略の一環です。

市場への影響と今後の課題

今回の決算発表を受け、トヨタの株価は一時3%上昇しました。市場は、4~12月期の純利益が予想を上回ったことを好感したとみられます。しかし、関税措置や為替変動、資材価格の高騰など、外部環境の不確実性がトヨタの業績に与える影響は大きく、今後の動向が注目されます。トヨタは、こうした課題に対し、柔軟な対応と戦略的な投資を通じて持続的な成長を目指す方針です。

2025年4~6月期 決算概要:ホンダ、日産、マツダ

2025年4月1日から6月30日までの2026年3月期第1四半期におけるホンダ、日産、マツダの決算結果を紹介します。各社の業績、販売動向、主要な増減益要因、通期見通しを比較し、市場環境や戦略の違いを概観します。

ホンダ:堅調な売上も利益は大幅減

ホンダは2輪事業の好調と北米市場の堅調な販売により売上は増加したものの、為替影響やコスト増により利益は大幅に減少しました。

  • 連結売上収益: 5兆1477億1100万円(前年同期比11.6%増)
  • 営業利益: 2441億7000万円(前年同期比49.6%減、営業利益率4.7%)
  • 税引前利益: 3058億2500万円(前年同期比45.7%減)
  • 当期純利益: 2123億5800万円(前年同期比50.5%減)

販売台数

  • 4輪車: 83万9000台(前年同期比3.5%減、主に中国市場の販売減が影響)
  • 2輪車: 514万3000台(前年同期比15.8%増、ブラジルでの好調が寄与)
  • パワープロダクツ: 82万8000台(前年同期比0.7%増、欧州での販売増)

増減益要因

  • 増益: 北米での4輪販売(1091億円)、価格改定・コスト改善(685億円)
  • 減益: 諸経費増(694億円)、研究開発費増(246億円)、為替影響(861億円)

通期見通し

  • 営業利益: 7000億円(従来予想5000億円から上方修正)
  • 売上収益: 20兆1500億円
  • 最終利益: 2500億円(前期比70.1%減)
  • 配当: 年間70円(前期比2円増配)

ポイント: 2輪事業の好調と北米市場が売上を牽引したが、円高や中国市場の不振が利益を圧迫。EV新工場(カナダ)の稼働を2028年から2年程度延期。

マツダ:北米好調も赤字転落

マツダは北米市場の販売好調と円安効果で売上は堅調だったが、販売奨励金の増加や中国・日本市場の不振により全利益項目で赤字に転落しました。

  • 連結売上高: 1兆997億7000万円(前年同期比8.8%減)
  • 営業利益: -461億1500万円(前年同期503億6000万円の黒字から赤字)
  • 経常利益: -342億5500万円(前年同期802億6700万円の黒字から赤字)
  • 当期純利益: -421億400万円(前年同期498億1400万円の黒字から赤字)

販売台数

  • グローバル販売: 30万1000台(前年同期比2.6%減)
  • 連結出荷台数: 26万6000台(前年同期比8.6%減)
  • 地域別: 北米14万6000台(14%増)、日本・中国市場は低迷

増減益要因

  • 増益: 円安効果(439億円)
  • 減益: 販売奨励金増(351億円)、日本・中国の販売減、材料費・労務費高騰

通期見通し

  • 売上高: 4兆9000億円(前期比2%減)
  • 営業利益: 500億円(前期比73%減)
  • 当期純利益: 200億円(前期比82%減)
  • 販売台数: 135万台(前期比9%増見込み)

ポイント: 北米での過去最高の販売台数を記録したが、販売奨励金の増加(約40%増)が収益を圧迫。米国関税(1452億円の減益要因)や中国市場の不振が課題。生成AIを活用した業務改革を推進。

日産:販売減と関税で大幅赤字

日産は米国・中国市場の販売不振、為替の円高、米国関税の影響により売上・利益ともに大幅悪化。営業利益・当期純利益は赤字に転落しました。

  • 連結売上高: 2兆7000億円(前年同期比7.8%減)
  • 営業利益: -791億円(前年同期9億円の黒字から赤字、営業利益率-2.9%)
  • 当期純利益: -1157億円(前年同期285億円の黒字から赤字)

販売台数

  • グローバル販売: 70万7000台(前年同期比12.7%減)
  • 地域別: 米国での在庫過多、中国市場の需要回復遅れが影響

増減益要因

  • 増益: 高付加価値モデル販売比率向上、固定費削減(予想-2000億円から-791億円に抑制)
  • 減益: 米国・中国の販売減、円高による為替差損、米国関税(1452億円の減益要因)

通期見通し

  • 売上高: 12兆5000億円(維持)
  • 営業利益・当期純利益: 未定(市場不確実性のため)
  • 販売台数: 365万台(生産台数345万台)
  • 配当: 中間配当見送り、期末配当は業績次第

ポイント: 米国での在庫調整と販売奨励金増、中国市場の低迷、関税影響が収益を圧迫。事業計画「The Arc」で下期から新モデル投入を強化。米国工場の閉鎖など構造改革を推進。

比較と総括

ホンダは2輪事業と北米市場の好調で売上増を達成したが、為替とコスト増で利益減。マツダは北米販売が過去最高だったが、販売奨励金と中国市場不振で赤字転落。日産は販売減と関税影響で大幅赤字となり、回復に課題が残る。3社とも米国関税(1452億円の減益要因)や中国市場の低迷に直面しており、下期の新モデル投入やコスト削減が業績回復の鍵となります。

2025年4~6月期 決算概要:テスラ、GM、フォード

2025年4~6月期(第2四半期)の米自動車大手3社、テスラ(Tesla)、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード(Ford Motor Company)の決算が発表されました。電気自動車(EV)市場の競争激化やトランプ政権の関税政策の影響を受け、各社が異なる課題と戦略に直面しています。以下に、各社の決算概要と要因を詳しく紹介します。

テスラ(Tesla):利益減少も戦略的展望に注目

テスラの2025年4~6月期決算は、売上高と利益が前年比で減少する厳しい結果となりましたが、長期的な成長戦略への期待が続いています。

  • 売上高: 224億9600万ドル(約3兆2900億円)、前年同期比11.7%減。
  • 営業利益: 9億2300万ドル(約1300億円)、前年同期比42.4%減、営業利益率4.1%(前年同期6.3%)。
  • 純利益: 11億7200万ドル(約1700億円)、前年同期比16.2%減。

要因: イーロン・マスクCEOの政治的発言(トランプ政権支持など)による不買運動が欧米で影響し、販売台数が低迷。モデルYの生産ライン改装による一時的な生産減少や、中国のBYDなどとの価格競争も利益率を圧迫しました。エネルギー貯蔵事業(パワーウォール、メガパック)の成長が収益を一部下支え。マスク氏は低価格EVの2025年前半販売開始や、テキサス州でのロボタクシーサービス(6月開始予定)の進捗を強調し、投資家の関心を集めています。

市場の反応: 市場予想を下回った業績にも関わらず、マスク氏の成長ビジョンにより株価は時間外取引で一時5.5%上昇。ただし、競争激化と短期的な利益率低下が課題です。

ゼネラル・モーターズ(GM):関税の影響で大幅減益

GMは関税によるコスト増が直撃し、利益が大幅に減少した一方、売上高は安定を維持しました。

  • 売上高: 471億2200万ドル(約6.9兆円)、前年同期比2%減。
  • 純利益: 18億9500万ドル(約2800億円)、前年同期比35%減。

要因: トランプ政権の関税政策(メキシコや韓国からの輸入車両に対する追加関税)が11億ドルのコスト増をもたらし、利益を圧迫。米国販売車両の約50%が輸入であるため、影響が顕著でした。EV市場での競争激化やグローバルな需要鈍化も背景に。主力の北米事業(GMノースアメリカ)は堅調だったが、関税の影響で収益性が低下。自動運転事業(クルーズ)や金融事業(GMファイナンシャル)は成長を維持。

市場の反応: 決算発表後、株価は8%下落。通期見通しで関税による40億~50億ドルのコスト増を予想し、投資家の懸念が高まりました。長期的なEV戦略やソフトウェアサービス(OnStarなど)は引き続き注目されています。

フォード(Ford):売上増も赤字転落

フォードは売上高が市場予想を上回ったものの、関税とEV部門の赤字により純損益が赤字に転落しました。

  • 売上高: 501億ドル(約7.5兆円)、前年同期比5%増、市場予想(478億ドル)を上回る。
  • 純損益: 3600万ドル(約54億円)の赤字(前年同期は18億ドルの黒字)。

要因: トランプ政権の関税(メキシコ・カナダからの輸入品に25%)による8億ドルのコスト増が主要因。EV部門「モデルe」の赤字継続(通年で50億~55億ドルの赤字予想)や、品質対策費用の増加も利益を圧迫。ピックアップトラック(マーベリック)やハイブリッド車の販売増、商用車部門「フォードプロ」(売上高13.8%増の157億ドル)が売上を牽引。フォードはEVに加え、ハイブリッド車や内燃機関車に注力するマルチパワートレイン戦略を推進し、14億ドルのコスト削減計画を進めています。

市場の反応: 赤字転落により株価への下落圧力が生じたが、具体的な変動は情報不足。ジム・ファーリーCEOは関税環境下での競争力維持を強調し、米国製部品調達拡大などでコスト回収を目指すと表明。

3社の比較と業界全体の課題

テスラ、GM、フォードの決算を比較すると、以下の傾向が見られます:

  • 売上高: フォード(501億ドル)>GM(471億2200万ドル)>テスラ(224億9600万ドル)。フォードが規模で優位だが、テスラはEV特化企業として成長期待が高い。
  • 純利益: テスラ(11億7200万ドル、16.2%減)、GM(18億9500万ドル、35%減)、フォード(3600万ドルの赤字)。フォードの赤字転落が目立つ。
  • 関税の影響: GMとフォードは輸入依存度が高く、関税によるコスト増(GM:11億ドル、フォード:8億ドル)が直撃。テスラは米国生産比率が高く、関税の影響は相対的に軽微。
  • EV戦略: テスラは低価格EVやロボタクシーに注力。GMはEVと自動運転(クルーズ)を推進。フォードはEV赤字を補うためハイブリッド車を強化。

業界の課題: トランプ政権の関税政策、EV需要の鈍化、中国メーカーとの競争激化が共通の課題。テスラはブランドイメージやマスク氏の政治的発言、GMとフォードはコスト構造の改善が今後の焦点です。各社はEVだけでなく、ハイブリッド車やソフトウェアサービス(自動運転、車載システム)への投資を加速し、長期的な成長を目指しています。

この決算期は、米自動車業界が外部環境の変化に対応しつつ、電動化と自動運転の未来を見据えた戦略転換の過渡期にあることを示しています。各社の今後の動向、特に2025年後半の低価格EVや関税対策の進捗に注目が集まります。