いわき信用組合の反社会的勢力への資金提供の概要

いわき信用組合の反社会的勢力への資金提供事件

福島県いわき市に本店を置くいわき信用組合(以下、いわき信組)は、2025年10月31日、不正融資問題の調査過程で新たに反社会的勢力(以下、反社)への資金提供が発覚したことを発表しました。この事件は、1990年代から続く不正融資の隠蔽工作の一環として、反社からの不当要求に応じて約10億円の資金が提供された可能性が高いとされています。金融庁は同日、いわき信組に対し、業務改善命令および一部業務停止命令を発令しました。本記事では、事件の概要と詳細を紹介します。

事件の背景:不正融資問題の概要

いわき信組では、2024年秋に不正融資が発覚し、2025年5月30日に第三者委員会が調査報告書を公表しました。この報告書によると、2004年3月から2024年10月までの約20年間にわたり、元理事長の江尻次郎氏ら旧経営陣が主導する形で、少なくとも1,293件、総額247億7,178万円の不正融資が実行されたと認定されています。これらの不正は、主に経営難の大口融資先(X1社グループ)への資金繰り支援を目的とし、以下の手法が用いられました:

  • 顧客の名義を無断で使用した借名融資(架空の口座開設を含む)。
  • 事業実態のないペーパーカンパニーを介した迂回融資。
  • 不正融資の隠蔽のための証拠隠滅行為(例:不正リストが入ったPCのハンマーによる破壊)。

これらの不正融資の多くは大口融資先への還流が確認されたものの、約8億5,000万円から10億円の使途不明金が存在し、全容解明は不十分な状態でした。金融庁は5月に業務改善命令を発令していましたが、追加調査により、この使途不明金の大部分が反社への資金提供に充てられていたことが明らかになりました。

反社への資金提供の詳細

特別調査委員会の2025年10月31日の報告書によると、いわき信組の旧経営陣は、遅くとも1992年頃から反社からの不当要求に応じ、資金提供を繰り返していました。特に、1990年代に発生した不正融資を指摘する右翼団体などの街宣活動を止めるため、「解決料」の名目で反社勢力に支払いがなされたとされています。

提供額の内訳は以下の通りです:

  • 総額:約10億円前後(2004年以降の江尻前理事長在任中)。
  • 裏付けられた額:約3億5,000万円。
  • 時期:主に2004年から約13年間(2017年頃まで)。
  • 提供形態:不正融資で捻出された現金の直接支払い、反社所有法人への融資、反社の親族や紹介者への融資。

これらの支払いは、不正の口止めや街宣活動の停止を目的としたもので、反社との関係を維持・隠蔽するための組織的な行為でした。調査委員会は、暴力団関係者からの要求に屈した形で億単位の支払いが繰り返されたと指摘しています。

金融庁の行政処分

金融庁は2025年10月31日、いわき信組に対し、準用銀行法に基づく業務改善命令および一部業務停止命令を発令しました。主な内容は以下の通りです:

  • 反社との取引を直ちに遮断し、捜査機関への告訴等を検討。
  • 全役職員に対する法令遵守研修の実施。
  • 新規顧客に対する融資業務の停止(2025年11月17日から12月16日までの1ヶ月間)。

これは5月の業務改善命令に続く2度目の行政処分であり、金融庁は「金融機関として毅然とした態度を取らず、問題を深刻化させた」と厳しく批判しています。片山さつき金融担当大臣は同日、閣議後会見で「深刻な問題」との認識を示しましたが、詳細コメントを控えました。

いわき信組の対応と今後の影響

同日開催の記者会見で、金成茂理事長は「旧経営陣による長期にわたる不正資金提供が明らかになり、深くお詫び申し上げます」と謝罪しました。いわき信組は、旧経営陣に対する刑事・民事責任の追及を進め、再発防止策として反社排除のための管理体制強化を約束しています。

いわき信組は1948年に設立された地域金融機関で、2025年9月末時点の預金残高は約2,110億円、組合員数は約4万2千人です。東日本大震災後の2012年に公的資金200億円を注入されており、2026年1~2月までに再建計画の提出が求められています。この事件により、組織存続の危機がさらに高まる可能性があります。

本事件は、金融機関のガバナンスと反社対策の重要性を改めて浮き彫りにした事例です。組合員や地域住民への影響を最小限に抑えるための徹底した改革が求められます。