・日本旅行とISC、宇宙旅行事業構想の商用化フェーズへ移行
・将来宇宙輸送システム(ISC)の実績:スタートアップの着実な一歩
日本旅行とISC、宇宙旅行事業構想の商用化フェーズへ移行
2025年10月28日、株式会社日本旅行(本社:東京都、代表取締役社長:吉田圭吾)と将来宇宙輸送システム株式会社(ISC、本社:東京都中央区、代表取締役社長:畑田康二郎)は、両社がこれまで進めてきた「宇宙旅行事業構想」をさらに進展させ、商用化フェーズに向けた体制構築を進めると発表しました。この発表は、宇宙旅行を「誰もが行ける」現実的なサービスとして社会実装するための重要な一歩であり、2030年代の事業化を目指すものです。
背景:2024年9月の業務提携から始まった構想
この発表の基盤となったのは、2024年9月に締結された「誰もが行ける宇宙旅行事業の実現を目指した業務提携契約」です。日本旅行は1905年の創業以来、新しい旅の創造に挑戦してきましたが、2020年に宇宙事業推進チームを設置し、地域活性化や教育分野での宇宙関連事業を推進してきました。一方、ISCは文部科学省のSBIR(Small Business Innovation Research)フェーズ3事業に採択されたスタートアップ企業で、「毎日、人や貨物が届けられる世界。そんな当たり前を、宇宙でも。」というビジョンを掲げ、2028年3月までに人工衛星打ち上げ用ロケットの開発を目標としています。
提携のきっかけは、ツーリズムEXPOジャパン2024での共同出展です。同イベントでISCの再使用型ロケット「ASCA3」の1/12スケールモックアップを初披露し、宇宙旅行の先行予約アンケートを実施。両社は顧客ニーズの調査や商品化検討を進め、今回の商用化フェーズ移行を決定づけました。
発表内容:3段階の宇宙旅行プログラム「スペースツアー」
今回の発表で明らかになったのは、宇宙旅行を3つのステップで実現する「スペースツアー」プログラムです。日本旅行が総代理店として顧客体験・商品開発・販売を担い、ISCが輸送機開発と技術監修を担当する分担体制が構築されます。以下に各フェーズを詳述します。
スペースツアー1.0:地球上での宇宙体験プログラム
最初のステップとして、2026年度から開始予定の地上ベースの体験プログラムです。宇宙食の試食やバーチャルリアリティを活用した星空体験、宇宙旅行シミュレーションなどを提供します。これにより、宇宙旅行の魅力を広く一般に伝えるとともに、潜在顧客のニーズをさらに深掘りします。料金は比較的低価格帯で設定され、誰でも気軽に参加可能なエントリーレベルとして位置づけられています。
スペースツアー2.0:2030年代の宇宙経由高速輸送
中核となるフェーズで、2030年代の実現を目指します。東京とロサンゼルス間などの地球上の2拠点間を、宇宙経由で60分以内に輸送する革新的なサービスです。再使用型ロケット「ASCA」を活用し、従来の航空機では不可能な高速移動を実現。ビジネスパーソンや富裕層向けのプレミアム輸送として、宇宙の景色を楽しみながらの旅を提供します。将来的には、料金を1,000万円台まで引き下げる計画です。
スペースツアー3.0:2040年代の本格宇宙滞在旅行
最終フェーズとして、2040年代をメドに宇宙空間への滞在を可能にする旅行です。料金は1人あたり約1億円を想定し、2026年度から優先申し込みの受付を開始します。地球を離れての数日間滞在や、宇宙食を本格的に楽しむ体験が含まれ、安全・安心・快適さを重視した日本旅行らしいサービスが展開されます。ISCの再使用型ロケット技術と日本旅行の旅行ノウハウが融合し、「宇宙への冒険を安全な旅にする」ことを目指しています。
今後の展望と社会的影響
日本旅行の吉田圭吾社長は会見で、「宇宙輸送を単なる技術ではなく、人の移動の新しい形として捉えている」と述べ、ISCの畑田康二郎社長も「40年代には誰もが宇宙旅行をできるようにしていきたい」と意気込みを語りました。この提携は、宇宙産業の活性化だけでなく、観光業の革新をもたらす可能性を秘めており、先行予約の拡大や国際的なパートナーシップ(例:ISCの米国ロケットエンジン企業との提携)も視野に入れています。
宇宙旅行が日常化する未来が近づく中、この発表は日本発のイノベーションとして世界に注目を集めそうです。詳細は両社の公式サイトやプレスリリースをご確認ください。
将来宇宙輸送システム(ISC)の実績:スタートアップの着実な一歩
将来宇宙輸送システム株式会社(以下、ISC)は、2022年に設立されたばかりの宇宙スタートアップ企業です。人工衛星打ち上げ用ロケットの商用運用実績はまだなく、開発の初期段階にあります。しかし、短期間で政府支援の獲得、国際提携、技術実証の成功を積み重ねており、「誰もが行ける宇宙旅行」を現実的なビジョンとして推進しています。以下では、ISCのこれまでの主な実績を時系列で詳述し、その信頼性を考察します。
設立と初期の基盤構築(2022年)
ISCは2022年に設立され、代表取締役社長兼CEOの畑田康二郎氏を中心に、航空宇宙エンジニアや異業種の専門家を集めたチームを組成しました。ビジョンは「毎日、人や貨物が届けられる世界。そんな当たり前を、宇宙でも。」というもので、再使用型ロケットによる高頻度輸送を目指します。設立直後から、文部科学省の革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラムに沿った活動を開始し、産学官連携の基盤を築きました。この時期の主な実績として、社内開発プラットフォームの構築と初期のエンジン設計研究が挙げられます。畑田社長のバックグラウンド(ロケット開発現場での経験)が、チームの技術力を支えています。
政府支援の獲得:SBIRフェーズ3採択(2023年頃)
ISCの最初の大きなマイルストーンは、文部科学省のSBIR(Small Business Innovation Research)フェーズ3事業への採択です。この支援により、2028年3月までに人工衛星打ち上げ用ロケットの開発を進める資金と枠組みを得ました。SBIRは革新的な中小企業の研究開発を促進する制度で、フェーズ3は実用化に向けた本格開発段階を意味します。これにより、ISCは政府の信頼を早期に獲得し、開発資金の安定化を図りました。また、2023年12月25日には、独自の「トリプロペラント方式」(3種類の燃料を切り替えるエンジンシステム)の燃焼試験に日本で初めて成功。わずか3カ月での達成は、海外エンジン技術の活用と社内ノウハウの融合によるもので、エンジン開発の信頼性を示す成果です。
国際提携と技術加速(2024年)
2024年は、ISCのグローバル展開が加速した年です。まず、4月に米国のロケットエンジンメーカーUrsa Major Technologiesと提携を発表。Ursa Majorのエンジン「HADLEY」を購入し、2025年から米国で飛行実証を実施します。これは日本企業として初の取り組みで、エンジン改良のためのデータ共有も含みます。同月、米国現地法人を設立し、国際的な開発体制を強化しました。
さらに、8月には三井住友銀行と「宇宙領域に関する新たな経済圏の創出及び宇宙産業発展に向けた協業に関する覚書」を締結。財務基盤の安定と金融支援を確保し、開発の持続可能性を高めました。9月には日本旅行との業務提携を発表し、宇宙旅行事業の商用化を推進。これにより、顧客ニーズの調査と商品開発が本格化しました。
これらの提携は、ISCが単独で開発を進めるのではなく、実績あるパートナーと連携する戦略を示しています。特にUrsa Majorとの協力は、再使用型ロケットの鍵であるエンジン信頼性を早期に向上させる点で重要です。
開発進捗と今後の試験計画(2024-2025年)
技術面では、2024年に小型離着陸実験機「ASCA hopper(アスカ ホッパー)」の開発を進め、今冬(2024-2025年冬)に試験を予定しています。2025年には小型ロケットの打ち上げを実施し、離着陸の課題抽出を図ります。これを基に、来年以降は小型衛星打上げ実証機「ASCA 1シリーズ」の試験へ移行。全体として、再使用型ロケット「ASCA3」の開発ロードマップを着実に実行中です。
また、2025年4月にはLetara株式会社とハイブリッドエンジンを用いたロケットシステムの共同開発を開始。室蘭工業大学との共同研究契約も締結し、単段式宇宙往還機(SSTO)の実現に向けた基礎研究を進めています。これらの計画は、2030年前半の有人輸送試験、2040年代の本格宇宙旅行という長期ビジョンを支えています。
社会的影響と現実性の評価
ISCの実績は、設立からわずか3年で政府採択、国際提携、試験成功を果たした点で注目に値します。ロケットの打ち上げ実績はなく、開発リスクは伴いますが、SBIR支援やUrsa Majorのような実績企業との連携により、失敗の可能性を低減しています。2025年の小型ロケット打ち上げが成功すれば、さらなる投資呼び込みが期待され、日本発の宇宙産業革新として位置づけられます。詳細はISC公式サイトやプレスリリースをご参照ください。
宇宙旅行の夢は遠く思えますが、ISCの着実なステップは「現実的」な道筋を示唆しています。
