インドネシア高速鉄道が大赤字、日本ではなく中国を選んだ理由

中国主導のインドネシア高速鉄道プロジェクト概要
プロジェクトの財務状況と赤字の詳細
日本ではなく中国を採用した理由

中国主導のインドネシア高速鉄道プロジェクト概要

インドネシアのジャカルタ-バンドン間高速鉄道プロジェクト、通称「Whoosh」は、中国のベルト・アンド・ロード・イニシアチブ(BRI)の象徴的なプロジェクトとして位置づけられています。この鉄道は、東南アジア初の高速鉄道として、ジャカルタとバンドンを約140kmの距離で結び、所要時間を約45分に短縮することを目的としています。プロジェクトの総工費は当初の約60億2,000万ドルから、建設中の遅延や追加費用により最終的に72億ドルから73億ドルに膨張しました。

プロジェクトの背景

このプロジェクトは2015年にインドネシア政府が中国の提案を選択したことで始まりました。当初、日本の高鉄技術が有力視されていましたが、中国の低コスト提案が採用されました。中国開発銀行からの融資がプロジェクト費用の約75%を占め、総額約54億1,500万ドルの債務を生み出しています。運営主体はPT Kereta Cepat Indonesia China(KCIC)で、インドネシア国有企業コンソーシアムが60%、中国企業コンソーシアムが40%の株式を保有しています。

建設と開業の経緯

建設は2016年に開始され、本来2019年の開業予定でしたが、土地取得の遅れや建設方法の変更により4年間の遅延が発生しました。2023年10月にようやく開業しましたが、乗客数は当初の予測を大幅に下回っており、運用開始直後から財務的な課題が表面化しています。

プロジェクトの財務状況と赤字の詳細

Whooshの運用は、開業から1年余りで深刻な赤字に陥っており、インドネシア国有鉄道会社PT Kereta Api Indonesia(KAI)のCEOはこれを「財務的な時限爆弾」と表現しています。主な要因は高い債務返済負担と低い利用率です。

具体的な損失額

2024年のインドネシア側コンソーシアムの損失は4兆1,950億ルピア(約2億6,500万ドル)で、前年比4.3倍の急増となりました。2025年上半期にはさらに1兆6,000億ルピア(約1億100万ドル)の追加損失を記録し、KAI単独では同期間で9,514億8,000万ルピアの負担を強いられています。全体として、年間の元本および利息返済額は約6兆ルピアに上り、運用収益だけではこれをカバーできない状況です。

赤字の主な原因

赤字の背景には、建設コストの30%超の上昇、土地取得や遅延による追加費用、高金利の中国融資、そして予測を下回る乗客数があります。2025年現在、チケット販売収入だけでは債務返済に充てることができず、運用コストの増大がさらに圧迫しています。

インドネシア政府の対応策

赤字拡大を受け、インドネシア政府は債務負担の軽減に向けた複数の措置を検討・実施しています。これにより、プロジェクトの持続可能性を確保し、将来的な拡張計画の可能性を維持しようとしています。

債務再交渉の取り組み

2025年9月以降、政府は中国開発銀行との債務再編成を本格的に交渉しており、投資大臣Rosan Roeslani氏がこれを主導しています。Nusantara Capital Investment Management Agency(BPI Danantara)を通じて、資本注入やインフラの国有化による債務肩代わりをオプションとして検討中です。10月には中国の国家発展改革委員会(NDRC)との協議が開始されました。

その他の支援措置と課題

政府はWhooshの運用コストの一部を負担する方針を決定し、2025年11月時点でKAIの財務負担を軽減するための支援を約束しています。また、国会議員からは2兆6,000億ルピアの損失に対するフォレンジック監査の実施を求める声が上がっています。一方、ジャカルタ-スラバヤ間の拡張計画は債務問題により保留されており、規制面の課題も残っています。

日本ではなく中国を採用した理由

インドネシアのジャカルタ-バンドン間高速鉄道プロジェクトでは、2015年の入札で日本案ではなく中国案が採用されました。この決定は、インフラ開発のスピードを重視するジョコ・ウィドド政権の意向を反映したもので、中国の提案が複数の点で優位性を示した結果です。以下でその主な理由を詳しく解説します。

政府財政負担の有無

中国の提案は「ビジネス・トゥ・ビジネス(B2B)」モデルを採用し、インドネシア政府に財政負担を一切かけないことを最大の売り文句にしました。これに対し、日本案は政府保証付きの円借款を前提としており、低金利で長期返済が可能だったものの、政府の債務保証を必要としていました。インドネシア政府は国家予算への影響を避けたい意向が強く、中国の負担ゼロ提案が決定的な要因となりました。

価格競争力の差

中国の見積もり額は当初約55億ドルで、日本案の約60億ドルよりも20-25%安価でした。この低コスト提案は、プロジェクトの経済性を高めるものとして評価されました。ただし、実際の建設ではコストオーバーランが発生し、最終的に73億ドルを超えましたが、入札時点では中国の価格優位性が際立っていました。

工期の短さと即時性

中国側は2019年の完成を約束し、迅速なプロジェクト推進を強調しました。一方、日本案は環境影響評価や詳細設計に時間を要する慎重なアプローチを採っており、政府からは「遅すぎる」と見なされました。ジョコウィ政権の「インフラはスピードが命」という方針に、中国の即断即決型アプローチが合致したのです。

技術移転と現地化の約束

中国は技術移転の徹底と、現地調達率40%以上の確保を提案し、インドネシア国内での雇用創出や産業育成をアピールしました。これにより、地元エンジニアの育成やサプライチェーンの強化が期待されました。日本も技術力の高さを武器にしていましたが、中国の現地化重視がインドネシアの長期的な発展志向にマッチした点が評価されました。

政治的・外交的な文脈

この決定は、中国のベルト・アンド・ロード・イニシアチブ(BRI)と連動したもので、東南アジアでの影響力拡大を狙う中国の積極的な外交が背景にあります。一方、日本はアジアインフラ投資銀行(AIIB)への不参加など、対中警戒姿勢が間接的に影響した可能性もあります。結果として、中国案の採用はインドネシアの多角的な外交バランスを象徴するものとなりました。