広島カキの大量死:2025年秋の衝撃的な異変
2025年11月、広島県の養殖カキ産地で前例のない大量死が確認されました。呉市を中心に、水揚げされたカキの約9割が死滅し、殻だけが開いた状態で中身が空っぽになる異変が9月中旬から発生しています。島村水産の島村広司社長は「商売が成り立つか分からないレベル」と語り、激甚災害並みの被害だと表現しています。高水温や酸素不足が疑われますが、原因はまだ特定されていません。影響は広く、飲食店が広島産の提供を断念し、呉市はふるさと納税の生カキ返礼品を一時停止しています。
現場の声と即時対応
養殖場では10メートルのロープをクレーンで引き揚げると、殻が開いたカキばかりです。県内業者からは廃業危機の声が上がり、年末贈答用の予約停止も相次いでいます。広島県は研究機関と連携し、海水温・酸素濃度の解析を急いでいます。
2024年度生産量:高水温がもたらした5%減
2024年度(2024年7月~2025年6月)の広島県カキ生産量は1万6900トン(むき身換算)です。前年度比・平年比ともに5%減少し、夏場の高水温による成育不良が主な原因です。出荷開始を遅らせたため殻の集積場が満杯になるのを防ぎましたが、需要が供給を上回り価格は高止まりしています。生産額は222億円で、3年連続200億円超を維持しています。
数字で見る広島カキの規模
2023年は全国生産量の61%を占め、岡山県の約8倍です。輸出も香港・台湾を中心に拡大しています。県内養殖業者は資材高騰と人手不足に直面し、1個あたり20円の値上げを余儀なくされています。
過去の不作事例:繰り返される環境ストレス
広島湾では2013~2014年、2017年に稚貝採苗がほぼゼロの「採苗不調」が発生しました。原因は水温・塩分・プランクトン量の変動で、養殖業者にとって死活問題となりました。2023~2024年も猛暑で小粒化・生育遅れが続き、かき祭りの中止が相次ぎました。2020年暖冬では大粒カキが少なく「近年で最悪」との声が上がりました。
共通する要因と対策
高水温で酸素が減少し、カキの体力を奪うパターンが繰り返されています。広島市水産振興センターは幼生調査を続け、垂下深度の調整や品種改良で対応を進めています。
日本一の経済的価値:地域を支える海のミルク
広島カキは全国シェア6割超、生産額の約65%を占める県水産業の柱です。2023年の生産量は9万6816トン、むき身で1万8708トンが県内シェア62.7%です。観光では宮島口のかき小屋が年間数十万人を集め、ふるさと納税返礼品としても人気です。雇用は漁協組合員を中心に数千人規模で、加工・輸送まで含めれば地域経済の基幹産業です。
ブランドの強みと課題
プリッと濃厚な身は「海のミルク」と称され、生食用指定海域の厳格管理で安全性が高いです。近年はシングルシード養殖で大粒化が進み、海外輸出も増加しています。ただし気候変動によるリスクが増大しており、持続可能な養殖技術が急務となっています。
広島カキの歴史:450年以上の伝統と革新
縄文・弥生時代の貝塚から殻が出土しており、古来より食されてきました。養殖は天文年間(1532~1555年)に始まり、石蒔き法からひび建て法へと進化しました。江戸時代には大阪へ「かき船」で運び、座敷で試食させる販促が生まれました。明治末期に垂下式試験、昭和28年の竹筏普及で沖合化が進み、生産量が飛躍しました。戦後、広島は全国一の座を不動のものにしています。
瀬戸内の恵みと人々の知恵
太田川の栄養分、穏やかな湾、適度な潮流が理想的な環境です。プランクトン豊富な汽水域で育つカキは、グリコーゲンたっぷりで1~3月が最旬です。夏がきやかき小町など新ブランドも生まれ、年間を通じて楽しめるようになりました。
広島カキは単なる食材ではなく、歴史と環境が織りなす地域の誇りです。2025年の大量死は大きな試練ですが、過去の不作を乗り越えたように、科学と伝統の融合で未来へつないでいける事を願うばかりです。
