・「パープレキシティ」、グーグル「クローム」に約5兆円の買収提案
・グーグルの独占禁止法問題
「パープレキシティ」、グーグル「クローム」に約5兆円の買収提案
2025年8月12日、人工知能(AI)検索エンジンを開発する米スタートアップ企業「パープレキシティ」が、グーグルのウェブブラウザ「クローム」の買収を提案したことが明らかになりました。提案された買収額は約345億ドル(日本円で約5兆1000億円〜5兆970億円)で、IT業界に大きな波紋を広げています。この動きは、グーグルの検索市場における独占的地位に対する挑戦と、AI検索サービスの普及を目指すパープレキシティの戦略の一環とされています。
パープレキシティとは?その背景と目的
パープレキシティは、2022年に設立されたAI検索エンジンを提供するスタートアップ企業です。従来の検索エンジンとは異なり、ユーザーの質問に対して生成AIが情報源を明示しながら対話形式で回答するサービスが特徴です。同社の評価額は約180億ドル(約2兆6600億円)と推定されており、今回のクローム買収提案額はその約2倍に相当します。パープレキシティは、クロームの買収を通じて「インターネットへの玄関口」を獲得し、AI検索サービスの普及を加速させ、グーグルの検索市場支配に対抗する狙いがあるとされています。
買収提案の背景:グーグルの独占禁止法問題
グーグルの検索事業を巡っては、2024年8月に米連邦地裁が反トラスト法(独占禁止法)違反を認定。米司法省は、グーグルの市場独占を弱める是正措置として、クロームの売却を含む提案を行っています。この司法判断を受け、パープレキシティはクロームの分離が現実味を帯びる中、戦略的な買収提案に踏み切ったとみられます。クロームは世界のブラウザ市場で約60〜70%のシェアを誇り、約35億人のユーザーを抱える巨大なプラットフォームです。
提案の詳細と資金面の課題
パープレキシティは、グーグルの親会社アルファベットのCEO、サンダー・ピチャイ氏に対し、買収提案の書簡を送付。提案額の345億ドルは、クロームの推定価値(200億〜500億ドル)の中でも高額な部類に入ります。パープレキシティは、複数のベンチャーキャピタルからの資金支援を受けていると主張していますが、評価額を大きく上回る買収資金を調達できるかどうかは不透明です。一方で、グーグルはクロームの売却に否定的な姿勢を示しており、売却が事業に悪影響を及ぼす可能性やセキュリティリスクを懸念しています。
業界への影響と競合の動き
クロームの買収が実現した場合、IT業界の勢力図が大きく変わる可能性があります。パープレキシティは、クロームを通じて収集される膨大な「ウェブ規模の行動データ」を活用し、AI検索エンジンの精度向上や市場拡大を目指すとしています。また、AIライバルのOpenAIやヤフーも過去にクローム買収への関心を示しており、競争が激化する可能性があります。米司法省の是正措置の最終決定は近く下される予定で、クロームの行方が注目されます。
今後の展望
パープレキシティの買収提案は、AI技術を活用した新たな検索体験の普及を加速させる可能性を秘めていますが、グーグルの抵抗や反トラスト法に基づく調査など、実現には多くのハードルが存在します。クロームがグーグルのエコシステムから切り離される場合、検索市場やブラウザ市場の競争環境が一変する可能性があり、業界全体への影響が注目されます。
グーグルの独占禁止法問題:検索と広告市場での支配に対する挑戦
グーグル(アルファベット社)は、検索エンジンおよびデジタル広告市場での圧倒的なシェアを背景に、複数の独占禁止法(反トラスト法)訴訟に直面しています。米国司法省や州司法長官、欧州連合などの規制当局は、グーグルが競争を阻害し、市場を不当に支配していると主張。これらの訴訟は、グーグルのビジネスモデルや市場構造に大きな影響を与える可能性があり、IT業界全体の競争環境を再構築する契機となっています。以下では、主要な訴訟とその背景、影響について詳しく解説します。
検索市場での独占:2020年の訴訟
2020年10月、米国司法省と複数の州は、グーグルが検索エンジン市場および検索広告市場で違法な独占を行っているとして訴訟を提起しました。グーグルがAppleやAndroidデバイスメーカー、通信事業者と結んだ契約により、グーグル検索をデフォルト検索エンジンとして設定し、競合他社(例:Bing、DuckDuckGo)の参入を阻害したとされています。特に、2022年にAppleのSafariブラウザにデフォルト設定を維持するために200億ドルを支払ったことが問題視されました。2024年8月、連邦地裁は、グーグルが検索市場で約90%、検索広告市場で約88%のシェアを持ち、これらの契約が競争を制限する独占的行為であると認定しました。この判決は、1990年代のMicrosoft訴訟以来最大の技術系反トラスト訴訟とされています。
広告技術市場での訴訟:2023年の提訴
2023年1月、司法省と複数の州は、グーグルが広告技術(アドテック)市場で独占を形成しているとして新たな訴訟を提起しました。グーグルが広告サーバー、広告取引所、広告購入サービスを統合し、競合他社を排除することで市場を支配していると主張。特に、2007年のDoubleClick買収が競争を阻害したと指摘されています。2025年4月、連邦地裁はグーグルがアドテック市場で独占的行為を行ったと認定。グーグルは広告サーバーと取引所の不法な結びつきや反競争的政策を通じて独占を維持したとされました。この判決は、グーグルの広告事業(2023年で同社収益の約80%を占める)に大きな影響を及ぼします。
考えられる是正措置とその影響
検索市場訴訟では、2024年12月までに司法省が是正措置を提案し、2025年8月までに最終決定が予定されています。提案されている措置には以下が含まれます:
- 行動的措置:デフォルト検索契約の禁止や、ユーザーに検索エンジン選択画面を提示する義務。
- 構造的措置:クロームやAndroidの売却、広告サーバーや取引所の分離。
アドテック訴訟では、広告サーバーや取引所の売却が求められています。これらの措置が実施されれば、グーグルのエコシステムが分断され、競合他社や新興企業に市場参入の機会が生じる可能性があります。しかし、事業分離は技術的・運営的に複雑で、消費者の利便性やイノベーションに影響を与えるリスクも指摘されています。
業界と消費者への影響
グーグルの独占禁止法問題は、デジタル経済全体に影響を及ぼします。検索市場での是正措置により、ユーザーは代替検索エンジンにアクセスしやすくなり、検索体験の多様化が期待されます。アドテック市場の競争促進は、広告主やパブリッシャーのコスト削減や選択肢の増加につながる可能性があります。一方で、グーグルと契約する企業(例:Appleは2022年に200億ドルの収益分配を受け取った)にとっては収益減のリスクがあり、業界全体のビジネスモデル見直しが迫られます。これらの判決は、他のビッグテック企業に対する反トラスト訴訟の先例となり、規制強化の流れを加速させる可能性があります。
今後の展望と課題
グーグルは両訴訟の判決を不服として控訴を表明しており、法的闘争は長期化する可能性があります。控訴審や是正措置の実施には数年を要する可能性があり、その間もグーグルは市場での優位性を維持する可能性が高いです。是正措置の設計には、競争促進と消費者保護のバランスが求められます。過度な規制はイノベーションを阻害し、緩すぎる措置は独占状態を維持するリスクがあります。パープレキシティのような新興企業の動きは市場のダイナミズムを高めますが、資金や技術面での課題が浮き彫りになっています。グーグルの独占問題は、デジタル経済の未来を形成する重要な転換点となるでしょう。