グーグルに対する独占禁止法訴訟:アメリカと海外の事例

アメリカでのグーグル独占禁止法訴訟
アメリカ以外の海外での独禁法訴訟

グーグル独禁法訴訟:米地裁の「クローム売却の必要なし」判断について

アメリカのIT大手グーグル(アルファベット社)が、インターネット検索市場や関連する事業で独占的な地位を不当に維持しているとして、米司法省や複数の州から独占禁止法(反トラスト法)違反で提訴されている一連の訴訟が注目を集めています。この中で、9月2日に米連邦地裁がグーグルのウェブブラウザ「クローム」の売却は必要ないとの判断を示したとされるニュースが話題となっています。本記事では、この訴訟の背景とクローム売却問題について詳しく解説します。

訴訟の背景:グーグルの検索市場支配と独禁法違反

2020年10月、米司法省と11の州は、グーグルがインターネット検索市場およびオンライン広告市場での独占を維持するために反競争的な行為を行ったとして、ワシントンD.C.の連邦地裁に提訴しました。この訴訟は、1998年のマイクロソフト訴訟以来、IT業界における最も重要な独禁法訴訟の一つとされています。2024年8月、連邦地裁はグーグルが競合他社を排除し、検索市場での独占状態を違法に維持したと判断しました。この判決は、グーグルのビジネスモデルに大きな影響を与える可能性があるとして、世界的に注目されました。

クローム売却要求の経緯

米司法省は、グーグルの検索市場での独占を是正するため、2024年11月にクローム事業の売却を裁判所に要求する方針を固めたと報じられました。クロームは、グーグルのエコシステムの中核を成すウェブブラウザであり、検索エンジンとの密接な連携により、市場支配力を強化していると司法省は主張しました。しかし、グーグル側は、クロームの機能や性能が同社の他部門との「相互依存」に基づいており、売却は技術的にも現実的にも不可能だと反論。グーグルのパリサ・タブリズ氏は、クロームが「17年間の協力」の成果であり、セーフブラウジングモードやパスワード漏洩通知機能などがグーグル全体のインフラに依存していると証言しました。

米地裁の「クローム売却の必要なし」判断

2025年9月2日(米国時間)、米連邦地裁はグーグルに対し、クロームの売却を命じる必要はないとの見解を示したとされています。グーグル側の主張である「クロームの技術的不可分性」や、売却による市場への影響が限定的であるとの見方が影響した可能性があります。一方で、司法省は、クローム売却以外の是正策として、グーグルがスマートフォンメーカーと結ぶ検索エンジンのデフォルト設定契約の見直しなどを求めています。これに対し、グーグルは2024年12月に契約見直し案を提出するなど、是正策を巡る交渉が続いています。

訴訟の今後の影響と展望

この訴訟は、グーグルのビジネスモデルだけでなく、アップルなど他のIT大手にも影響を及ぼす可能性があります。アップルは、グーグルとの検索エンジンデフォルト契約による収益への影響を懸念し、訴訟に介入しています。専門家は、クローム売却が実現しなかったとしても、グーグルの検索エンジンや広告事業に対する規制が強化される可能性があると指摘しています。また、AI技術の進展に伴い、グーグルが検索市場での支配をさらに強化する可能性も議論されており、司法省はAI分野での競争阻害も注視しています。

まとめ

グーグルの独禁法訴訟は、IT業界の競争環境を大きく左右する重要な案件です。米連邦地裁がクローム売却の必要性を否定したとされる判断は、グーグルにとって一時的な勝利と言えるかもしれません。しかし、検索市場での独占是正を求める司法省の動きは続き、契約見直しや新たな規制措置が今後の焦点となるでしょう。引き続き、この訴訟の動向に注目が必要です。

アメリカ以外の海外での独禁法訴訟:グーグルを中心とした事例

アメリカ合衆国以外でも、独占禁止法(反トラスト法)違反を巡る訴訟は世界中で展開されています。特に、欧州連合(EU)では、グーグル(アルファベット社)に対する一連の独禁法訴訟が注目を集めており、巨額の制裁金や事業慣行の変更が求められています。これらの事例は、グローバルなテック企業の市場支配力に対する国際的な監視が強まっていることを示しています。本記事では、アメリカ以外の主要な独禁法訴訟、特にグーグルに関連する事例を紹介します。

EUでのグーグルに対する独禁法訴訟の概要

欧州連合は、グーグルが検索エンジン、モバイルOS、広告市場などで支配的な地位を濫用しているとして、2010年代から複数の独禁法訴訟を提起しています。EUの競争法は、市場での公正な競争を保護することを目的とし、違反企業には売上高の最大10%の罰金を科すことが可能です。グーグルに対する訴訟は、以下の3つの主要なケースを中心に展開しています。これらのケースは、EUがテック大手に対して厳格な姿勢を取る象徴的な事例となっています。

1. グーグル・ショッピング事件(2017年)

2017年、欧州委員会はグーグルに対し、検索エンジンでの自社サービス「Googleショッピング」を優遇し、競合他社の比較ショッピングサービスを不当に扱ったとして、24億ユーロ(約27億ドル)の罰金を科しました。EUは、グーグルが検索結果の上位に自社のショッピングサービスDisplayedすることで、競合他社を市場から排除し、消費者選択を制限したと判断しました。グーグルはこれを不服として控訴しましたが、2021年に欧州一般裁判所はEUの決定を支持。 гуーグルは検索アルゴリズムの変更を余儀なくされました。このケースは、検索エンジンの公平性に関する議論を世界的に加速させました。

2. アンドロイド事件(2018年)

2018年、欧州委員会は、グーグルのモバイルOS「Android」に関する反競争的行為を理由に、43億ユーロ(約50億ドル)という過去最高額の罰金を課しました。EUは、グーグルがAndroidデバイスメーカーに対し、Google検索アプリやChromeブラウザのプリインストールを強制し、競合アプリの採用を制限する契約を結んだと指摘。これにより、競合する検索エンジンやブラウザの市場参入が阻害されたとされました。グーグルは控訴し、2022年に罰金額が41億ユーロに減額されましたが、違反認定は維持されました。この事件は、モバイルOS市場での競争環境の改善を促す契機となりました。

3. 広告市場(AdSense)事件(2019年)

2019年、欧州委員会は、グーグルの広告プラットフォーム「AdSense for Search」における独占的行為に対し、15億ユーロ(約17億ドル)の罰金を科しました。EUは、グーグルがウェブサイト運営者との契約で、競合他社の広告を排除する条項を設け、広告市場での競争を制限したと判断しました。このケースでは、グーグルが競合他社の広告掲載を妨げることで、オンライン広告市場での支配力を強化したとされました。グーグルは是正措置として契約条項を改訂しましたが、引き続き控訴中です。この事件は、デジタル広告市場の透明性と公平性に関する議論を深めました。

他の国・地域でのグーグルに対する独禁法訴訟

EU以外でも、グーグルは複数の国で独禁法違反の調査や訴訟に直面しています。例えば、オーストラリアでは、News Corpなどのメディア企業がグーグルの広告市場支配を問題視し、競争当局が調査を進めています。インドでは、グーグルがAndroid市場での支配的地位を濫用したとして、2022年にインド競争委員会(CCI)から罰金が科されました。また、ロシアや韓国でも、グーグルのアプリストアや検索エンジンの慣行に対する調査が行われており、グローバルな監視が強まっています。これらの事例は、テック企業の国際的な事業展開における法規制の複雑さを浮き彫りにしています。

国際的な独禁法執行のトレンドと影響

グーグルに対する海外の独禁法訴訟は、グローバルな競争政策の強化を反映しています。EUの事例は、他の地域の規制当局に影響を与え、特に新興技術(AIやクラウドサービスなど)における競争環境の監視を強化するきっかけとなっています。2020年、グーグルのCEOサンダー・ピチャイ氏は、AI規制に関する米欧間の協調の必要性を強調しましたが、独禁法の適用は各国で異なるため、企業は地域ごとの法制度に対応する必要があります。また、国際的な独禁法執行は、米国との協力にも影響を及ぼしており、1994年の国際独禁法執行協力法(IAEAA)や二国間協定を通じて、米国と他国の競争当局が情報共有や共同調査を行う例が増えています。

まとめ

アメリカ以外の海外での独禁法訴訟は、グーグルを中心に、検索エンジン、モバイルOS、広告市場など多岐にわたる分野で展開されています。EUの3つの主要なケース(Googleショッピング、Android、AdSense)は、テック大手に対する規制の先駆けとなり、巨額の罰金と事業慣行の変更を強いました。オーストラリアやインドなど他の地域でも同様の動きが見られ、グローバルな競争環境の保護が重視されています。これらの事例は、テック企業の市場支配力に対する国際的な監視が今後も続くことを示しており、企業は各国での法規制への対応を迫られるでしょう。