トランプ大統領、韓国に原子力潜水艦を承認:原潜とは?日本はなぜ作れない?

トランプ大統領、韓国の原子力潜水艦建造を承認
原子力潜水艦(原潜)とは?基本から徹底解説
日本はなぜ原潜を製造できないのか?

トランプ大統領、韓国の原子力潜水艦建造を承認

2025年10月30日、ドナルド・トランプ米大統領は自身のSNS「Truth Social」を通じて、韓国による原子力潜水艦(原潜)の建造を承認したと発表しました。この決定は、米韓首脳会談で合意された貿易・投資協定の見返りとして位置づけられ、東アジアの安全保障環境を一変させる可能性を秘めています。従来のディーゼル潜水艦に代わる原潜の導入は、韓国軍の抑止力強化を意味し、米国との軍事同盟をさらに深化させるものです。

発表の背景と首脳会談の概要

トランプ大統領の承認は、10月29日に韓国南東部・慶州で開催された米韓首脳会談直後に明らかになりました。トランプ氏は韓国を訪問中、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に出席する中で、韓国大統領の李在明氏と約1時間半にわたり会談を実施。会談では、貿易摩擦の解消と安全保障協力が主な議題となりました。

李在明大統領は、会談で北朝鮮の核開発加速や中国の軍事拡張を背景に、韓国が原子力潜水艦用の核燃料を保有・再処理することを米国に求めました。韓国は現在、米韓原子力協定により核燃料の再処理が制限されており、これを解除するための支援を要請。トランプ氏はこれに応じ、「我々の軍事同盟はかつてないほど強固であり、それを踏まえ、原子力潜水艦の建造を承認した」と投稿で述べました。

トランプ氏の投稿では、「彼らが現在保有する旧式の、はるかに機動性に欠けるディーゼルエンジン搭載潜水艦ではなく、原子力潜水艦を建造することを承認した」と強調。原潜は通常兵器を搭載するもので、核兵器搭載の意図はないと韓国側が明言しています。

貿易・投資協定の詳細

この承認の裏側には、米韓間の大規模な経済合意があります。韓国は米国に3500億ドル(約50兆円)規模の支払いを行い、米国が課す関税を25%から15%に引き下げる見返りを得ました。さらに、韓国は米国産石油・天然ガスの大量購入に同意し、総投資額は6000億ドルを超える可能性があります。そのうち1500億ドルは、米国造船業の活性化に充てられる予定です。

トランプ氏は投稿で、「韓国は米国が課す関税を引き下げるために、米国に3500億ドルを支払うことに合意した」とし、造船分野での協力強化を「短期間内に具体的な成果が出る」と評価。韓国企業Hanwha Groupが2024年に買収したフィラデルフィア造船所(Philly Shipyard)で原潜の建造が進められる見込みです。これにより、米国内の雇用創出と造船業の復活が期待されています。

戦略的意義と地域安全保障への影響

韓国の原潜保有は、北朝鮮の核搭載潜水艦開発や中国の海洋進出に対する抑止力として機能します。ディーゼル潜水艦では長時間の追跡が難しかった北朝鮮・中国艦艇の監視が可能になり、米軍の負担軽減につながります。李在明大統領は、「通常兵器を搭載した原潜を数隻保有すれば、米軍の活動を大幅に支援できる」と説明しました。

一方で、この決定は国際的な懸念も呼んでいます。米国はこれまで、核推進技術を英国やオーストラリア(AUKUS協定)と共有してきましたが、韓国への提供は東アジアの軍拡を加速させる恐れがあります。中国は「地域の緊張を高める」と批判する可能性が高く、北朝鮮も反応を示すでしょう。また、韓国国内では原潜保有が核武装論議を再燃させる要因となり得ます。

今後の展望と課題

原潜の建造スケジュールは未定ですが、数年以内の着工が予想されます。米韓両国は原子力協定の改定作業を本格化し、技術共有の詳細を協議する予定です。トランプ政権の「取引外交」がもたらしたこの成果は、米韓同盟の「現代化」を象徴しますが、地域の安定を維持するための慎重な運用が求められます。

この出来事は、トランプ大統領の第2次政権下で進む「アメリカ・ファースト」政策の延長線上にあると言え、経済的利益と安全保障のバランスを重視したアプローチを示しています。引き続き、関連動向に注目が集まります。

原子力潜水艦(原潜)とは?基本から徹底解説

原子力潜水艦(通称:原潜)は、動力源に小型原子炉を使用する潜水艦です。通常のディーゼル潜水艦とは異なり、燃料補給なしで数ヶ月間潜航可能で、現代海軍の戦略的支柱となっています。核兵器を搭載するわけではなく、あくまで「推進システム」が原子力である点が特徴です。

原潜の仕組み:原子力はどう使われる?

原潜の心臓部は、艦内スペースに収まる小型原子炉です。この原子炉が以下の流れで動力を生み出します:

  1. 核分裂反応:高濃縮ウラン(HEU)が連鎖反応を起こし、膨大な熱を発生。
  2. 蒸気発生:熱で水を沸騰させ、高圧蒸気を生成。
  3. タービン駆動:蒸気がタービンを回し、プロペラを回転させる。
  4. 電力供給:余剰電力で艦内システム(レーダー、空調、武器)を稼働。

燃料は10〜30年ごとに1回交換するだけで済み、ディーゼル潜水艦のように頻繁な浮上・充電が不要です。

原潜の圧倒的メリット:ディーゼル潜水艦との比較

項目 原子力潜水艦(原潜) ディーゼル潜水艦
潜航時間 数ヶ月(燃料切れまで) 数日〜2週間(バッテリー切れ)
最高速度 30〜40ノット(55〜74km/h) 20〜25ノット(37〜46km/h)
航続距離 地球数周分(無制限に近い) 数千km(シュノーケル航行時)
静粛性 最新型は極めて静か バッテリー時のみ静か
コスト(1隻) 約4,000〜6,000億円 約500〜800億円

世界の原潜保有国:6カ国のみが実用化

2025年現在、原潜を運用できる国は以下の6カ国のみです(開発順):

  • アメリカ:バージニア級(最新)、オハイオ級(SSBN)
  • ロシア:ボレイ級、ヤセン級
  • イギリス:アスチュート級、ヴァンガード級(SSBN)
  • フランス:トリオンファン級、バラクーダ級
  • 中国:094型(晋級)、096型(開発中)
  • インド:アリハント級(国産1番艦)

韓国は2025年10月、米国から建造承認を得て7番目の国となる予定。日本、オーストラリア、ブラジルなどは技術的に可能でも、政治的理由で保有していません。

原潜の種類:攻撃型(SSN)と弾道ミサイル型(SSBN)

  • SSN(攻撃型):対艦・対潜戦闘用。魚雷、巡航ミサイル(トマホークなど)搭載。例:米バージニア級。
  • SSBN(弾道ミサイル型):核抑止力の中核。SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)搭載。例:米オハイオ級、英ヴァンガード級。

韓国の承認はSSN(攻撃型)で、核兵器搭載の意図はありません。

原潜の未来:無人化・レーザー兵器搭載?

米国は次世代原潜(SSN(X))で以下を計画中:

  • 無人潜航艇(UUV)との連携
  • レーザー対ドローン兵器
  • AIによる自律航行

原潜は「海中の空母」とも呼ばれ、今後も海軍戦略の中心であり続けます。

日本はなぜ原潜を製造できないのか?

日本は世界トップクラスの造船技術を持ち、そうりゅう型・たいげい型などの高性能ディーゼル潜水艦を自国で建造しています。しかし、原潜は作れません。その理由は以下の通りです。

1. 法的・政治的制約:非核三原則

日本は「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則を国是としています。原潜の原子炉は「平和利用の原子力」ですが、軍事利用であるため、国民の反発や国際的誤解を招くリスクがあります。

2. 日米原子力協定による制限

日本は米国との協定で、核燃料の濃縮・再処理に厳しい制限を受けています。原潜用の高濃縮ウラン(HEU)は軍事機密であり、米国は日本への技術移転を認めていません(AUKUSでオーストラリアに例外的に提供)。

3. 技術的ハードル:小型原子炉の開発

潜水艦用原子炉は、陸上発電所よりはるかに小型・高密度でなければなりません。米国・ロシア・フランス・中国・インド・英国のみが実用化。日本は原子力空母すら持たず、軍事用小型炉のノウハウがありません。

4. コストと戦略的必要性

  • 1隻あたり数千億円(米バージニア級は約40億ドル≒6,000億円)
  • 日本周辺海域は浅い海が多く、ディーゼル潜水艦の隠密性の方が有利な場合も
  • 米軍の原潜が日本近海をカバーしているため、「自前で持つ必要性」が低い

日本が原潜を持つ可能性は?

可能性 根拠
現時点:ほぼゼロ 非核三原則、日米協定、国民感情
将来:極めて低い 中国の脅威増大 → 議論は出るが、米国が技術供与を拒否
唯一の道:AUKUS式協力 米国が日本を「第2のオーストラリア」とみなせば可能だが、政治的に非現実的

結論:日本は「作れる」けど「作らない」

技術的には、三菱重工や川崎重工は十分に原潜を建造可能です。問題は「政治的・外交的・法的な壁」です。韓国が米国から承認を得たように、日本が原潜を持つには、非核三原則の事実上の見直し+米国の全面支援が必要です。これは現状、考えにくいシナリオです。

代わりに日本は、リチウムイオン電池搭載の最新ディーゼル潜水艦で「静粛性・潜航時間」を極限まで高め、原潜に匹敵する性能を追求しています(例:たいげい型は2週間以上潜航可能)。