中国人遺族「中国語標識なくルール知りようがない」1.4億円賠償求め提訴
2026年2月27日、神戸地方裁判所(渡部佳寿子裁判長)で、中国人観光客2人が死亡した山陽電鉄の踏切事故に関する損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論が開かれました。遺族側は、中国語の標識がないことを理由に「ルールを知りようがない」と主張し、山陽電鉄と運転士に対し計約1億4千万円の賠償を求めています。一方、被告側は請求の棄却を求め、争う姿勢を示しました。
事故の概要
発生日時・場所・被害者
事故は2025年1月9日午後、神戸市垂水区の山陽電鉄・山田川西踏切(西舞子-大蔵谷間)で発生しました。被害者は中国籍の20代女性2人(大学院生で友人同士)で、観光で来日中でした。2人は踏切北側から進入し、南側の遮断機内側に立ち、国道2号の信号待ちをしていたとみられます。運転士が踏切内にいる2人を発見してブレーキをかけましたが間に合わず、電車にはねられ死亡しました。
現場の特徴
当時の現場は遮断機から国道2号車道までの距離が約1メートル(または1.25メートル)と狭く、急な傾斜がありました。この構造により、待機場所を誤認しやすい状況だったと指摘されています。また、2009年以降、この踏切では人身事故を含む4件の事故が発生していました。現在は国土交通省による改良工事(待機スペースの拡大など)が完了し、歩行者待機スペースが改善されています。
訴訟の経緯
訴訟は2025年12月4日、2人の両親(計4人)が神戸地裁に提起しました。原告は山陽電鉄株式会社と男性運転士を被告とし、慰謝料など計約1億4千万円(一部報道では1億3900万円)の損害賠償を請求しています。
遺族側の主張
インフラ不備と中国語標識の欠如
遺族側は、代理人弁護士を通じて両親の陳述書を代読。「中国では鉄道の踏切に出合うことがなく、中国語の標識がない限りルールを知りようがない。命を奪ったのは踏切のインフラの不備」と述べました。中国語標識がないため、外国人観光客が危険を認識できなかったと主張しています。
安全対策の不備
さらに、山陽電鉄が踏切の危険性を認識しながら、人が立ち入った際に運転士に注意を促す検知システムなどの防止策を講じなかったと指摘。「監督不行き届きと運転士の不注意によって、本来なら避けられるはずだった事故」と強調しました。事故映像では、2人が電車に気づいていなかった様子が確認され、「発見時に警笛を鳴らしていれば退避できた可能性があった」としています。
山陽電鉄側の対応
被告側は「踏切は安全性を十分に満たした保安設備(遮断機・警報機など)を備えている」と反論。運転士は被害者らを踏切手前で発見し、即座に非常制動をかけたと主張しました。被害者側の過失が「極めて重大」だったとして、請求の全面棄却を求めています。
多言語標識の法的義務について
現行法上の位置づけ
日本の道路交通法、鉄道事業法、鉄道に関する技術上の基準を定める省令などでは、踏切の標識・保安設備について日本語による表示や警報・遮断機の設置が義務付けられていますが、**多言語(外国語)表示を明文化した法的義務は存在しません**。基本的に日本語表示を前提としており、中国語などの外国語併記は法的に強制されていません。
ガイドライン・推進状況
国土交通省や観光庁は「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」や「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」などで、多言語表示(特に日本語+英語を基本とし、必要に応じて中国語・韓国語など)の推進を呼びかけています。これらは努力義務や推奨レベルであり、法的強制力はありませんが、訪日外国人増加に伴い業界標準として定着しつつあります。ピクトグラム(絵記号)の活用も推奨されており、言語の壁を超える有効な手段とされています。
民事責任との関係
法的に義務付けられていなくても、観光地近辺の踏切など外国人利用が予見可能な場所では、「安全配慮義務」(民法709条)や「土地工作物責任」(民法717条)に基づき、多言語表示の不備が過失と認定される可能性があります。予見可能性が高く、事故防止措置を講じなかった場合、民事上の責任が問われるケースが増えています。本件訴訟でも、この点が争点の一つとなっています。
類似の外国人事故事例で裁判になったケース
本件の位置づけ
外国人観光客の踏切死亡事故をめぐる損害賠償請求訴訟のうち、多言語標識の欠如やインフラ不備を主な争点とした裁判になった事例は、本件が公表されている限り初のケースです。訪日外国人増加に伴い踏切事故は近年発生していますが、遺族が鉄道会社を提訴した事例はこれまで確認されていません。
最近の類似事故(裁判に至らず)
・2025年8月13日、佐賀県有田町のJR佐世保線踏切で、台湾から観光で来日した50代女性が列車にはねられ死亡。現場には外国語注意書きが設置されていましたが、訴訟の報道はありません。
・2025年1月、北海道小樽市のJR函館線線路内で中国人観光客女性(61)が写真撮影中に列車と衝突死亡(踏切外)。訴訟には発展していません。
これらの事故では外国人観光客の踏切ルール不慣れが指摘されていますが、民事訴訟に至った例はなく、本件が安全対策の在り方を問う初の公表事例となっています。
今後の裁判
第1回口頭弁論では双方の主張が述べられ、審理が本格化します。遺族側は謝罪と賠償金の支払いを求めています。事故後、山陽電鉄は踏切内に日本語・英語・中国語・韓国語の多言語警告表示(ピクトグラム併用)を設置し、再発防止に取り組んでいます。将来的な踏切廃止も検討中です。
