中国系メーカーが日本テレビ市場を席巻:ハイセンスによる東芝事業買収の全貌

中国系メーカーが日本テレビ市場で史上初のシェア過半を達成
ハイセンスによる東芝テレビ事業買収の経緯と影響

中国系メーカーが日本テレビ市場で史上初のシェア過半を達成

2024年、国内の薄型テレビ市場において、中国系メーカーの販売台数シェアが初めて50%を超え、歴史的な転換点を迎えました。この躍進は、グローバルな調達力によるコスト競争力や、地域別製品開発の強化によるもので、世界市場でも韓国メーカーを超える勢いを見せています。一方で、日本メーカーの衰退が顕著で、特にパナソニックは事業撤退を含めた見直しを迫られる状況です。この記事では、中国勢の急成長の背景と日本市場への影響を詳しく解説します。

中国メーカーの躍進の背景

中国系メーカーの成功の鍵は、スケールメリットを活かした価格競争力にあります。特に、テレビの基幹部品である液晶パネルの生産において、中国は政府の巨額補助金により世界シェアの約7割を占めるまでに成長しました。これにより、低価格かつ高品質なパネル供給が可能となり、ハイセンスやTCLといったメーカーはコストパフォーマンスに優れた製品を提供しています。

また、中国メーカーは日本市場向けに特化した製品開発を進めており、ハイセンスは2011年の日本参入以降、大型テレビを低価格で提供する戦略を展開。2024年には、ハイセンスが「TVS REGZA」ブランドを含むシェアで約41%、TCLが約10%を占め、合計で過半を達成しました。

主要メーカーの動向:ハイセンスとTCL

ハイセンスは、中国山東省青島に本拠を置く政府系家電メーカーで、約160カ国に進出。世界で2,914万台(2024年)を販売し、サムスンに次ぐ世界2位の地位を確立しています。日本市場では、2011年に50インチの大型テレビを10万円前後で提供開始し、家電量販店での取り扱いを拡大。現在は「TVS REGZA」ブランドを傘下に置き、国内シェア1位(25.4%)を誇ります。

TCLもまた、中国深センを拠点とする大手メーカーで、2024年に初めて国内シェア4位(9.7%)にランクイン。Google TV搭載のフルHDテレビなど、若年層を意識したネット対応機能が人気を集めています。世界市場ではサムスン、ハイセンスに次ぐ3位で、今後の成長が期待されます。

日本メーカーの苦境

一方、国内メーカーは厳しい状況に直面しています。かつてテレビは日本電機メーカーの旗艦商品でしたが、ソニーやパナソニックのシェアはそれぞれ10%未満に低下。パナソニックは特に、コスト改革の遅れや価格競争力の不足から、テレビ事業の撤退を検討するまでに追い込まれています。シャープは2位(20.6%)を維持するものの、ハイセンスの猛追を受けてシェア20%割れが目前です。

日本メーカーの凋落は、価格競争への対応の遅れや、コロナ禍後の需要減退が影響しています。2020~2023年のコロナ禍では大型テレビの買い替え需要が急増しましたが、その反動で市場全体が縮小。加えて、4Kや有機ELといった高画質化が視聴者のニーズと必ずしも一致せず、買い替え意欲の低下を招いています。

市場への影響と今後の展望

中国メーカーの台頭は、消費者にとって低価格で高性能なテレビの選択肢が増えるメリットをもたらしています。特に、若年層を中心に「コスパ」を重視する傾向が強く、大型テレビの価格が2年間で4割以上下落するなど、市場競争が激化しています。

2025年の市場予測では、TVS REGZAが25.9%、シャープが18.9%、ハイセンスが18.7%、TCLが10.7%と、中国勢のさらなるシェア拡大が予想されます。日本メーカーは、特に有機ELテレビ市場でソニーが健闘するものの、総合シェアでの巻き返しは難しい状況です。

今後、日本メーカーが市場で競争力を取り戻すには、技術革新やブランド力の強化、コスト構造の見直しが急務です。一方、中国メーカーはスマートテレビや動画配信サービス対応の強化を進め、さらなる市場浸透を目指すでしょう。テレビ市場の勢力図は、今後も大きく変動する可能性があります。

ハイセンスによる東芝テレビ事業買収の経緯と影響

2017年11月14日、中国の大手家電メーカーであるハイセンスは、東芝のテレビ事業を担う子会社、東芝ビジュアルソリューションズ(TVS)の95%の株式を129億円(約1億1360万ドル)で取得すると発表しました。この買収により、ハイセンスは東芝ブランドのテレビ事業(生産、研究開発、販売)および40年間のブランド使用権を獲得しました。東芝は残りの5%の株式を保持しつつ、消費者向け事業からの撤退を加速させました。この動きは、ハイセンスのグローバル市場拡大戦略と、東芝の経営再建の必要性が交錯した結果でした。以下では、買収の背景、経緯、そしてその影響を詳しく解説します。

買収の背景:東芝の経営危機とテレビ事業の苦境

東芝は、142年にわたる歴史を持つ日本の大手電機メーカーで、テレビ分野では高品質なディスプレイ技術で知られていました。しかし、2015年の会計スキャンダルと、米国の原子力事業(ウェスティングハウス)での巨額損失により、深刻な経営危機に直面。2016年度、TVSは5410万ドルの営業損失を計上し、テレビ事業は収益性の低い部門となっていました。東芝は、北米や欧州市場からテレビ事業を撤退し、ブランドライセンス供与(例:北米ではCompal、欧州ではVestel)に頼る状況でした。このような背景から、東芝は不採算部門の売却を進め、事業のスリム化を図る必要がありました。

一方、ハイセンスは中国最大のテレビメーカーで、2004年以降13年連続で中国市場シェア1位を維持し、2016年には世界市場で第3位。日本市場では非日系ブランドとしてトップのシェアを誇っていました。グローバル展開を加速させるため、ハイセンスはブランド力と技術力を持つ既存メーカーの買収を戦略的に進めており、2015年にはシャープのメキシコ工場と南北米でのテレビ事業のライセンスを取得していました。東芝の買収は、この戦略の延長線上にありました。

買収の経緯:戦略的決定と条件

2017年11月、ハイセンスはTVSの95%の株式を129億円で取得する契約を締結。買収には、日本国内の2つの工場、数百人の研究開発スタッフ、テレビの画質や音響に関する特許ポートフォリオが含まれました。また、ハイセンスは欧州、東南アジア、その他の市場で東芝ブランドを40年間使用する権利を獲得。これにより、ハイセンスは自社ブランドに加え、東芝ブランドを活用したマルチブランド戦略を展開する基盤を築きました。取引は2018年2月に完了し、ハイセンスはTVSを子会社化しました。

東芝にとって、この売却は財務体質の改善と、消費者向け事業からの撤退を進める一環でした。一方、ハイセンスは、東芝のブランド力と技術力を活用し、特に日本市場でのシェア拡大(買収後、ハイセンスと東芝ブランドの合計シェアは20%超、市場2位に)と、グローバル市場での競争力強化を目指しました。ハイセンスのCEO、劉洪新氏は、TVSの研究開発力やサプライチェーンを統合し、スマートテレビのコンテンツ運用やグローバル販売網の強化を図ると述べました。

買収の影響:市場と業界へのインパクト

この買収は、ハイセンスの日本市場での地位を大きく強化しました。2016年時点で東芝のテレビは日本市場3位、ハイセンスは非日系トップであり、両者の統合により、2024年には「TVS REGZA」ブランドが国内シェア25.4%で1位を獲得するまでに成長。特に、大型テレビの低価格化を推進し、50インチ以上のテレビを10万円前後で提供する戦略が消費者ニーズに合致しました。これにより、ソニーやパナソニックなどの日本メーカーのシェアが縮小し、パナソニックはテレビ事業の撤退検討に追い込まれています。

グローバル市場では、ハイセンスは東芝ブランドを活用し、欧州や東南アジアでの販売を拡大。2018年のFIFAワールドカップ公式スポンサーとしての露出も、ブランド認知度向上に寄与しました。しかし、2019年にはTVSの統合コストや市場の需要低迷により、ハイセンスのテレビ部門は純利益が82%減(6200万元、約8.8億円)と苦戦。一方で、レーザーテレビや有機ELテレビの売上が急増し、長期的な成長基盤を築きました。

日本メーカーにとっては、東芝のテレビ事業売却は、国内電機業界の衰退を象徴する出来事でした。ハイセンスのコスト競争力とグローバル調達力は、日本メーカーが追随できない領域であり、シャープやパナソニックも同様の圧力に直面。この買収は、テレビ市場のグローバル競争がさらに激化する契機となりました。

今後の展望

ハイセンスは、2023年時点で100インチテレビの出荷数世界一、ミニLEDテレビのUXシリーズなど高付加価値製品を展開し、業界での地位を確立しています。東芝ブランドの活用により、特に日本市場での信頼性と認知度を維持しつつ、低価格戦略でシェアを拡大。2025年には、TVS REGZAのシェアが25.9%に達すると予測され、市場リーダーとしての地位をさらに固める見込みです。一方、日本メーカーは技術革新やニッチ市場での差別化が求められ、競争環境は一層厳しくなるでしょう。

この買収は、ハイセンスのグローバル戦略の成功例であると同時に、日本電機産業の構造的課題を浮き彫りにしました。市場の変化にどう対応するかが、今後の業界動向を左右します。