中国の少子化問題と新たな対策
中国では急速な少子化が進んでおり、人口減少が経済や社会に深刻な影響を及ぼす懸念が高まっています。2024年の出生数は過去最低を記録し、出生率の低下は国の将来に大きな課題を投げかけています。この状況に対処するため、中国政府は新たな少子化対策として、3歳未満の子ども1人につき年間3600元(約7万4000円)の現金給付を全国規模で導入する方針を発表しました。この政策は、子育て世帯の経済的負担を軽減し、出産を奨励することを目的としています。以下では、中国の少子化の背景、原因、そして新たな給付政策の詳細について解説します。
中国の少子化の背景
中国の少子化問題は、1979年から2015年まで実施された「一人っ子政策」による影響が大きいです。この政策は人口抑制を目的として、原則として1組の夫婦に子どもの数を1人に制限するものでした。その結果、出生率が大幅に低下し、現在の出産適齢期の女性人口が減少しています。さらに、2016年に「二人っ子政策」、2021年に「三人っ子政策」と産児制限が段階的に緩和されたものの、出生数の持続的な増加にはつながっていません。2021年の出生数は1062万人で、1949年の建国以来最少を更新し、2024年にはさらに70万人を下回る水準にまで落ち込みました。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均数)も1.15と、日本の1.37を下回る低い水準にあります。
少子化の原因
中国の少子化には複数の要因が絡み合っています。まず、経済的負担が大きいことが挙げられます。教育費や子育て費用の高騰により、若い世代は子どもを持つことに慎重になっています。特に都市部では、住宅価格の高騰や生活コストの上昇が若者の結婚や出産意欲を削いでいます。次に、女性の社会進出が進んだことで、キャリアと子育ての両立が難しくなり、晩婚化や出産の遅延が進んでいます。また、コロナ禍による経済的不確実性やロックダウンなどの影響で、婚姻数が減少(2021年4~6月期は前年比20.1%減)し、出産を控える傾向が加速しました。さらに、「一人っ子政策」の影響で育った世代にとって、子ども1人で十分という価値観が浸透しており、複数人の子育てに対する心理的・経済的ハードルが高いことも要因です。興味深いことに、子どもを持つよりもペットを飼うことを選ぶ若者も増え、空前のペットブームが起きています。
新たな給付政策の詳細
2025年7月28日、中国政府は少子化対策として、3歳未満の子ども1人につき年間3600元(約7万4000円)の現金給付を全国で開始する方針を発表しました。この政策は、2025年から実施される予定で、子どもが3歳になるまで継続されます。子育て費用の増加が若者の出産意欲を抑えている現状を踏まえ、経済的支援を通じて出産を促す狙いがあります。この給付は、育児休暇の延長や産休制度の強化といった従来の施策に加え、直接的な家計支援として注目されています。ただし、地方財政の逼迫や地域ごとの経済格差により、給付の効果には疑問の声も上がっています。特に農村部では物価や賃金が都市部と大きく異なるため、7万円という金額のインパクトが地域によって異なる可能性があります。
過去の少子化対策とその効果
中国政府はこれまでにも少子化対策を講じてきました。2015年の「一人っ子政策」廃止後、2016年にすべての夫婦に2人目の出産を認め、2021年には3人目まで容認する政策を導入しました。また、地方政府レベルでは産休・育休の延長、住宅購入時の優遇、個人所得税の軽減など多様な支援策が試みられてきました。しかし、これらの政策は期待されたほどの効果を上げていません。例えば、2021年の出生数は依然として低水準にとどまり、2022年の人口自然増加率は1960年以来のマイナスを記録しました。専門家は、経済的支援だけでなく、働き方改革や子育て環境の整備、若者の価値観の変化への対応が必要だと指摘しています。
少子化対策の課題と展望
新たな現金給付政策は、子育て世帯の経済的負担を軽減する一歩となる可能性がありますが、少子化の根本的な解決にはさらなる努力が必要です。教育費や住宅費の負担軽減、女性のキャリアと子育ての両立支援、若者の結婚・出産に対する価値観の変化への対応など、包括的な対策が求められます。また、地方財政の逼迫が支援策の実施を難しくしている地域もあり、都市部と農村部の格差への配慮も必要です。一部の専門家は、中国中部の小さな町で現金給付が一定の効果を上げた例を挙げつつも、全国規模での成功には政策の継続性と十分な予算確保が不可欠だとしています。2024年の出生数が954万人と前年比で52万人増加したものの、依然として低い水準にあることから、今回の給付政策の効果が注目されます。
まとめ
中国の少子化は、過去の「一人っ子政策」や経済的・社会的要因により深刻化しています。政府は3歳未満の子どもへの年間7万円の給付をはじめとする対策を打ち出していますが、出生率の回復には時間がかかる可能性があります。経済的支援に加え、子育て環境の整備や若者の価値観の変化への対応が求められる中、今後の政策の展開とその効果が中国の人口動態にどのような影響を与えるのか、注目が集まっています。