AI開発企業「オルツ」上場廃止の決定と株価の推移

AI開発企業「オルツ」の上場廃止が決定
オルツの最近の株価推移

AI開発企業「オルツ」の上場廃止が決定

人工知能(AI)開発を手掛ける新興企業「オルツ」が、東京証券取引所(東証)グロース市場において2024年10月に上場を果たしたわずか10カ月後の2025年7月30日、上場廃止が決定しました。この異例の事態は、同社が売上高の最大9割を過大計上していた不正会計が発覚したことが原因です。以下では、この事件の背景や詳細、そして今後の影響について解説します。

オルツとは?主力サービスとその成長

オルツは2014年に設立され、AIを活用した議事録作成サービス「AI GIJIROKU」を主力製品として展開してきました。このサービスは、日本語や英語を含む35カ国語に対応し、会議の音声を自動で文字起こしし、要約する機能を備えています。2020年のサービス開始以降、同社は急速に成長し、2025年1月時点で利用企業数が9,000社を超えたと公表していました。また、生成AIを活用した「デジタルクローン」の開発にも取り組んでおり、従業員の分身をデジタル空間で再現する技術に注目が集まっていました。

不正会計の発覚:循環取引による売上水増し

2025年4月、証券取引等監視委員会(SESC)による調査をきっかけに、オルツの売上高過大計上の疑いが表面化しました。同社が設置した第三者委員会の調査により、2020年12月期から2024年12月期までの4年間で、総額約119億円の売上高が不正に計上されていたことが判明しました。特に2024年12月期では、売上高60億円のうち82%にあたる約49億円が過大計上だったと報告されています。

この不正の核心は「循環取引」と呼ばれる手法にあります。オルツは広告宣伝費や研究開発費の名目で広告代理店や販売パートナーに資金を支出。その資金が別のルートを通じて「AI GIJIROKU」のライセンス購入費用として同社に戻り、売上として計上される仕組みでした。しかし、実際にはこれらの有料アカウントの多くが利用実態を伴わない架空のものだったことが明らかになりました。例えば、2024年12月時点で公表されていた有料会員数2万8,699件のうち、実際に利用されていたのはわずか2,236件でした。

経営陣の関与と社長辞任

第三者委員会の報告書では、創業者の米倉千貴社長(当時)がこの不正に関与していたと指摘されています。報告書は、米倉氏を含む経営陣に対し「上場企業の経営者に求められる誠実性が欠如している」と厳しく批判しました。これを受け、米倉氏は2025年7月28日付で社長を辞任。後任には最高財務責任者(CFO)だった日置友輔氏が就任しましたが、第三者委員会は日置氏も不正に関与していたと指摘しており、経営体制への信頼は大きく揺らいでいます。

上場廃止と民事再生手続き

東京証券取引所は2025年7月25日にオルツを監理銘柄に指定し、上場廃止の基準に該当するかを調査。その結果、7月30日に上場廃止を決定し、8月31日をもって同社株式は東証グロース市場から上場廃止となります。東証は「新規上場申請書類に記載された虚偽の内容が、売上高の大部分にかかわる極めて重要かつ巨額なものであった」と廃止理由を説明しています。

さらに、オルツは同日、負債総額約24億円(2025年6月30日時点)で東京地方裁判所に民事再生手続きの申請を行い、受理されました。同社は「不適切な会計処理により事業価値が毀損し、財務状態の悪化が深刻化。自力での再建が困難」と説明し、裁判所の監督下で事業を継続しながらスポンサー企業を探し、事業再建を目指す方針です。

市場と投資家への影響

オルツの不正会計は、個人投資家を中心に大きな損失をもたらしました。株価は疑惑発覚後の2025年4月28日から連続ストップ安を記録し、7月28日には60円まで下落。ピーク時の株価から大幅に下落し、投資家からは「主幹事証券会社や監査法人が不正を見抜けなかった責任」を問う声が上がっています。また、日本取引所グループ(JPX)の山道裕己CEOは「IPOや監査制度の信頼を揺るがす事態」と述べ、再発防止策の検討を表明しました。

スタートアップエコシステムへの教訓

オルツ事件は、日本のスタートアップエコシステムにおける企業統治(ガバナンス)の重要性を浮き彫りにしました。急速な成長を追求するあまり、健全な財務管理や透明性が軽視されると、企業だけでなく市場全体の信頼が損なわれます。特に、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)のような実態が見えにくいビジネスモデルでは、監査の厳格化や内部統制の強化が求められます。この事件を機に、監査法人、主幹事証券会社、ベンチャーキャピタル(VC)など関係者全体での責任意識の向上が期待されています。

今後の展望

オルツは現在、民事再生手続きのもとでスポンサー企業を探していますが、事業の信頼回復は容易ではありません。日本のスタートアップ市場において、AI分野は依然として注目度が高いものの、今回の事件は投資家や市場関係者に対し、企業のファンダメンタルズ(実質的な事業価値)を厳しく見極める必要性を改めて示しました。オルツの今後の動向は、AI業界だけでなく、新興企業のガバナンスや上場審査のあり方に大きな影響を与えるでしょう。

オルツの最近の株価推移:上場廃止決定に伴う急落とその背景

AI開発企業「オルツ」(東証グロース市場、銘柄コード:260A)の上場廃止決定に伴い、株価は2025年4月の不正会計疑惑発覚以降、劇的な変動を見せました。以下では、最近の株価の動向とその背景を詳しく解説します。

上場前の株価ピークと不正発覚までの経緯

オルツは2024年10月11日に東証グロース市場に上場し、初値は2,200円を記録。その後、AIブームや「AI GIJIROKU」の成長期待から株価は急上昇し、2024年12月には一時5,000円を超える高値を付け、時価総額は200億円以上に達しました。しかし、2025年4月28日に証券取引等監視委員会(SESC)の調査により、売上高の最大9割を過大計上していた不正会計の疑いが浮上。この発表を受け、株価は即座に急落し、連続ストップ安を記録しました。

不正発覚後の株価急落

不正会計疑惑が報じられた2025年4月28日、株価は前日比80%超の下落となる500円を割り込み、終値は約400円に。翌日以降も売りが殺到し、4月末には100円台に突入しました。5月に入ると、第三者委員会の調査進行や上場廃止の可能性が市場に広まり、株価はさらに下落。6月30日時点では約70円前後で推移し、時価総額は上場時の1割以下となる約25億円まで縮小しました。

監理銘柄指定と上場廃止決定直前の動向

2025年7月25日、東京証券取引所はオルツを監理銘柄(審査中)に指定し、上場廃止の可能性を正式に調査。これにより投資家の不安が再燃し、株価は一時50円を割り込む場面も見られました。しかし、7月29日には上場廃止決定がまだ発表されていないことへの短期的な安心感や、投機的な買い戻しにより、一時69円まで急反発する場面もありました。それでも、市場全体の信頼喪失は避けられず、終値は54円でした。この値動きは、短期的なマネーゲームの影響を受けた可能性が高いと指摘されています。

上場廃止決定後の株価とPTS取引

2025年7月30日、東証はオルツの上場廃止を正式決定し、8月31日をもって取引を終了すると発表。この決定後、株価は終値54円(前日比+3円)で引けました。一方、PTS(私設取引システム)では、依然として40円前後で取引される場面が見られ、市場参加者の一部が投機的な取引を続けている状況が確認されています。この動きは、株価の低迷にもかかわらず、短期的な値幅取りを狙う投資家の存在を示していますが、専門家からは「リスクが高すぎる」との声が上がっています。

株価下落の要因と投資家への影響

オルツの株価急落の主な要因は、以下の通りです

  • 不正会計の規模:売上高119億円の過大計上が発覚し、事業実態への信頼が崩壊。
  • 経営陣の責任:創業者の米倉千貴社長(当時)をはじめ、経営陣の不正関与が第三者委員会で指摘され、ガバナンスの欠如が露呈。
  • 上場廃止リスク:東証の厳格な審査により、上場維持が困難と判断された。
  • 市場の信頼喪失:個人投資家を中心に、IPO銘柄への期待が裏切られ、売りが加速。

個人投資家は特に大きな損失を被り、ピーク時の5,000円から現在の54円への下落は、投資額の99%近い損失を意味します。SNS上では、監査法人や主幹事証券会社の責任を問う声も多く見られます。

今後の株価見通し

上場廃止決定により、オルツの株式は8月31日以降、東証での取引が終了します。民事再生手続き中の同社は、スポンサー企業を探しつつ事業継続を目指していますが、株価の回復は極めて困難です。PTSでの取引は当面続く可能性がありますが、流動性が低く、価格変動リスクが高いため、投資判断には慎重さが求められます。オルツの事例は、IPO投資のリスクや、企業の財務透明性の重要性を改めて浮き彫りにしました。