・読売新聞、生成AIによる記事無断利用で米企業を提訴
・生成AIを巡る著作権侵害訴訟の概要と主要な訴訟事例
読売新聞、生成AIによる記事無断利用で米企業を提訴
読売新聞東京本社、大阪本社、西部本社の3社は、2025年8月7日、生成AIを利用した検索サービスを提供する米新興企業パープレキシティに対し、記事の無断利用による著作権侵害を理由に東京地方裁判所に訴訟を提起しました。この提訴は、日本の大手報道機関が生成AI事業者を相手取って起こした初の裁判として注目されています。
訴訟の背景と主張
パープレキシティのサービスは、従来の検索エンジンと生成AIを組み合わせて、インターネット上の情報を収集し、ユーザーの質問に要約した回答を提供します。読売新聞は、2025年2月から6月にかけて、約11万9467件のオンライン記事が無断で取得・複製されたと主張。著作権法上の「複製権」と「公衆送信権」の侵害を訴えています。さらに、記事を要約して提供する「ゼロクリックサーチ」により、読売新聞のウェブサイトへの訪問者が減少し、広告収入の損失が発生しているとしています。
求めている救済と損害賠償
読売新聞は、記事の複製差し止め、複製済みの記事の削除、約21億6800万円の損害賠償を求めています。この金額は、記事の無断利用による経済的損失や、取材に投じた労力とコストに基づいています。読売新聞は、「多大な労力と費用をかけた記事を『ただ乗り』で利用することは許されず、正確な報道に負の影響を与え、民主主義の基盤を揺るがしかねない」と述べています。
日本新聞協会の立場と業界の動向
日本新聞協会は、生成AIによる報道コンテンツの無断利用に対し、著作権者の許諾を得るよう求めてきました。2024年7月には、検索連動型の生成AIサービスが記事に類似した回答を表示することで著作権侵害の可能性が高いとする声明を発表。報道機関が「robots.txt」などで利用拒否の設定を行っても、一部の事業者がこれを無視していると指摘しています。読売新聞も、パープレキシティが利用拒否設定を無視してアクセスを続けたと主張しています。
国内外の文脈と今後の影響
生成AIによる著作物の無断利用を巡っては、米国や欧州で訴訟が相次いでいますが、日本の大手メディアによる提訴は初のケースです。日本の著作権法は、AIの学習に著作物を原則無許諾で使用可能とする規定を設けていますが、「著作権者の利益を不当に害する場合」は例外とされています。この訴訟は、規定の適用や法改正の必要性について議論を加速させる可能性があります。日本新聞協会も、著作権法の改正を含めた法制度の整備を政府に求めています。パープレキシティからの公式なコメントは現時点で未発表です。
生成AIを巡る著作権侵害訴訟の概要と主要な訴訟事例
生成AI技術の急速な普及に伴い、著作権侵害を巡る訴訟が世界中で増加しています。メディア企業、アーティスト、音楽出版社などが、生成AI企業による著作物の無断利用を問題視し、訴訟を提起しています。これらの訴訟は、AIモデルのトレーニングデータに著作物が使用されることや、AI生成物が著作権を侵害する可能性について争われています。以下では、主な訴訟の背景、具体例、今後の影響について詳しく解説します。
訴訟の背景と主な争点
生成AIは、大量のデータを用いてトレーニングされ、テキスト、画像、音楽などを生成します。しかし、トレーニングデータに著作権で保護されたコンテンツが無断で使用されるケースが問題となっています。原告側は、AI企業がインターネット上の記事、画像、音楽などを許可なく収集し、複製や公開送信を行っているとして、著作権侵害を主張。特に、生成AIが要約や類似コンテンツを生成することで、オリジナルコンテンツの市場価値やウェブサイトのトラフィックが損なわれると訴えています。一方、AI企業は「フェアユース(公正利用)」を主張し、トレーニング目的での利用は著作権侵害に該当しないと反論しています。このフェアユースの適用可否が、多くの訴訟の中心的な争点です。
主要な訴訟事例
読売新聞社 vs. パープレキシティ(2025年): 読売新聞は、米新興企業パープレキシティが提供する生成AI検索サービスが、約11万9467件のオンライン記事を無断で取得・複製したとして、東京地裁に提訴。記事の要約提供により広告収入が減少したとし、約21億6800万円の損害賠償と複製差し止めを求めています。日本での大手メディアによる生成AI事業者への提訴は初のケースです。
ニューヨーク・タイムズ vs. OpenAI・マイクロソフト(2023年): ニューヨーク・タイムズは、OpenAIとマイクロソフトが同社の記事を無断でトレーニングデータに使用し、ChatGPTが記事のほぼそのままの抜粋や要約を生成しているとして提訴。フェアユースの適用や、市場競争への影響が争点となっています。原告は、モデルやトレーニングデータの破棄も求めています。
アンデルセン vs. Stability AI・Midjourney・DeviantArt(2023年): ビジュアルアーティストのグループが、AI画像生成ツール(Stable Diffusion、Midjourney、DreamUp)が著作権保護された画像を無断でトレーニングに使用したとして提訴。裁判所は一部の直接侵害の主張を認め、訴訟を進行させています。AIモデルが「圧縮されたコピー」を保持しているかどうかも争点です。
ゲッティ・イメージズ vs. Stability AI(2023年): ゲッティ・イメージズは、約1200万枚の画像がStable Diffusionのトレーニングに無断使用されたとして、米国と英国で提訴。生成画像にゲッティの透かしが含まれるケースが、商標権侵害や市場混乱の証拠として挙げられています。
コンコード・ミュージック vs. Anthropic(2023年): 音楽出版社が、AnthropicのAIチャットボットClaudeが歌詞を無断で複製し、生成物として出力したとして提訴。直接侵害や間接侵害に加え、著作権管理情報の削除も問題視されています。
フェアユースと法制度の議論
多くの訴訟で、AI企業はトレーニングデータへの著作物使用が「フェアユース」に該当すると主張しています。フェアユースは、報道、学術研究、パロディなど特定の目的での著作物利用を許可する米国著作権法の例外です。しかし、生成AIが商業目的で利用され、オリジナルコンテンツと競合する場合、フェアユースの適用は厳しく判断される可能性があります。過去の判例(例:Google Books訴訟)では、変形的な利用(transformative use)が認められたケースがありますが、生成AIの場合は、出力物がオリジナルと類似する場合や市場を奪う場合にフェアユースが認められにくいとの見方もあります。日本では、著作権法第30条の4がAIの学習目的での利用を原則許可していますが、「著作権者の利益を不当に害する場合」は例外とされ、読売新聞の訴訟でもこの点が焦点となる可能性があります。
今後の影響と課題
これらの訴訟の結果は、生成AIの開発と利用に大きな影響を与えます。裁判所が著作権侵害を認めれば、AI企業はコンテンツのライセンス契約を強化する必要が生じ、ビジネスモデルの変更を迫られる可能性があります。一方で、フェアユースが広く認められれば、著作権者の保護が弱まり、コンテンツ産業に悪影響を及ぼす懸念があります。また、AI生成物の著作権保護の可否も議論されており、米著作権局はAI単独で生成した作品の著作権登録を認めない立場を維持しています(例:Thaler v. Perlmutter)。各国で法改正の動きも進んでおり、米国では「生成AI著作権開示法(2024年)」が提案され、トレーニングデータの透明性を求める声が高まっています。生成AIの倫理的・法的な枠組み構築が、今後の課題となるでしょう。