令和5年度所得再分配調査報告書の概要
厚生労働省は令和7年12月23日、令和5年度所得再分配調査の結果を発表しました。この調査は、社会保障制度における給付と負担、租税制度の負担が所得の分配に与える影響を明らかにし、社会保障施策の浸透状況・影響度を把握することを目的としています。調査は全国の無作為抽出世帯を対象に留置自計方式で行われ、所得データは主に令和4年分を基にしています。
ジニ係数とは
ジニ係数(Gini coefficient)とは、所得の分配の平等度を測る代表的な指標です。0から1の値を取り、0に近いほど完全平等(全員が同じ所得)、1に近いほど完全不平等(1人が全ての所得を持つ)を示します。ローレンツ曲線と完全平等線の面積比として計算され、厚生労働省のこの調査では、当初所得(市場所得、再分配前)と再分配所得(税・社会保険料控除+社会保障給付後)の格差を比較し、再分配効果を評価する際に用いられます。
調査の主要結果(世帯単位)
所得再分配の効果を測る代表的な指標であるジニ係数の結果は以下の通りです。
- 当初所得(市場所得)のジニ係数:0.5855(令和2年度:0.5700、前回比上昇)
- 再分配後のジニ係数:0.3825(令和2年度:0.3813、ほぼ横ばい)
- 再分配による改善度:34.7%(令和2年度:33.1%、微増)
再分配効果の内訳
- 社会保障による改善度:31.6%
- 税による改善度:4.4%
平均所得
- 平均当初所得:384.8万円(前回比9.1%減)
- 平均再分配所得:467.7万円(前回比7.2%減)
※再分配所得(467.7 万円)=平均当初所得(384.8 万円)-{税金(48.2 万円)+社会保険料(52.9 万円}+社会保障給付(184.1 万円)
主な特徴と変化のポイント
当初所得のジニ係数が上昇した主な要因は、世帯の高齢化進行(世帯主65歳以上の割合:55.2% → 56.7%)によるものです。ウエイト調整後でも上昇傾向が見られますが、再分配後のジニ係数はほぼ横ばいを維持しており、社会保障制度による再分配機能が所得格差の拡大を効果的に抑制していることが示されています。
所得階層別の再分配効果
十分位階級別の分布では、低所得層(第1・第2十分位)の再分配後構成比が当初所得の0.0%から5.2%へ大幅に上昇。一方、高所得層(第10十分位)は36.6%から27.4%へ低下しており、低所得層への所得移転効果が顕著です。
世帯類型別の特徴
- 高齢者世帯:当初所得107.8万円 → 再分配所得338.4万円(再分配係数213.8%)、ジニ係数0.7358 → 0.3611
- 母子世帯:当初所得272.4万円 → 再分配所得287.7万円(再分配係数5.6%)
等価所得(世帯員単位)の結果
- 等価当初所得ジニ係数:0.5037
- 等価再分配所得ジニ係数:0.3163
- 再分配改善度:37.2%
今回の調査結果から見える日本の現状
今回の調査結果は、日本の所得格差の実態と社会保障制度が果たしている役割を鮮明に示しています。
1. 高齢化による市場格差の拡大
当初所得のジニ係数が0.5855と過去最高を更新した点は、非常に重要なポイントです。これは主に世帯主が65歳以上の高齢者世帯が増加し続けているという人口構造の変化を反映したものであり、市場メカニズムだけでは所得格差が拡大しやすい現状を物語っています。
2. 社会保障制度による強力な抑制効果
拡大し続ける市場格差に対し、社会保障制度を中心とした再分配機能が強力に機能していることが確認されました。再分配後のジニ係数は0.3825と前回からほぼ横ばいを維持しており、特に年金等の給付が低所得層や高齢者世帯の生活を支える「安全網」として、格差是正に大きく寄与しています。
3. 全体的な所得水準の低下という課題
一方で、平均所得(当初所得・再分配所得ともに)が前回調査から減少している点は、日本経済全体の課題として注視する必要があります。今後は、既存の再分配機能を維持・強化することはもちろん、現役世代の所得底上げや、少子高齢化に対応した持続可能な制度設計が、格差是正と経済成長の両立に向けた喫緊の課題と言えます。
報告書の入手先
詳細な報告書・統計表は以下の公式サイトから入手可能です。
報道発表ページ
令和5年所得再分配調査報告書
政府統計の総合窓口(e-Stat)でもデータが公開されています。
この調査結果は、税・社会保障による再分配機能が日本の所得格差を一定程度是正していることを示す重要な資料です。
