・PFASをめぐる全国初の公害調停申請の概要
・PFAS(有機フッ素化合物)問題の概要
PFASをめぐる全国初の公害調停申請の概要
2025年12月23日、大阪府摂津市の住民らが、有機フッ素化合物(PFAS)の汚染問題を巡り、大手化学メーカーのダイキン工業に対して公害調停を申請しました。この申請は、PFAS汚染を巡る企業に対する公害調停として全国で初めて受理された事例です。
汚染の背景
大阪府摂津市にあるダイキン工業の淀川製作所周辺の地下水から、PFASの一種であるPFOSとPFOAの合計値が1リットルあたり2万6千ナノグラムという全国で最も高い濃度で検出されています。この工場では、過去にPFOAを取り扱っていたことが確認されています。
2023年に実施された住民の血液検査では、PFOSやPFOAが高濃度で検出されており、健康への影響が懸念されています。こうした汚染状況が、申請のきっかけとなっています。
申請の詳細
申請者は地元住民ら803人で、住民団体「ダイキンPFAS公害調停をすすめる会」が主導しています。将来的には追加申請を含めて千人規模を目指す方針です。
申請先は大阪府公害審査会で、対象企業はダイキン工業です。申請では、京都大学などのチームによる血液検査報告書など28点の証拠を提出しています。
要求内容
申請者らは、以下の3点を主な要求として挙げています。
- PFAS汚染に関する情報の開示(地下水の汚染状況の調査結果開示)
- 環境調査および健康調査の実施(継続的な住民への健康調査)
- 個別の汚染対策と被害補償のための枠組み作り
受理状況と意義
申請は2025年12月23日付で大阪府公害審査会により受理されました。この受理は、PFAS汚染を巡り企業を相手とした公害調停申請として全国初のケースです。
調停を通じて、汚染の実態解明と被害者支援の進展が期待されていますが、具体的な調停の進捗は今後の審査会での議論に委ねられます。
PFAS(有機フッ素化合物)問題の概要
PFAS(有機フッ素化合物)は、耐熱性・撥水性・耐油性に優れることから「永遠の化学物質」と呼ばれ、フライパンのコーティング、防水スプレー、泡消火剤など、私たちの身近な製品に広く使用されてきました。しかし、分解されにくく環境中に長く留まる性質があるため、現在、世界中で水質汚染や健康被害が深刻な社会問題となっています。
日本国内でも、工場周辺や米軍基地・自衛隊施設周辺での地下水・河川の汚染が次々と判明しており、住民の健康への不安が急速に高まっています。
健康への懸念と国際的な評価
PFASは、人体への蓄積性が指摘されており、以下のような健康リスクとの関連が国際的に研究されています。
- 発がん性:国際がん研究機関(IARC)は、PFOAを「グループ1(発がん性がある)」に分類しています。
- 各種障害:肝機能障害、免疫機能の低下、コレステロール値の上昇。
- 次世代への影響:甲状腺機能異常や生殖機能への影響、子どもや妊婦へのリスク。
汚染地域の住民を対象とした自主的な血液検査では、一般集団の平均を大きく上回る血中濃度が確認される事例が相次いでいます。
日本における法規制の進展
日本政府は国際的な「ストックホルム条約」に基づき、段階的に規制を強化してきました。これにより、新規の製造や輸入は現在、厳しく制限されています。
- 2010年:PFOSの製造・輸入を原則禁止。
- 2021年:PFOAの製造・輸入を原則禁止。
- 2024年:PFHxSの製造・輸入を原則禁止。
- 2025年1月:PFOA関連物質など138種類のPFASを「第一種特定化学物質」に指定し、製造・輸入を原則禁止。
今後の展望と解決すべき課題
今回の公害調停は、単なる一地域の紛争にとどまらず、日本全体のPFAS対策の「試金石」になるとみられています。今後の焦点となるのは以下のポイントです。
水道水・土壌基準の厳格化
現在、日本の水道水の目標値(暫定指針値)は50ng/Lですが、米国などの厳しい国際基準(4ng/Lなど)に合わせ、さらなる引き下げを求める声が強まっています。
汚染源特定と浄化費用の負担
「原因者負担の原則」に基づき、汚染を引き起こした企業や施設が、どこまで土壌・地下水の浄化費用や住民の健康管理を負担すべきか。今回の調停結果が、全国の汚染地域(多摩、沖縄、静岡、岡山など)における解決モデルになる可能性があります。
土壌汚染への法的対応
現在は水質を中心に調査が進んでいますが、今後は汚染の元となった「土壌」の浄化技術の確立と、法的な浄化基準の策定が不可欠な課題となっています。
