・ウナギの国際取引規制案がワシントン条約委員会で否決される
・日本におけるウナギ養殖の現状
ウナギの国際取引規制案がワシントン条約委員会で否決される
2025年11月27日、ウズベキスタンで開催されている絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約、CITES)の締約国会議において、ニホンウナギを含むウナギ属全種の国際取引を規制対象に追加する提案が、委員会段階で否決されました。この決定は、ウナギの資源管理と国際取引のバランスをめぐる議論の結実を示すものです。
提案の背景と内容
提案は欧州連合(EU)から出され、主にヨーロッパウナギの違法取引防止を目的としていました。ヨーロッパウナギはすでにワシントン条約の規制対象ですが、他のウナギ種との見分けがつきにくいため、違法取引が横行しているとの指摘がありました。この提案では、ニホンウナギを含むウナギ属全種を付属書Ⅱ(輸出入の監視対象)に追加し、国際取引に厳格な許可制度を導入する内容でした。
委員会での投票結果
27日の委員会での採決では、賛成35票、反対100票、棄権8票という結果となり、提案は否決されました。ワシントン条約の決定プロセスでは、3分の2以上の賛成が必要なため、この投票により提案は委員会段階で失効しました。日本を含む多くの国が反対に回ったことが、否決の要因となりました。
日本の政府の立場
日本政府は、ニホンウナギの絶滅危惧の恐れはなく、国内での資源管理が十分に機能しているとして、この提案に反対しました。養殖技術の進展や漁獲量の規制により、資源の持続可能性が確保されていると主張しています。この立場は、国際的な議論の中で支持を集め、否決に寄与しました。
今後の手続きと影響
この否決は委員会段階の決定ですが、締約国会議の本会議は12月5日まで続き、最終決定が行われます。ただし、委員会での否決が維持される可能性が高いと見られています。規制案が採択されなかったことで、ウナギの国際取引価格の上昇は回避され、日本国内のウナギ産業への即時的な影響は限定的です。一方で、資源保護の観点から、国際的な監視が継続されるでしょう。
日本におけるウナギ養殖の現状
2025年現在、日本でのウナギ養殖は主にニホンウナギを対象とし、天然のシラスウナギを採捕して育てる種苗養殖が中心です。この養殖形態は資源の持続的な利用を目的とした厳格な規制の下で実施されており、農林水産大臣の許可を要する指定養殖業として位置づけられています。許可制は2015年(平成27年)から導入され、池入れ数量の上限が設定されています。
養殖の概要と規制
ニホンウナギの養殖は、河口域で採捕したシラスウナギを養殖池で育成する形態が主流です。令和7年(2025年)から令和8年(2026年)漁期の池入れ数量上限はニホンウナギで21.7トン、ニホンウナギ以外の種で3.5トンに定められています。養殖場数はニホンウナギで約440場です。許可申請は毎年6月から9月にかけて受け付けられ、有効期間は1年間です。この規制により、無許可養殖は3年以下の懲役または200万円以下の罰金が科されます。
国際的な資源管理として、日本、中国、韓国、チャイニーズ・タイペイの4か国による非公式協議(第18回、2025年6月開催)で、池入れ数量の上限遵守や管理措置のレビューが行われ、前年比2割削減の合意が継続されています。シラスウナギの採捕停止措置(上限到達時)や下りウナギの採捕制限も都道府県に通知されています。
生産量と供給状況
ウナギの供給は輸入量、養殖生産量、漁業生産量から構成されます。2024年の黄ウナギ漁獲量は52トンで、シラスウナギの国内採捕量は約7〜10トン(速報値ベースで豊漁)です。これは1960年代の200トン超から95%以上の減少を示すものです。養殖生産はシラスウナギの採捕量に依存するため、全体供給量も資源減少の影響を受けています。2025年9月末までの池入れ実績は公表されており、過去漁期と同様に規制遵守の下で管理されています。
技術開発の進展
完全養殖技術の開発が活発で、水産研究・教育機構(水研機構)、近畿大学、東洋水産などが連携しています。東洋水産は民間企業として初のウナギ研究機関を設置し、7世代目の孵化・飼育に成功しました。近畿大学は独自開発の餌の特許を申請し、数万匹のウナギを飼育中です。これらの取り組みにより、2028年に完全養殖ウナギを食卓に提供する目標が掲げられています。
また、シラスウナギ生産のコスト削減技術として、新たな量産水槽(FRP製)が開発され、1水槽あたり約1000尾の生産に成功しました。これにより、種苗1尾あたりの飼育コストを従来比20分の1の約1800円に削減しています。この技術は特許を取得済みで、飼育方法の高度化や自動給餌システムの開発が進められています。
さらに、2017年から2023年までの「ウナギ種苗の商業化に向けた大量生産システムの実証事業」により、乾燥飼料の開発が進み、仔魚からシラスウナギまでの育成が可能となりました。トレーサビリティ導入プロジェクトでは、QRコードを活用した流通追跡モデルが概念設計され、2025年度に運用開始予定です。
課題と今後の展望
主な課題はシラスウナギの加入量減少と価格高騰で、2025年の稚魚相場は1キログラム130万円、不漁時には200万〜300万円に達します。資源減少の要因として、気候変動や過度な漁獲圧力が挙げられ、改正漁業法による罰則強化や水産流通適正化法の適用(2025年12月)が流通の透明化を推進しています。国際合意の遵守とトレーサビリティの確実な実装が求められます。
今後、完全養殖の商業化とコスト削減技術の社会実装により、天然資源依存からの脱却が期待されます。これにより、ウナギの持続可能な供給と食文化の維持が図られるでしょう。
