・ワシントン条約締約国会議(CoP20)の概要
・ウナギ規制提案の詳細(CoP20 Prop. 35)
・ウナギ消費量の多い国々の概要
ワシントン条約締約国会議(CoP20)の概要
ワシントン条約(CITES: 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の締約国会議第20回(CoP20)は、2025年11月24日から12月5日まで、ウズベキスタンのサマルカンドで開催されています。この会議は、野生動植物の国際取引を規制するための附属書改正提案を審議する重要な場であり、今回は51件の種リスト改正提案が議論されています。特に、ウナギ属(Anguilla spp.)の全種を附属書IIに追加する提案が注目を集め、持続可能な資源管理と違法取引防止の観点から活発な議論が展開されています。
会議の背景と目的
CoP20は、中央アジアで初めて開催されるCITES締約国会議として位置づけられ、高レベル対話に先立つ準備期間を含め、参加国が種の保護策を決定します。ウナギに関する議論は、過剰な国際貿易が種の存続を脅かしているという懸念に基づいています。提案された規制は、取引の追跡可能性を高め、非有害性判定(NDF: Non-Detriment Finding)の実施を義務づけることを目指しています。
ウナギ規制提案の詳細(CoP20 Prop. 35)
欧州連合(EU)とパナマが提出したCoP20 Prop. 35は、ウナギ属の全19種をCITES附属書IIに追加することを求めています。現在、欧州ウナギ(A. anguilla)は2010年から附属書IIにリストされていますが、日本ウナギ(A. japonica)とアメリカウナギ(A. rostrata)はリスト外であり、類似種(look-alike)の取引が規制の抜け穴となっています。この提案は、すべてのAnguilla種を対象にすることで、種の識別困難性を解消し、持続可能な貿易を確保するものです。
提案の根拠:生物学的状況
ウナギ属の種は、すべて降海回遊性(catadromous)で、海洋産卵と淡水成長の複雑なライフサイクルを持ち、過剰漁業、栖息地喪失、汚染、気候変動、疾患などの脅威に脆弱です。IUCN赤リストでは、日本ウナギとアメリカウナギが絶滅危惧種(Endangered)に指定されており、3世代(日本ウナギで24年、アメリカウナギで36年)での個体数減少率が約50%に達しています。熱帯種(例: A. marmorata, A. bicolor)も貿易に巻き込まれ、データ不足ながら同様のリスクを抱えています。
貿易と消費の現状
グローバルなウナギ供給量は、2020-2022年の3年平均でFAOデータに基づき約286,000トンと推定され、主に養殖用の稚魚(glass eels/elvers)と加工品として取引されています。DNAバーコーディング分析(26都市、11カ国/地域、282サンプル)では、消費ウナギの99%以上がA. anguilla、A. japonica、A. rostrataで、A. rostrataが54.1%、A. japonicaが44.1%を占めます。日本、台湾、フランス、英国ではA. japonicaが優勢で、東アジア市場ではA. rostrataへのシフトが見られます。違法取引の例として、欧州でのOperation LAKE(2024-2025年、22トン押収)やカナダでの90トン偽申告肉押収(2023年)が挙げられ、種の代替や隠蔽が課題です。
実施と管理措置
提案は、附属書II追加後18ヶ月の猶予期間を設け、既存の国家/地域措置(例: カナダのElvers所持・輸出規制、2024年施行)と連携します。輸出国はNDFを実施し、CITES許可証を発行。東アジアの非拘束的共同声明(中国、日本、韓国、台湾、2025年)でガラスウナギの野生投入制限が合意されていますが、国際的な拘束力が不足している点が指摘されています。
国際的な反応と議論
CoP20でのウナギ提案は、保護派と貿易依存国との間で対立を呼び起こしています。CITES事務局は提案を支持し、種特異的報告と追跡性を強化するものと評価。一方、漁業セクターは貿易混乱の懸念を表明しています。
支持側の立場
ワイルドライフ・コンサーバーション・ソサエティ(WCS)は、提案35の採用を強く呼びかけ、サメや他の種とともに大胆な保護措置を求めています。EUとパナマは、FAO専門家パネルの批判(リスト基準の解釈、look-alike問題、データ欠落)に対し、予防原則に基づく包括的規制の必要性を主張。カナダやカリブ海諸国(例: ドミニカ共和国)も支持し、違法輸出防止に寄与するとしています。
反対側の立場
日本は提案に強く反対し、視覚的類似性のみで全種を規制する理屈を争っています。中国、韓国、台湾との輸入依存を考慮し、アジア太平洋地域のウナギ貿易に悪影響を及ぼすと主張。FAOパネル報告(2025年9月)を引用し、EUの提案を拒否した点を強調し、既存の地域管理で十分としています。日本はこれらの国々と協力して署名国に拒否を促す方針です。
今後の展望
CoP20での審議は、ウナギのグローバルな持続可能性を左右します。提案採択の場合、国際貿易の透明性向上と個体数回復が期待されますが、実施の遅延や地域経済への影響が課題です。会議の結果は、CITESの公式ウェブサイトで公表される予定です。
ウナギ消費量の多い国々の概要
ウナギ(主にAnguilla属)のグローバルな消費量は、2020年から2022年の平均でFAOデータに基づき約285,864トンと推定され、その99%以上が絶滅危惧種に指定されたアメリカウナギ(A. rostrata)、日本ウナギ(A. japonica)、欧州ウナギ(A. anguilla)の3種で構成されています。消費の大部分は東アジア地域に集中し、国内供給量(生産量+輸入量-輸出量)を消費の近似値として算出すると、中国、日本、韓国が上位を占めます。ただし、中国のデータには養殖生産量の過大報告の可能性が指摘されており、代替データ源(東アジア諸国間の非公式協議)では日本がより大きなシェアを示します。以下では、主要国について国内供給量を中心に紹介します。
中国:最大規模の供給国
中国の国内供給量はFAOデータで約171,995トン(グローバルシェア60.17%)と最大規模ですが、代替データでは約7,402トン(シェア6.10%)と大幅に低くなります。この差は、主に日本ウナギを中心とした養殖生産量の推定値の違いによるものです。消費は主に南部地域のレストランで生きたウナギを使った炒め物や煮込みとして行われ、輸出国としての役割も大きい一方で、国内市場の拡大が観察されています。DNAバーコーディング分析では、中国産製品の74%がアメリカウナギ、26%が日本ウナギでした。
日本:伝統的な大消費国
日本の国内供給量は約54,994トン(FAOデータでグローバルシェア19.24%)で、1人当たり約436gと世界最高水準です。代替データでも同量でシェア45.35%と高く、蒲焼きなどの加工品が家庭や飲食店で広く消費されます。過去10年で消費量は減少傾向にあり、2013年時点で約35,000トン(グローバルシェア13-45%)でしたが、価格高騰や食品安全懸念が影響しています。サンプリングでは、消費ウナギの100%が日本ウナギでした。
韓国:急増する消費国
韓国の国内供給量は約18,813トン(FAOデータでグローバルシェア6.58%)で、1人当たり約367gと高く、ジャンオグイ(蒲焼き風)としてレストラン消費が主流です。2000年代以降、消費量は4,500トンから23,000トンへ増加し、代替データでもシェア15.51%を占めます。輸入は主に中国産の生きたウナギで、生産量も約8,460トン(2013年)です。
その他の主要消費国
東アジア以外では、米国や欧州諸国が一定のシェアを占めます。以下に主な国を挙げます。
米国:アメリカウナギ中心
米国の国内供給量は約7,039トン(FAOデータでグローバルシェア2.46%)で、1人当たり約21gです。サンプリングでは消費ウナギの100%がアメリカウナギで、加工品としての需要が主です。
香港:高1人当たり消費
香港の国内供給量は約3,237トン(FAOデータでグローバルシェア1.13%)で、1人当たり約428gと日本に次ぐ高さです。輸入依存が高く、東アジア貿易のハブとして機能します。
台湾:輸出志向の消費
台湾の国内供給量は約1,810トン(FAOデータでグローバルシェア0.63%)で、1人当たり約80gです。生産量は約1,904トン(2013年)ですが、主に日本への輸出に回され、国内消費は5,000トン未満と推定されます。
欧州諸国:伝統消費の継続
欧州ではオランダの国内供給量が約3,146トン(FAOデータでグローバルシェア1.10%、1人当たり183g)で、燻製ウナギが代表的です。フランス、スペイン、英国では欧州ウナギの消費が主流で、DNA分析ではこれらの種が優勢ですが、詳細な供給量データは限定的です。EU全体では、生産と消費が安定しています。
地域別傾向と課題
東アジア(中国、日本、韓国、台湾、香港)はグローバル消費の71-88%を占め、養殖依存の貿易が活発です。一方、欧州や北米は種特異的な消費が目立ち、違法貿易の懸念があります。データ源間の不一致(例: FAO vs. 非公式協議)が課題で、正確なモニタリングが求められています。
