・IPACが中国総領事の威嚇投稿を非難
・IPAC(対中政策に関する列国議会連盟)とは
IPACが中国総領事の威嚇投稿を非難し、高市首相支持を国際的に呼びかけ
2025年11月20日、日米欧など民主主義圏の国会議員らで構成される「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」は、中国の薛剣駐大阪総領事がSNS上で高市早苗首相に対する威嚇的な投稿を行ったことに対し、強い非難の声明を発表しました。この声明では、高市首相の台湾有事に関する国会答弁を「極めて正当」と評価し、各国政府に対し「日本への支持表明を明確に打ち出すよう」求める内容が含まれています。IPACは、発足から5年間にわたり、健全な対中政策を推進する国際的な議員ネットワークとして活動しており、今回の声明は約30カ国・地域から300人以上の議員が連名で出しています。
事件の経緯:中国総領事の投稿とその背景
事件の発端は、2025年11月7日の衆院予算委員会での高市首相の発言に遡ります。高市首相は、野党議員の質問に対し、中国による台湾への軍事封鎖などの行動が日本にとって「存立危機事態」に該当する可能性を指摘し、自衛隊の出動を正当化する可能性を述べました。この発言は、歴代首相が踏襲してきた「台湾有事は日本有事」という認識を具体的に反映したもので、日本政府の安全保障政策と整合的です。
これに対し、翌8日、中国の薛剣駐大阪総領事はX(旧Twitter)上で、朝日新聞の関連記事を引用した投稿を行い、「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」との表現を使用しました。この投稿は、高市首相の首を切ることを示唆する威嚇的な内容として広く解釈され、即座に削除されました。日本政府はこれを「極めて不適切」と強く抗議し、中国側に説明と適切な対応を求めています。米国大使館も「脅迫」と位置づけ、国際的な批判を呼び起こしました。
IPACの声明内容とその意義
IPACの声明は、薛剣総領事の投稿を「威圧的言動」として明確に非難する一方、高市首相の答弁を「民主主義国家の指導者として当然の立場表明」と擁護しています。声明の主なポイントは以下の通りです:
- 中国の外交官による脅迫的な表現は、国際的な外交規範に反し、民主主義諸国への敵対的姿勢を露呈するものである。
- 高市首相の発言は、台湾海峡の平和と安定を維持するための正当な懸念に基づく。
- 各国政府に対し、日本支持の明確な表明を求め、IPAC加盟議員として日本との連携を強化する。
IPACの日本事務局長を務める山尾志桜里元衆院議員は、X上で「IPACによる迅速明確な日本支持声明。米、英、欧州、豪、南米諸国、太平洋島嶼国まで、共に健全な対中政策を掲げ連携してきた仲間が、こうしてすぐさま強力に応援してくれることに感謝します」と投稿し、国際的な連帯の重要性を強調しました。この声明は、単なる非難にとどまらず、議会レベルでの日本支援を具体的に呼びかける点で、外交的な影響力が大きいと評価されています。
国際社会の反応と今後の影響
IPACの声明発表後、産経新聞をはじめとする日本メディアで広く報じられ、X上でも支持の声が相次いでいます。例えば、産経ニュースの投稿は1万7千以上のいいねを獲得し、国際的な注目を集めました。一方、中国側は投稿の削除後も、旅行警告の発出や日本産海産物の輸入停止などの報復措置を取っており、日中関係の緊張が続いています。
日本政府は、外交ルートを通じて中国に抗議を継続しつつ、高市首相は「中国との関係安定化の方針に一切変わりない」との姿勢を示しています。IPACの動きは、民主主義諸国間の結束を強め、台湾問題をめぐる中国の行動に対する抑止力として機能する可能性があります。将来的には、このような国際的な支持が、日中間の対話を促進する一要因となることが期待されます。
IPAC(対中政策に関する列国議会連盟)とは
IPAC、正式名称をInter-Parliamentary Alliance on China(対中政策に関する列国議会連盟)と呼ぶ国際的な議員連盟は、民主主義国家の国会議員らが結集し、中国共産党主導の中国に対する民主主義諸国の一貫した対応を推進する目的で設立された組織です。この連盟は、党派を超えた協力により、グローバルな貿易、安全保障、人権といった分野で中国の影響力拡大に対する脅威に対処することを目指しています。IPACの活動は、議会レベルでの議論を形成し、政策変更を促すことに重点を置いており、公式ウェブサイト(ipac.global)でその詳細が公開されています。
設立の経緯と歴史
IPACは2020年6月4日に正式に発足しました。設立の背景には、中国共産党による香港国家安全維持法の施行や新疆ウイグル自治区での人権問題、台湾海峡の緊張の高まりなど、民主主義国家に対する中国の行動がもたらすグローバルな課題があります。当初、米国、オーストラリア、カナダ、欧州議会、日本、ノルウェー、スウェーデン、英国の8つの議会から議員が参加し、米国のマルコ・ルビオ上院議員が発足を発表しました。この連盟は、冷戦的な対立ではなく、ルールに基づく国際秩序の維持と人権擁護を原則とし、設立直後から中国外務省の批判を呼びました。
発足以来、IPACは急速に拡大を遂げ、2023年9月のプラハサミットでは25カ国から50人の議員が参加し、台湾、再生可能エネルギー依存、香港、ベルト・アンド・ロード構想、人権などのテーマで政策ワークショップを実施しました。また、2024年10月には米国下院のジョン・ムーレナール議員が参加を表明し、国際協力の強化を強調しています。2025年現在、IPACは約30カ国・地域から300人以上の議員が連名で声明を出すなど、影響力を増しています。
組織構造とメンバー
IPACの組織構造は、党派を超えた国際的な議員ネットワークを基盤としており、各参加議会から2人の共同議長が選出されます。初期の共同議長には、欧州議会のミリアム・レクスマンMEP(EPP)とラインハルト・ブーティコファーMEP(緑の党/EFA)、英国のデイビッド・L・アミESS議員とイアン・ダンカン・スミス議員、米国のマルコ・ルビオ上院議員とボブ・メネンデス上院議員、日本の中谷元元防衛大臣(自民党)などが名を連ねました。現在もこれらの議員らが中心となり、運営を担っています。
メンバーシップは、IPACの原則声明に署名した議員に開放されており、民主主義国家の議会から多様な政治的背景を持つ人物が参加可能です。IPACのアルムナイ・カウンシルは、元メンバーが継続的に支援する仕組みを有し、専門家諮問グループが中国法、政治、人権、外交政策、経済に関する助言を提供します。参加国は欧米諸国を中心に、アジア太平洋地域や南米、太平洋島嶼国まで広がっています。
目的と活動内容
IPACの主な目的は、以下の5つのカテゴリにまとめられます:
- 多国間主義とルールに基づく国際秩序への投資:民主主義国家が中国の行動に対して協調した対応を取るための枠組み構築。
- 人権の擁護:新疆ウイグルやチベット、香港での人権侵害に対する調査と制裁の推進。
- 持続可能性と経済的公正の促進:中国のサプライチェーン依存を減らすための政策提言。
- 安全保障と平和的紛争解決の強化:台湾有事や南シナ海問題への抑止力として各国政府への働きかけ。
- 国家自決の保護:中国の影響力から民主主義システムの完全性を守る。
具体的な活動として、IPACは新疆ウイグルでのジェノサイド疑惑に対する国連主導の調査を求める共同声明を発出したり、香港安全港法案の推進を支援したりしています。また、2021年には中国のAPT31によるサイバー攻撃の被害を受け、欧州連合の全IPACメンバーと英国の43議会アカウントが標的にされた事件で、米国司法省の起訴を支持しました。2023年のプラハ・コミュニケでは、台湾に対する軍事エスカレーション抑止のための経済・政治措置を各国政府に求める決議を採択しています。
国際社会への影響と今後の展望
IPACの活動は、民主主義諸国間の結束を強め、中国に対する政策の戦略的アプローチを形成する点で大きな影響を与えています。例えば、2023年4月にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領の台湾関連発言に対し、「あなたは欧州を代表しない」との声明を発表し、欧州内の議論を活性化させました。中国側はIPACを「反中勢力」と批判していますが、連盟は党派を超えた協力を通じて、グローバルなルール遵守を推進しています。
今後、IPACはさらなるメンバー拡大とテーマ別サミットの開催により、再生可能エネルギー依存や越境的抑圧などの新興課題に対応する予定です。このような取り組みは、民主主義国家が中国の台頭に直面した「定義づけられる課題」に対する持続的な対応を可能にし、国際秩序の維持に寄与すると期待されます。
