・令和の米騒動:コメ平均価格5kg4316円が過去最高を更新
・農林水産大臣の姿勢:価格引き下げへの消極性
・お米券政策:一時しのぎの限界
・米離れの加速:日本食文化の危機
令和の米騒動:コメ平均価格5kg4316円が過去最高を更新
2025年11月14日、農林水産省が発表した全国のスーパー約1000店舗でのコメ販売価格調査によると、11月9日までの1週間に販売されたコメの平均価格は5kgあたり税込み4316円でした。これは前週比で値上がりし、比較可能な2022年3月以降の最高値を更新したものです。この価格高騰は、2024年後半から続く「令和の米騒動」と呼ばれる現象の延長線上にあり、気候変動による収穫量減少や生産コストの上昇、さらには市場の需給逼迫が主な要因です。
価格推移の詳細と背景
農林水産省の小売物価統計調査によると、2025年に入ってからのコメ価格は一貫して上昇傾向にあります。例えば、2025年5月には5kgあたり4285円を記録し、2週連続で過去最高を更新しました。その後、9月には4155円、10月下旬には4235円と高止まりを続け、11月に入って4316円に達しました。1年前の同月と比較すると、約2倍の水準です。
この高騰の背景には、2024年の猛暑や少雨による高温障害が挙げられます。これにより、収量が減少し、品質低下が発生。加えて、減反政策の影響で国内生産が抑制され、国際穀物価格の上昇が輸入依存を高めました。農林水産省のデータでは、2025年2月の民間米輸入量は523トンと、前年度年間輸入量を上回る急増を示しています。
政府の備蓄米放出とその限界
政府は価格安定を図るため、2025年3月から備蓄米の放出を開始。第1回の入札では平均落札価格が60kgあたり2万1217円でした。しかし、放出量が需給の逼迫を埋めきれないため、店頭価格の高止まりが続いています。流通経済研究所の分析では、「業界全体にコメ不足の感覚が残っている」ことが価格下落を阻む要因と指摘されています。
農林水産大臣の姿勢:価格引き下げへの消極性
現在の農林水産大臣である鈴木憲和氏は、2025年10月22日の就任記者会見で、コメ政策について「増産路線を修正し、価格は市場任せに回帰する」と述べました。この発言は、生産者側の生産コスト回収を優先する姿勢を示しており、消費者からの価格引き下げ圧力に対する明確な対応を避けています。
大臣発言の文脈と批判
鈴木大臣の「市場任せ」方針は、農林水産省主導の減反政策が需給を歪めた結果の価格高騰を、市場メカニズムに委ねるものです。専門家からは、「供給抑制の責任を回避し、消費者に負担を転嫁する無責任な態度」との批判が相次いでいます。また、過去の江藤拓前大臣の「米を買ったことがない」発言による辞任(2025年5月)のように、大臣の消費者目線欠如が政治問題化しています。
鈴木大臣は情報番組で、価格高騰の背景に生産者支援の必要性を強調しましたが、具体的な引き下げ策は示されていません。これにより、農家にとっては「将来に明るい兆し」として歓迎される一方、消費者負担の増大が懸念されます。
お米券政策:一時しのぎの限界
政府は2025年11月8日、総合経済対策に「おこめ券」の活用を盛り込む方針を固めました。これは自治体が重点支援地方交付金を活用し、例えば愛知県日進市のように440円×10枚(計4400円分)のクーポンを65歳以上世帯に配布するものです。JA全農が発行する「おこめギフト券」のような形で、米購入を支援します。
政策の詳細と価格への影響
この政策は、新米流通が進む中でもコメ価格が4000円台を維持する状況への対応です。しかし、専門家の見解では、「一時的な需要刺激に過ぎず、根本的な供給増にはつながらない」とされています。農林水産省の予測でも、2025年6月の民間在庫量は低水準が続き、クーポン配布が価格を大幅に下げる効果は限定的です。
配布コストや中抜き問題(大阪での事例で24%)も課題で、持続可能性に疑問符が付いています。結果として、短期的な家計支援には寄与するものの、市場全体の価格安定には寄与しにくい構造です。
米離れの加速:日本食文化の危機
コメ価格の高止まりは、日本人の食習慣に深刻な影響を及ぼしています。農林水産省の統計では、国民1人あたり年間米消費量は1960年代の約118kgから2023年には50kg台に減少。2025年も前年割れが予測され、価格高騰がこのトレンドを加速させる可能性が高いです。
統計データとトレンドの分析
日本農業新聞の調査(2021年更新)では、米食回数が「1日1回以下」が39%を占め、特に40代以上で半数近くに上ります。2025年の消費者物価指数では「米類」が前年比92.1%上昇し、健康志向の炭水化物減量ダイエットや食の多様化(パン・麺類シフト)と相まって、米離れが進展。TBSの調査では、価格高騰で焼きそばなどの代替食が注目を集めています。
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のデータでも、食事の炭水化物比率が低下傾向にあり、2025年は訪日外国人増加(大阪万博で350万人)による日本食需要増があっても、国内消費の低迷が自給率低下を招くリスクがあります。米離れは食料安全保障の観点から、農業雇用減少や地域経済の縮小を招く問題です。
潜在的な影響と今後の懸念
このまま価格高騰が続けば、米の国内自給率(97%)が揺らぎ、輸入依存が高まる可能性があります。このメカニズムは、消費減→生産調整(減反)強化→供給力低下→輸入代替の悪循環として進行します。具体的には、農林水産省の需給見通し(2025年11月)によると、2025年産の米消費量は前年比約20万トン減と予測され、これを受けて2026年産の生産目標数量もさらに削減される見込みです。結果、国内生産量が消費を下回る構造が常態化し、不足分を補うための民間輸入が急増。2025年2月の輸入量はすでに523トンと前年度年間実績を上回っており、価格安定のための備蓄米放出(第1回落札価格60kgあたり2万1217円)も需給ギャップを埋めきれていません。
さらに、米離れは小麦(自給率14%)や大豆(7%)など輸入依存度の高い代替品目へのシフトを加速させ、総合食料自給率(カロリーベース38%)のさらなる低下を招きます。MRIの食料安全保障報告(2024年)では、穀物輸入の90%が米国・カナダ・豪州に集中しており、国際価格高騰や供給途絶リスクが顕在化すると指摘。加えて、飼料米減少は畜産自給率(牛肉36%など)にも連鎖し、食料全体の脆弱性を増大させます。専門家は「2025年産新米の供給過剰で2026年春に価格安定の兆しが見えるが、米離れの定着は食文化の喪失を意味する」と警告。政府の政策転換が急務です。
