存立危機事態とは何か?高市首相の答弁と中国側の過激反応を解説

高市早苗首相の「存立危機事態」発言と中国側の反応
「存立危機事態」の意味と法的背景

高市早苗首相の「存立危機事態」発言と中国側の反応

2025年11月7日の衆院予算委員会で、高市早苗首相は、中国による台湾への武力侵攻(台湾有事)について、「戦艦を使って、武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と答弁しました。この発言は、立憲民主党の岡田克也氏の質問に対するもので、台湾有事が日本に対する集団的自衛権の行使を可能とする事態に該当する可能性を明確に示したものです。歴代首相は台湾有事と存立危機事態の関係を公式に明言することを避けてきたため、この答弁は政府の従来見解を踏み越えた異例のものとして注目されました。

高市首相は10日の同委員会でもこの答弁を撤回せず、「最悪のケースを想定し、政府の従来の見解に沿ったものだ」と説明しています。一方で、「台湾をめぐる問題は対話により平和的に解決されることを期待する一貫した立場だ」とも強調し、即時の武力行使を意味するものではないとしています。

中国側の批判と抗議

この発言に対し、中国側からは強い反発が相次いでいます。中国外務省の報道官は10日の記者会見で、「強烈な不満と断固反対」を表明し、日本側に厳正な申し入れを行って抗議したことを明らかにしました。中国は台湾を自国の不可分の一部と位置づけており、台湾問題への他国干渉を強く警戒しています。

特に、中国の薛剣駐大阪総領事は8日深夜、X(旧Twitter)で高市首相の答弁を引用し、「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」と投稿しました。この投稿は後に削除されましたが、日本政府は強く抗議し、適切な対応を要求しています。木原稔官房長官は10日の記者会見で、この発言を「極めて不適切」と批判しました。

中国駐日大使の呉江浩氏もXで、「台湾は中国の不可分の一部であり、台湾問題を如何に解決するかは中国人自身の課題だ」と述べ、日本を「中国分断の戦車に縛り付ける」試みは誤った道だと警告しています。

「存立危機事態」の意味と法的背景

存立危機事態の定義

「存立危機事態」とは、2015年に成立した安全保障関連法(平和安全法制)で定められた概念です。正式な定義は以下の通りです。

「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」

これは、日本が直接武力攻撃を受けていなくても、密接な関係国(主に米国)が攻撃され、それが日本の存立を脅かす場合に該当します。

集団的自衛権との関係

存立危機事態が認定されると、日本は集団的自衛権を行使可能となります。武力行使の新3要件は以下の通りです。

  • 存立危機事態に該当すること
  • 他に適当な手段がないこと
  • 必要最小限の実力行使であること

これを満たせば、他国への攻撃に対して自衛隊が武力行使できることになります。認定には国会の事前承認が原則で、緊急時は事後承認が可能です。

台湾有事との関連

高市首相の発言は、台湾有事で中国が武力行使した場合、日本が存立危機事態と判断し、集団的自衛権を行使する可能性を示したものです。これまで政府は台湾有事を具体例として挙げず、「個別具体的な状況で総合的に判断する」と曖昧に留めてきました。高市首相の明言は、中国への抑止力を意図した一方で、日中関係の緊張を高める要因となっています。

この発言は、日本の実効的な防衛力強化を求める声がある中で出されたものですが、中国からは内政干渉と受け止められ、外交的な波紋を広げています。