ゼロサムとプラスサム:株とFXが根本的に違う「ゲームの性質」、では仮想通貨は?

株の売買はゼロサムゲームか?それとも企業成長でプラスサムか?
株はプラスサム、FXはほぼ純粋なゼロサム
株はプラスサム、FXはゼロサム――では仮想通貨はどのゲームなのか?

株の売買はゼロサムゲームか?それとも企業成長でプラスサムか?

株式投資についてよく聞かれる議論に、「株は売買である限り、誰かが儲けた分だけ誰かが損をするゼロサムゲームだ」という見方と、「企業が成長するから全体として富が増え、儲ける人が多いプラスサムゲームだ」という見方があります。どちらが正しいのか、両方の理屈を正確に整理して解説します。

1. 「儲けた人がいればその分損した人がいる」という理屈の正しさ

この主張は、特定の取引時点に注目した場合、ほぼ完全に正しいです。

  • 株式の売買は、買い手と売り手の間で価格が一致した瞬間に成立します。
  • 例えば、ある人が1000円で買った株を1500円で売れば500円の利益を得ますが、その株を買った人は1500円を支払ったことになります。
  • この取引だけを見れば、売り手の+500円と買い手の-500円(含み益ベース)は完全に相殺され、合計はゼロになります。

二次市場(既発株式の売買)では、取引時点での富の総額は増えも減りもしません。これは経済学的に「ゼロサム」の定義に該当します。

2. 「企業が成長するから儲ける人が多い」という理屈の正しさ

この主張も、時間軸を長く取って企業価値の増加を見た場合、完全に正しいです。

  • 企業が利益を上げ、事業を拡大すると、企業の本質的な価値(内在価値)が増加します。
  • 例えば、企業が稼いだ利益を再投資して売上を2倍にすれば、理論的には株価も長期的に2倍になる可能性があります。
  • この場合、株主全体の資産は増加し、市場外から新しい富が生まれていることになります。

具体的には:

  • 企業が発行した株式で設備投資や研究開発を行い、経済的な付加価値を生み出す(GDP増加)
  • 配当として利益を株主に還元する(現金として富が移動)
  • 自社株買いにより流通株式数を減らし、1株当たり価値を高める

これらはすべてプラスサムの要素です。S&P500指数が長期的に右肩上がりであるのも、この企業価値の積み重ねによるものです。

結論:両方とも正しい。ただし見ている時間軸と範囲が違う

以下の表で整理します。

視点 時間軸 ゲームの性質 根拠
個別取引 瞬間 ゼロサム 売り手と買い手の損益は必ず相殺
市場全体 長期間 プラスサム 企業が経済的付加価値を生み、富が増加

したがって、

  • 「短期的な売買で儲けた人は、誰かの損失の上に立っている」→ 正しい
  • 「長期的に企業が成長すれば、株主全体として富が増える」→ 正しい

両者を対立させる必要はなく、時間軸の違いを理解すれば矛盾はありません。投資家がどちらの視点を持つかで、トレードスタイル(短期売買 vs 長期保有)も自然に分かれます。

株はプラスサム、FXはほぼ純粋なゼロサム――時間軸の違いがもたらす本質的な差

前回の記事で「株は短期取引ではゼロサム、長期的には企業成長によりプラスサム」と説明しました。この視点に立って、今度は株とFX(外国為替証拠金取引)の本質的な違いを正確に整理します。

1. 株が長期的にプラスサムである決定的な理由

株式市場が長期的に富を増やす仕組みは非常にシンプルです。

  • 企業は商品・サービスを生産し、経済的な付加価値(GDP)を生み出します。
  • その付加価値の一部が利益として企業に残り、株主に還元されます(配当・自社株買い・再投資による株価上昇)。
  • 結果、市場外から新しい富が継続的に流入します。

例:AppleがiPhoneを1台売るごとに約400ドルの付加価値を生み、その一部が株主に還元される。これが繰り返される限り、株主全体の資産は増え続けます。

2. FXがほぼ純粋なゼロサムである決定的な理由

為替市場には「市場外から新しい富を生み出す主体」が存在しません。

  • 為替レートは常に2国間の相対価値で決まります(例:1ドル=150円 ↔ 1円=0.00667ドル)。
  • 誰かがドル円を150円で買って160円で売れば10円の利益を得ますが、相手は同じ10円の損失を被ります。
  • 世界中の為替取引を合計しても、損益は必ずゼロに収束します。

さらに重要な点:

  • 通貨自体は商品やサービスを生産しません。
  • 中央銀行が金利を支払う場合でも、それは他国からの借金(外貨準備)や税収によるもので、新たな付加価値ではありません。

3. わずかに存在する「マイナスサム要素」の違い

項目 株式市場 FX市場
手数料・税金 存在する(証券会社手数料、取引税) 存在する(スプレッド、スワップ手数料)
参加者全体の損益 手数料分だけマイナスサム
しかし企業成長で大幅にプラスに転換
手数料分だけマイナスサム
プラス要素がほぼゼロのため、長期でもマイナス傾向

FXには「キャリートレードで金利差益を得る」方法がありますが、これは高金利通貨国の経済成長があって初めて成り立つものであり、為替市場自体が富を生んでいるわけではありません。

結論:時間軸を超えても決定的に違う「ゲームの性質」

  • 株式投資
    短期:ゼロサム
    長期:企業が富を生み出すため強力なプラスサム
  • FX取引
    短期:ゼロサム
    長期:富を生み出す主体がないためほぼ純粋なゼロサム(手数料でマイナスサム)

したがって、

「長期投資で資産を増やしたいなら株」「短期的なゼロサムゲームで勝負したいならFX」

という住み分けが、経済の本質から見て完全に正しいと言えます。この違いを理解することで、無理のない投資スタイルを選べるようになります。

株はプラスサム、FXはゼロサム――では仮想通貨はどのゲームなのか?

これまでの記事で、株は企業成長により長期的にプラスサム、FXは富を生み出す主体がないためほぼ純粋なゼロサムであることを解説しました。では、仮想通貨(暗号資産)市場はどちらに該当するのか? 経済的事実に基づいて整理します。

1. 仮想通貨が「プラスサム要素」を持つ決定的な理由

仮想通貨市場には、ネットワークの拡大と実世界でのユースケース増加という富を生み出す仕組みが存在します。

  • BitcoinやEthereumなどの基盤プロトコルは、世界的な決済インフラ・スマートコントラクトプラットフォームとして機能します。
  • ユーザーが増え、取引量が増大すると、ネットワーク効果によりプロトコルの価値が指数関数的に上昇します(メトカーフの法則)。
  • 例:Ethereum上でDeFi(分散型金融)が拡大すると、手数料(Gas代)としてETHが消費・バーンされ、流通量が減少し、残りの保有者の資産価値が上昇します。

これらは市場外から新しい需要とユーティリティを生み出すため、株の企業成長に似たプラスサム要素です。

2. 仮想通貨が「ゼロサム要素」を強く残す理由

一方で、仮想通貨の価格形成は二次市場での需給にほぼ100%依存しています。

  • 多くのアルトコインは、実体経済での付加価値生産がほぼゼロ(プロジェクトが失敗するか、単なる投機対象)。
  • 誰かがビットコインを10万ドルで売却して利益確定すれば、その買い手は同額の含み損を抱えます(取引時点ではゼロサム)。
  • 新規発行(マイニング・ステーキング報酬)はインフレ圧力となり、既存保有者を希薄化する場合があります。

特に2021-2022年の投機バブルでは、価格上昇が実用化ではなく資金流入だけによるケースが多く、FXに近いゼロサム性が顕著でした。

3. 株・FX・仮想通貨のゲーム性質を比較

市場 富を生む主体 短期(取引時点) 長期 全体の性質
株式 企業(GDP貢献) ゼロサム 強力なプラスサム 長期で明確にプラスサム
FX なし(相対価値) ゼロサム ゼロサム(手数料でマイナス) 純粋なゼロサム
仮想通貨 ネットワーク効果・ユースケース ゼロサム 一部でプラスサム
(BTC/ETHなど基盤層)
ハイブリッド
(プラスサムになり得るが不安定)

仮想通貨全体の時価総額が2017年から2025年現在まで数百倍に成長したのも、実用化が進んだ基盤コイン(BTC/ETH)が牽引しているためです。一方で99%のアルトコインが消滅するのも、富を生み出す力が弱い証拠です。

結論:仮想通貨は「ポテンシャル型プラスサム」だが、株ほど確実ではない

  • ビットコイン・イーサリアムなど基盤層
    → ネットワークが拡大する限り株に近いプラスサム
  • 無数のアルトコイン・ミームコイン
    → 実体がないためFXより悪質なマイナスサム(プロジェクト破綻で100%損失)

「仮想通貨で長期的に勝ちたいなら、富を生み出す仕組みがあるコインだけを選ぶ」

これが経済の本質から導かれる唯一の結論です。株のように「すべての企業が平均的に成長する」わけではないため、選別眼が最も問われる市場と言えます。