・日大三島中高で非常勤講師がストライキへ
・非常勤講師の雇用・報酬・保障格差などの課題
日大三島中高で非常勤講師がストライキへ 低賃金・長時間労働の是正を求めて
2025年11月5日、静岡県三島市の日本大学三島高等学校・中学校(通称:日大三島中高)の非常勤講師らでつくる労働組合「日大三島ユニオン」が、授業ストライキの実施を宣言しました。学校法人日本大学に対し、授業1コマ単価の大幅引き上げと年収300万円以上の保障を求め、要求が受け入れられなければ即座にストへ突入する構えです。
ストライキのきっかけ:年収200万円の過酷な実態
- 非常勤講師の給与は「1コマいくら」の出来高制
- 平均年収は約200万円(手取り160万円程度)
- 授業準備・テスト採点・生徒指導は一切無給
- 20年勤務でも昇給はほぼゼロ
組合員の一人は「生活が成り立たず、アルバイトを掛け持ちしている」と告白。物価高騰で限界に達したと訴えています。
過去にも闘いの歴史 2024年「コマ減回復」でスト中止
実は日大三島では、2024年11月にもスト通告が出されていました。当時は「授業コマ数の不当削減」を問題視し、学校側が2025年度にコマを元に戻すと約束したためストは回避。しかし、根本的な賃金問題は放置されたままだったため、今回再び火がついた形です。
学校側の対応と今後の見通し
日大広報部は「生徒に不利益が生じないよう最大限配慮する。賃上げ要求については誠実に対応する」とコメント。組合は「要求受諾なら即時中止」と柔軟な姿勢を示しており、団体交渉の行方が注目されます。
私学非常勤講師の全国的課題
日大三島のケースは氷山の一角。文科省の調査では、私立学校の非常勤講師の約7割が年収300万円未満。東海大学・桜美林大学でも同様のストが続いており、「教育の質を守るためにも処遇改善を」との声が広がっています。
最新情報は日大三島ユニオン公式X(@DaigakuUnion)や毎日新聞の続報をチェック!
非常勤講師の雇用・報酬・保障格差などの課題
1. 雇用の不安定さと1年契約の繰り返し
公立学校の非常勤講師(会計年度任用職員)は、地方公務員法第22条の3に基づき、原則1会計年度(4月1日~翌3月31日)以内の任用とされ、更新を繰り返す形が一般的です。文部科学省の指針でも、産休・育休代替や初任者研修代替などの臨時的ニーズに対応する位置づけであり、恒久的な正規雇用への移行経路が限定的です。茨城県教育委員会の募集要項では「学校の状況に応じて随時採用」と明記され、年度末に継続が決まらないケースが常態化しています。これにより、講師は翌年度の生活設計が立てにくく、離職リスクが高まっています。
2. 低水準の報酬と昇給の制限
報酬は時間額制で、千葉県教育委員会の例では中学校教科担任講師が時間額2,000円台~3,000円台(勤続年数による)。週20時間勤務の場合、月額約14~15万円(京都府教育委員会令和6年基準)と、正規教員の半分以下です。文部科学省「公立学校教員採用選考試験実施状況」では、非常勤講師の平均年収が300万円前後と推定され、授業準備・採点等の契約外労働を含めると実質時給が低下します。昇給は勤続年数に応じるものの、上限が低く抑えられ、富山県では2,810~2,894円と微増に留まります。
3. 残業代未支給と労働時間の管理不足
非常勤講師は「授業1コマ単位」の報酬設計のため、教材研究・成績処理・生徒対応等の契約外労働が無給となるケースが多発。労働基準法第37条は時間外労働に割増賃金を定めますが、公立学校では「給特法(教職調整額)」が常勤教員に適用される一方、非常勤には適用外。名古屋市教育委員会の裁判例(令和2年)では、授業準備時間を労働時間と認定し残業代支払いが命じられましたが、行政全体ではタイムカード等の管理が不十分で、群馬県・岡山県の募集要項でも残業手当の記載がありません。
4. 福利厚生・社会保険の適用格差
週20時間以上の勤務で厚生年金・健康保険加入が可能ですが、週15時間以下では適用外。宮城県教育委員会の資料では、非常勤講師の加入率が勤務時間に依存し、短時間勤務者は国民健康保険・国民年金負担となります。賞与・退職金は原則支給されず、埼玉県教育委員会の任期付教員でも「会計年度任用職員は賞与なし」と明記。文部科学省の「教員勤務実態調査」では、常勤教員の共済組合加入に対し、非常勤の保障格差がメンタルヘルス悪化の要因と指摘されています。
5. 研修・キャリア形成支援の不足
文部科学省「教師の資質能力向上に関する指針」では初任者研修を義務化していますが、非常勤講師は対象外の自治体が多く、藤沢市教育委員会でも「初任者研修代替の非常勤講師募集」と位置づけられるのみ。愛知県教育委員会のペーパーティーチャー向け授業見学会は例外で、大半の教育委員会(茨城・千葉等)ではOJTに頼り、指導力向上の体系的支援が欠如。結果、教員採用試験合格率の低下や、授業品質のばらつきを招いています。
6. 行政の改善に向けた取り組みと残された課題
文部科学省は2021年「公立学校の働き方改革アクションプラン」で、非常勤講師の処遇改善を掲げ、時間外労働の上限ガイドライン(月45時間)を適用拡大中。ただし、2022年度調査で中学校77%が上限超えの実態が判明。地方交付税による定数改善(義務標準法改正)で非常勤枠を増やしていますが、正規化への予算配分が不足。教育委員会レベルでは、京都府・埼玉県がオンライン登録を導入しマッチング効率化を図っていますが、全国統一基準の不在が格差を拡大しています。
まとめ:行政が優先すべき対策
対策としては、報酬単価の引上げ(時間額3,000円以上目安)、残業管理システム導入、研修必修化、社会保険100%加入などがあげられ、文部科学省の「令和の日本型学校教育」構築のためには、非常勤講師を「臨時補充」から「教育の中核人材」への位置づけが鍵となるでしょう。
