サントリーホールディングス 新浪剛史会長の辞任について
サントリーホールディングス(HD)は2025年9月2日、代表取締役会長の新浪剛史氏(66歳)が9月1日付で辞任したことを発表しました。この突然の辞任は、違法の疑いがあるサプリメントの購入を巡る警察の捜査が背景にあり、政財界に大きな衝撃を与えています。以下、辞任の経緯や背景、今後の影響について詳しく解説します。
辞任の理由と経緯
サントリーHDによると、新浪氏は8月21日に同社執行役員に対し、自身が購入したサプリメントについて「疑惑が生じている」と報告。翌8月22日、福岡県警が麻薬取締法違反の疑いで新浪氏の東京都内の自宅を家宅捜索しました。捜査関係者によると、海外の知人から送られたサプリメントに大麻由来の成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」が含まれている疑いがあるとされていますが、違法薬物の所持や使用は確認されていません。新浪氏は「適法であるとの認識で購入した」と主張し、事件への関与を否定しています。
サントリーHDは、8月22日の報告を受け、外部弁護士によるヒアリングを同日深夜に実施。8月26日の臨時取締役会で新浪氏から説明を受け、8月28日に新浪氏を除く全取締役・監査役で議論を行った結果、「サプリメントに関する認識を欠いた行為は、会長という要職に堪えない」と判断。9月1日、鳥井信宏社長が米国出張から帰国した新浪氏と協議し、新浪氏から「一身上の理由」による辞任の申し出があり、これを受理しました。
新浪氏の主張と社内の反応
新浪氏は、購入したサプリメントが合法な「CBD(カンナビジオール)」であると認識していたと述べ、自身は「潔白」だと主張しています。しかし、サントリーHDの山田賢治副社長は記者会見で、「捜査の結果を待つまでもなく、疑義が生じたこと自体が会長としての資質を欠く」と強調。サントリーがサプリメント事業を手掛ける企業であることを考慮し、企業倫理の観点から辞任を求めたと説明しました。
一部報道によると、新浪氏は社内で「クーデターにはめられた」と発言し、辞任に納得していない様子も伝えられています。関係者によると、取締役会から「このままでは解任」と迫られたことが辞表提出の背景にあったとされています。
新浪剛史氏の経歴と功績
新浪氏は三菱商事出身で、ローソン社長を務めた後、2014年10月にサントリーHDの社長に就任。創業家以外からの初の社長就任として注目を集めました。社長在任中の約10年間で、売上を2倍、営業利益を2.5倍に拡大し、海外売上比率を60%に引き上げるなど、同社の国際化を牽引。特に、2014年に約1兆6千億円で米ウイスキー大手ビーム社を買収したことは大きな成果として知られています。2025年4月には会長に就任していました。
また、財界人としての活動も活発で、2014年から経済財政諮問会議の民間議員、2023年4月から経済同友会の代表幹事を務め、規制緩和や賃上げの重要性を訴えるなど、積極的な発言で知られていました。
辞任が及ぼす影響
新浪氏の辞任は、サントリーHDだけでなく、政財界全体に大きな波紋を広げています。経済同友会の代表幹事については、9月3日の定例記者会見に出席し、自身の責任や経緯について説明する意向を示していますが、辞任の可能性も指摘されています。経済財政諮問会議の民間議員の去就についても、林芳正官房長官は「適宜適切に対応する」と述べ、動向が注目されています。
サントリーHDの株価にも影響が出ています。子会社のサントリー食品インターナショナルの株価は9月2日の取引で乱高下し、企業イメージや業績への影響が懸念されています。鳥井社長は記者会見で「全社一丸となって信頼回復に努めたい」と述べ、社員の動揺を抑えるためのメッセージも発信しています。
専門家からは、サントリーHDの迅速な対応を評価する声も上がっています。関西大学の亀井克之教授は、「企業イメージを守るための賢明な判断」と指摘。一方、ブルームバーグ・インテリジェンスのESGアナリスト、本間靖健氏は、捜査への協力や関係者への説明による時間的負担が大きいと分析しています。
今後の注目点
新浪氏の辞任を巡る最大の注目点は、9月3日に予定されている経済同友会の定例記者会見での発言です。自身が「潔白」と主張する中、どのような説明を行うのか、また代表幹事の続投や辞任についてどう判断するのかが焦点となります。さらに、福岡県警の捜査の進展や、サプリメントの適法性に関する結論も、事態の全貌を明らかにする重要な要素となるでしょう。
サントリーHDは当面、佐治信忠会長の単独体制で運営されますが、新浪氏の後任選びや企業ガバナンスの強化策も、今後の課題として浮上しています。