スマホ新法の施行による市場の変化:具体的にはどう変わる?

スマホ新法:スマホソフトウェア競争促進法とは
施行による市場の変化

スマホ新法:スマホソフトウェア競争促進法とは

スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、スマホソフトウェア競争促進法)は、2024年6月12日に成立し、2024年6月19日に公布された日本の法律です。この法律は、スマートフォン市場において特定のソフトウェア(モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジン)を対象に、公正かつ自由な競争を促進することを目的としています。特に、AppleやGoogleなどの巨大IT企業による市場の寡占状態を是正し、消費者や中小事業者の利益を保護することを目指しています。全面施行は2025年12月18日を予定しており、公正取引委員会がその運用を担当します。

法律の目的

スマートフォンが国民生活や経済活動の基盤となっている現代において、特定ソフトウェアの提供が一部の有力事業者に集中している状況を背景に、この法律は以下の目的を掲げています

  • 特定ソフトウェア市場における公正かつ自由な競争の促進
  • 消費者による多様なサービス選択の機会の確保
  • 国民生活の向上および国民経済の健全な発展への寄与

これにより、巨大IT企業が自社の優位性を悪用して競争を制限する行為を防止し、新規参入やイノベーションを活性化させることが期待されています。

法律の概要

スマホソフトウェア競争促進法は、特定ソフトウェア(モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジン)を提供する事業者の中から、一定規模以上の事業者を「指定事業者」として規制対象とし、禁止事項や義務を定めています。以下に、法律の主要な構成要素を詳しく解説します。

1. 規制対象事業者の指定

公正取引委員会は、特定ソフトウェアの種類ごとに、利用者数(例:4000万人以上)などの基準に基づき、事業者を「指定事業者」として指定します。2025年3月26日時点で、以下の事業者が指定されています

  • Apple Inc.: 基本動作ソフトウェア(iOS)、アプリストア(App Store)、ブラウザ(Safari)
  • iTunes株式会社: アプリストア(App Store、Apple Inc.と共同提供)
  • Google LLC: 基本動作ソフトウェア(Android)、アプリストア(Google Play)、ブラウザ(Chrome)、検索エンジン(Google検索)

これらの事業者は、市場での影響力が大きいため、厳格な規制が適用されます。

2. 禁止事項

指定事業者に対して、競争を阻害する以下の行為が禁止されています。ただし、サイバーセキュリティ、プライバシー保護、青少年保護などの目的で必要かつ代替手段がない場合は、例外的に認められる場合があります。

  • 取得したデータの不当な使用の禁止(第5条): アプリの利用状況や売上データなどを、自社や子会社の競争優位性のために使用することを禁止。
  • 個別アプリ事業者への不公正な取扱いの禁止(第6条): アプリ事業者に対する差別的な条件設定や取引の不公平な実施を禁止。
  • 基本動作ソフトウェアに関する禁止行為(第7条): 自社アプリストアの限定や他社アプリストアの利用妨害、OS機能の他社利用制限を禁止。
  • アプリストアに関する禁止行為(第8条): 他社課金システムの利用妨害、アプリ内での情報表示制限、他社ブラウザエンジンの利用制限、自社ソーシャルログインの強制を禁止。
  • 検索エンジンに関する禁止行為(第9条): 自社サービスの不当な優先表示を禁止。

3. 遵守事項

指定事業者には、公正な競争環境を確保するための以下の措置が義務付けられています

  • データ取得条件の開示(第10条): 取得するデータの内容や利用条件を、アプリ事業者や利用者に開示。
  • データ移転の措置(第11条): 利用者の求めに応じて、連絡先や購入したアプリ情報などのデータを円滑に移転。
  • 標準設定の変更と選択肢の提示(第12条): デフォルト設定(例:ブラウザや検索エンジン)の簡単な変更や、選択肢の表示を義務化。
  • 仕様変更に関する措置(第13条): ソフトウェアの仕様変更や利用条件変更時に、事業者が対応できるよう十分な期間や情報を提供。

これらの措置により、利用者やアプリ事業者の選択の自由が確保され、競争環境が整備されます。

4. 違反に対する措置

指定事業者が法律に違反した場合、公正取引委員会は以下の措置を講じることができます

  • 排除措置命令: 違反行為の是正を命じる。
  • 課徴金納付命令: 違反行為に関連する日本国内売上の20%(再犯の場合は30%)を課徴金として課す。

これにより、違反行為の迅速な是正と抑止が図られます。

法律の背景

スマホソフトウェア競争促進法が制定された背景には、以下の課題があります

  • 市場の寡占状態: モバイルOSやアプリストア市場は、Apple(iOS、App Store)やGoogle(Android、Google Play)がほぼ独占しており、新規参入が困難。
  • 独占禁止法の限界: 従来の独占禁止法では、違反の立証に時間がかかり、迅速な是正が難しい。
  • 国際的な動向: EUのデジタル市場法(DMA)や米国、韓国などの競争法整備の進展を受け、日本でも同様の規制が必要とされた。

これらの課題を解決し、公正な競争環境を整備するために、本法律が制定されました。

期待される影響

スマホソフトウェア競争促進法の施行により、以下のような影響が期待されています

1. 市場への新規参入の促進

巨大IT企業による競争制限が緩和されることで、アプリストアや検索エンジン市場に新たな事業者が参入しやすくなり、市場の多様化が期待されます。これにより、アプリ開発者にとって手数料負担が軽減され、新たなサービスの開発が促進される可能性があります。

2. 消費者へのメリット

競争の活発化により、アプリやサービスの価格低下、多様な選択肢の提供が期待されます。ユーザーは、自分の好みに合ったアプリストアやブラウザを自由に選択できるようになり、利便性が向上します。

3. セキュリティとプライバシーへの配慮

一方で、規制緩和によるセキュリティリスクやプライバシー保護の懸念も指摘されています。法律では、サイバーセキュリティや青少年保護のための措置が例外として認められており、指定事業者には適切な対応が求められます。Appleは、法律の影響について「ユーザーのプライバシーとセキュリティに懸念がある」とコメントしています。

今後の課題と展望

スマホソフトウェア競争促進法は、スマートフォン市場の競争促進において重要な一歩ですが、以下のような課題も指摘されています

  • 規制の範囲: スマートフォン以外のデジタル分野(例:SNSや物販サイト)への規制拡大の必要性が議論されています。
  • 国際協調: EUや米国など他国の規制との整合性を図りながら、効果的な運用が求められます。
  • ガイドラインの策定: 公正取引委員会は2025年6月頃に運用ガイドラインを公表予定であり、具体的な禁止行為の明確化が期待されています。

これらの課題に対応しつつ、法律の実効性を高めることで、消費者や中小事業者にとってより公正なデジタル市場が実現されるでしょう。

まとめ

スマホソフトウェア競争促進法は、スマートフォン市場における巨大IT企業の独占を抑制し、公正な競争を促進するための法律です。モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンを対象に、禁止事項や義務を明確化し、違反には厳しい罰則を課すことで、迅速な是正を目指しています。2025年12月の全面施行に向けて、公正取引委員会はガイドラインの策定を進めており、新規参入の促進や消費者選択の拡大が期待されます。一方で、セキュリティやプライバシー保護への配慮も欠かせない課題です。この法律が、デジタル市場の健全な発展にどのように貢献するのか、注目が集まっています。

施行による市場の変化

「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、スマホソフトウェア競争促進法)は、2025年12月18日の全面施行を控え、スマートフォン市場における巨大IT企業(特にAppleとGoogle)の独占的な行為を規制し、公正な競争を促進します。この法律により、現在の市場状況がどのように変わるのか、モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンの観点から具体的に解説します。

現在の市場状況(2025年8月時点)

現在の日本のスマートフォン市場は、以下の特徴を持っています

  • モバイルOSの寡占: Apple(iOS)とGoogle(Android)が市場のほぼ100%を占め、iOSは約50%、Androidは約50%のシェア(日本ではiOSがやや優勢)。他のOS(例:HarmonyOS)はほとんど普及していません。
  • アプリストアの独占: AppleのApp StoreとGoogleのGoogle Playがアプリ配布の主要プラットフォームで、他社アプリストア(例:Aptoide、Amazon Appstore)は利用が限定的です。AppleはApp Store以外でのアプリ配布を事実上禁止し、GoogleもGoogle Playを優先する仕組みを採用しています。
  • アプリ内課金の制限: AppleとGoogleはアプリ内課金に自社の決済システムを強制し、30%(一部15%)の手数料を徴収。これにより、アプリ開発者は代替の決済手段を提供しづらい状況です。
  • デフォルト設定の固定化: iOSではSafari、AndroidではChromeがデフォルトブラウザとして設定され、検索エンジンもGoogle検索が標準。ユーザーがこれらを変更するには手間がかかります。
  • データ利用の不透明さ: AppleやGoogleは、アプリ利用データやユーザー行動データを収集し、自社サービス(例:Apple MusicやGoogle Ads)の競争優位性に活用していると指摘されています。

これらの状況は、巨大IT企業の市場支配力により、新規参入が難しく、アプリ開発者や消費者の選択肢が制限されています。スマホソフトウェア競争促進法は、これらの課題に対処し、市場の競争環境を大きく変えることが期待されます。

法律施行による具体的な変化

2025年12月の施行後、以下のような具体的な変化が予想されます。法律の禁止事項や遵守事項に基づき、現在の状況がどのように変わるかを詳細に説明します。

1. アプリストア市場の開放

現在の状況: AppleはiOSデバイスでApp Store以外のアプリストアを許可せず、GoogleもAndroidでGoogle Playを優先。サードパーティのアプリストアは事実上普及していません。アプリ開発者はAppleやGoogleの手数料(30%または15%)を負担し、収益性が低下しています。

法律施行後の変化:

  • 他社アプリストアの利用が可能に: 法律の第7条・第8条により、AppleはiOSでの他社アプリストア(例:Epic Games Storeや国内企業の独自ストア)の導入を妨げられなくなります。Googleも同様に、Androidでの他社アプリストアの利用を制限する行為(例:Google Playの優先表示)が禁止されます。結果として、ユーザーはApp StoreやGoogle Play以外の選択肢を利用しやすくなります。
  • 例: Epic Gamesが自社のストアをiOSで展開できれば、FortniteなどのアプリがApp Storeの手数料を回避し、価格を抑えた提供が可能になるかもしれません。また、国内の中小企業が独自のアプリストアを立ち上げ、ニッチなアプリ市場を形成する可能性も出てきます。
  • 開発者への影響: アプリストアの手数料競争が起き、開発者の負担が軽減される可能性があります。たとえば、他社ストアが10%の手数料でサービスを提供すれば、AppleやGoogleも手数料引き下げを迫られるでしょう。

2. アプリ内課金の自由化

現在の状況: AppleとGoogleはアプリ内課金に自社決済システムを強制し、外部決済手段(例:Stripe、PayPal)の利用を制限。開発者は手数料を支払い、ユーザーへの価格転嫁やサービスの制限が発生しています。

法律施行後の変化:

  • 外部決済の許可: 第8条により、AppleやGoogleはアプリ内での他社決済システムの利用を妨害できなくなります。開発者は自社ウェブサイトや他社決済プラットフォームでの課金をユーザーに案内できるようになります。
  • 例: SpotifyやNetflixのようなサービスが、App Storeの30%手数料を回避し、自社決済システムで直接課金を提供可能に。これにより、ユーザーは割安なサブスクリプション料金で利用できる可能性があります(例:月額980円のサービスが900円に値下げなど)。
  • 消費者への影響: 課金コストの低下により、アプリやサブスクリプションの価格が下がり、消費者の選択肢が広がります。また、開発者が収益を増やせるため、新たなアプリ開発が促進される可能性があります。

3. デフォルト設定の自由化

現在の状況: iOSではSafari、AndroidではChromeがデフォルトブラウザに設定され、Google検索が標準検索エンジン。ユーザーがこれらを変更するには設定画面を操作する必要があり、初心者にはハードルが高いです。

法律施行後の変化:

  • 選択肢の提示義務: 第12条により、AppleやGoogleは初回セットアップ時や設定変更時に、ブラウザや検索エンジンの選択肢をわかりやすく提示する必要があります。たとえば、iOSの初回起動時に、Safari、Chrome、Firefox、または国産ブラウザ(例:Sleipnir)を選択する画面が表示されるようになります。
  • 例: ユーザーがFirefoxをデフォルトブラウザに設定し、検索エンジンとしてDuckDuckGoを選択することが簡単になります。これにより、プライバシー重視のユーザーがGoogle検索以外の選択肢を選びやすくなります。
  • 消費者への影響: デフォルト設定の変更が容易になることで、ユーザーの好みに合ったブラウザや検索エンジンを利用しやすくなり、利便性が向上します。また、他社ブラウザや検索エンジンの普及が進む可能性があります。

4. データ利用の透明性向上

現在の状況: AppleやGoogleは、アプリ利用データ(例:どのアプリがよく使われているか、ユーザーの行動履歴)を取得し、自社サービス(例:Apple Music、Google Ads)の強化に利用していると指摘されています。開発者やユーザーにデータの利用目的が不透明です。

法律施行後の変化:

  • データ開示義務: 第10条により、指定事業者は取得するデータの内容や利用目的を開発者やユーザーに明示する必要があります。たとえば、GoogleがGoogle Playのアプリ利用データを広告最適化に使う場合、その詳細を公開しなければなりません。
  • データ移転の円滑化: 第11条により、ユーザーが連絡先や購入履歴を他社サービスに移行できるようになります。たとえば、AppleのApp Storeで購入したアプリの履歴を、別のアプリストアに移行できるようになります。
  • 例: ユーザーがGoogle Playから他社アプリストアに乗り換える際、購入済みアプリのリストや設定データを簡単に移行可能に。また、開発者は自社アプリの利用データがどのように使われているかを把握し、不当な競争を防げます。

5. 検索エンジンの公平性

現在の状況: Google検索は自社サービス(例:YouTube、Google Maps)を検索結果の上位に表示する傾向があり、競合サービス(例:国内の地図アプリ)が不利になる場合があります。

法律施行後の変化:

  • 不当な優先表示の禁止: 第9条により、Googleは自社サービスを不当に優先する検索アルゴリズムを改める必要があります。たとえば、検索結果で国内の地図アプリ(例:MapFan)がGoogle Mapsと同等に扱われる可能性が高まります。
  • 例: 「東京 レストラン」と検索した際、Google Mapsだけでなく、食べログやRettyなどの国内サービスが公平に上位表示されるようになり、ユーザーの選択肢が広がります。

具体的な影響と課題

これらの変化により、スマートフォン市場は以下のように変わると予想されます

1. アプリ開発者へのメリット

手数料の低下や外部決済の自由化により、中小規模のアプリ開発者が収益を確保しやすくなり、新規アプリの開発やサービスの多様化が進みます。たとえば、インディーゲーム開発者がApp Storeの手数料を回避し、自社ストアで直接販売するケースが増える可能性があります。

2. 消費者へのメリット

アプリやサービスの価格低下、選択肢の増加により、ユーザーは自分のニーズに合ったサービスを選びやすくなります。たとえば、他社アプリストアで安価に提供されるアプリが増えたり、プライバシー重視のブラウザや検索エンジンが普及する可能性があります。

3. 新規参入の促進

他社アプリストアやブラウザ、検索エンジンの参入障壁が下がり、国内企業やスタートアップが新たなサービスを展開しやすくなります。たとえば、楽天やLINEが独自のアプリストアを展開し、独自のエコシステムを構築する可能性があります。

4. セキュリティとプライバシーの課題

アプリストアの開放や外部決済の許可により、悪意あるアプリや詐欺的な決済手段が増えるリスクが懸念されます。Appleは特に、App Storeの厳格な審査がセキュリティを保つと主張しており、法律施行後にセキュリティインシデントが増える可能性が指摘されています。法律では、サイバーセキュリティや青少年保護のための措置が例外として認められていますが、公正取引委員会はガイドラインで具体的な運用基準を明確化する必要があります。

まとめ

スマホソフトウェア競争促進法の施行により、現在のAppleとGoogleによるスマートフォン市場の寡占状態が大きく変わります。アプリストアの開放、外部決済の自由化、デフォルト設定の選択肢拡大、データ利用の透明性向上、検索エンジンの公平性確保を通じて、開発者や消費者の選択肢が増え、競争が促進されます。具体例として、Epic Games StoreのiOS展開、Spotifyの自社決済導入、国内地図アプリの検索上位表示などが期待されます。一方で、セキュリティやプライバシー保護の課題に対応しつつ、公正取引委員会のガイドライン策定(2025年6月予定)が実効性を左右します。この法律により、日本のデジタル市場がよりオープンで多様なものになることが期待されます。