中国恒大集団の上場廃止とその軌跡:事業展開の全貌

中国恒大集団、香港証券取引所から上場廃止へ
中国恒大集団の事業展開

中国恒大集団、香港証券取引所から上場廃止へ

中国の不動産開発大手である中国恒大集団(China Evergrande Group)は、2025年8月25日に香港証券取引所(HKEX)から上場廃止となることが発表されました。この決定は、同社が長期間にわたり取引停止状態にあったことや、債務危機による経営難が背景にあります。以下では、上場廃止に至る経緯やその影響について詳しく解説します。

上場廃止の背景と経緯

中国恒大集団は、2009年11月に香港証券取引所に上場し、かつては中国を代表する不動産企業として市場で大きな存在感を示しました。しかし、2021年末に海外債務のデフォルトが発覚し、経営危機が表面化。2024年1月29日には香港高等法院(高裁)から清算命令を受け、株式の売買が停止されました。香港取引所の規則では、株式の売買停止が18か月以上続くと上場廃止の対象となるため、恒大は2025年7月28日までに取引再開の条件を満たせなかったことから、上場廃止が決定されました。

2025年8月8日、香港証券取引所は恒大に対し、取引再開のガイドラインを満たしていないとして上場資格の取り消しを通知。最終取引日は2025年8月22日で、8月25日午前9時から正式に上場廃止となります。同社はこの決定に対し、異議申し立てや再審査を申請する意向がないことを表明しています。

恒大の債務危機と清算命令

恒大の経営危機は、2021年に約2兆元(中国のGDPの約2%)に上る負債が明らかになり、世界的な注目を集めました。2021年12月にはドル建て債のデフォルトを起こし、債務再編の試みが失敗に終わる中、2023年下半期には創業者の許家印氏が違法行為の疑いで強制措置を受けました。2024年1月の清算命令後、恒大の資産の大部分が中国本土にあるため、香港での清算手続きが実質的な資金回収につながるかは不透明です。清算人は、2024年1月29日から2025年7月31日までの清算進捗報告書を株主や関係者に提供する予定です。

ソーシャルメディアX上の投稿によると、恒大の清算人は債権者から総額450億米ドルの債務請求を受けており、同社の財務状況の深刻さが改めて浮き彫りになっています。

中国不動産業界への影響

恒大の破綻は、中国不動産業界全体の低迷を象徴する出来事です。恒大の経営危機は、他の不動産大手にも波及し、例えば当代置業(中国)や徳信中国も同様の上場廃止リスクに直面しています。恒大のピーク時には時価総額が500億ドル(約7.4兆円)を超えていましたが、2024年1月29日の最終売買時には0.2香港ドルを下回り、時価総額は約21億5000万香港ドル(約407億円)まで縮小していました。

中国経済全体にも影響を及ぼしており、不動産不況は経済成長を圧迫しています。恒大の上場廃止は、中国経済における不動産バブルの終焉と見なされ、今後の清算手続きや資産処分の進展が注目されています。

今後の展望

上場廃止後も恒大の株式自体は有効ですが、香港証券取引所での取引はできなくなります。会社側は、清算に関するさらなる情報を適切なタイミングで公表するとしています。投資家や債権者にとっては、資産回収の可能性や清算手続きの透明性が焦点となるでしょう。また、恒大の動向は、中国政府の不動産業界への対応や経済政策にも影響を与える可能性があります。

中国恒大集団の上場廃止は、不動産危機の象徴として一つの時代の終わりを告げる出来事であり、今後の中国経済の動向に大きな注目が集まっています。

中国恒大集団の事業展開

中国恒大集団(China Evergrande Group)は、1996年に設立された中国を代表する不動産開発企業で、広州に本社を置く投資持株会社です。かつては中国で売上高第2位の不動産デベロッパーであり、ピーク時には世界で最も価値のある不動産企業として知られました。しかし、過剰な債務と経営戦略の失敗により、2021年以降深刻な財務危機に直面し、2024年に清算命令を受け、2025年8月25日に香港証券取引所から上場廃止が決定されました。以下では、同社がこれまでに手掛けた主要な業務内容を、不動産、自動車、観光、ヘルスケア、エンターテインメント、金融、食品・農業、スポーツの各分野に分けて紹介します。

不動産事業

恒大集団の主力事業は不動産開発で、中国国内280以上の都市で1,300を超えるプロジェクトを展開しました。主に中・高所得者層向けのアパートメントを販売し、高品質かつコストパフォーマンスの高い住宅を提供することを目指しました。特に「精装備住宅(フル装備住宅)」の提供や「無理由返品保証」、オンライン販売の先駆けとして知られ、600万人以上の住宅購入者にサービスを提供しました。代表的なプロジェクトには、海南省の「オーシャンフラワーアイランド」や成都の「恒大プラザ」などがあります。恒大は広州、天津、瀋陽、武漢、昆明など22都市で5650万平方メートルの開発用地を所有し、中国第2位の不動産デベロッパーとして「万恒碧(Vanke、Evergrande、Country Garden)」の一角を占めました。

自動車事業(新エネルギー車)

2018年以降、恒大は新エネルギー車(EV)分野に進出しました。子会社を通じて電気自動車ブランド「恒馳(Hengchi)」を立ち上げ、広州や上海に生産拠点を建設。2018年には電気自動車企業に20億ドルで45%の株式を取得し、2019年と2020年に残りの株式を取得しました。2023年には5億ドルの戦略的投資を受けましたが、2024年には政府から19億元(約2億6600万ドル)の補助金返還を命じられるなど、事業は不安定でした。

観光事業

恒大は観光分野にも進出し、特に海南省の「オーシャンフラワーアイランド」や「恒大キッズワールド」などの大規模テーマパークを開発しました。これらのプロジェクトは、オールシーズンの観光地や文化的アトラクションとして、国内外の観光客を引きつけることを目指しました。オーシャンフラワーアイランドは、世界有数の文化観光地として位置付けられていましたが、債務危機により一部プロジェクトの完成が遅延しました。

ヘルスケア事業

ヘルスケア分野では、2015年に子会社を設立し、「恒大ヘルスバレー」を通じて健康管理や高齢者向けのウェルネスパーク、退職者コミュニティを運営。海南省の「博鰲恒大国際病院」は、米国の病院と提携し、腫瘍治療などの医療サービスを提供しました。2020年にはヘルス部門の一部が再編されました。

エンターテインメント事業

2015年に動画配信プラットフォームや映画・テレビ制作会社を運営する企業を設立。2020年には映画制作会社を72億香港ドルで買収しましたが、2021年に株式を売却し、関係を終了しました。

金融事業

2015年に生命保険会社を取得し、生命保険や年金、健康保険などを提供しました。また、銀行の株式を保有し、個人向けの資産管理商品も販売しました。しかし、債務危機により金融事業も縮小を余儀なくされました。

食品・農業事業

2014年にミネラルウォーターブランド「恒大氷泉」を立ち上げ、多額の投資を行いましたが、論争や競争激化により2016年に40億元の損失を計上し、事業を売却。貴州省での養豚場建設にも投資しましたが、これも縮小されました。

スポーツ事業

2010年に広州のサッカークラブを買収し、トップ選手の獲得に投資。2013年と2015年にAFCチャンピオンズリーグで優勝し、2013年にはFIFAクラブワールドカップに出場しました。

債務危機と事業縮小

恒大の多角化戦略は、2020年の中国政府の負債比率制限政策により大きな制約を受けました。2021年に3000億ドルを超える債務が表面化し、債務不履行に陥りました。2024年1月に香港高等法院から清算命令を受け、多くの事業が縮小または売却されました。2025年8月25日の上場廃止により、恒大の事業活動は大幅に制限され、清算プロセスが進行中です。