トランプ大統領、医薬品への関税を最大250%に引き上げる方針を表明
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、2025年8月5日、輸入医薬品に対して最大250%の関税を課す方針を示しました。この政策は、米国内での医薬品製造を促進し、海外依存からの脱却を目指す戦略の一環とされています。特に、2020年の新型コロナウイルス禍で各国がロックダウンを実施した際、米国が必要な物資を確保できなかった事態を問題視し、戦略物資である医薬品の国内生産強化を重視しています。
関税引き上げの背景と狙い
トランプ大統領のこの発言は、医薬品の海外生産への依存が国家安全保障上のリスクであるとの認識に基づいています。特に、中国が世界の医薬品原料の大半を供給する「原料大国」である点を問題視し、原料から最終製品までを米国内で一貫製造することを目指しています。この関税政策は、製薬企業に対して米国内での生産拠点移転を促す「アメとムチ」のアプローチとされ、1年から1年半の猶予期間を設けた後、段階的に関税を引き上げる計画です。
日本への影響と懸念
日本は米国への医薬品輸出額が大きく、2023年の貿易統計では1兆905億円に上ります。この高額な関税が導入されれば、日本の製薬企業は収益圧迫や研究開発費の削減を余儀なくされる可能性があり、新薬開発の遅延や市場競争力の低下が懸念されています。日本製薬工業協会は、関税が医薬品の開発に影響を及ぼすとして、状況を注視しつつ政府と連携して対応策を模索しています。また、TPPや日米貿易協定への影響や、WTO違反の可能性も指摘されています。
米国内への影響と課題
米国では、医薬品価格がすでに他の先進国の約3倍と高額であり、250%の関税導入は患者や保険会社の負担をさらに増大させる恐れがあります。製薬企業は、関税コストを吸収するか、価格転嫁による値上げを選択する可能性があり、どちらも米国民の医療費上昇につながる懸念があります。また、特許を持つ医薬品の製造拠点移転は容易ではなく、短期間での国内生産拡大は現実的に難しいとの声も上がっています。これにより、重篤な疾患を抱える患者へのアクセスが制限される可能性も指摘されています。
今後の展望
トランプ大統領は、関税の具体的な発表時期を明確にしていませんが、早ければ8月末にも詳細が公表される見込みです。一方で、関税政策の導入には議会や裁判所の承認が必要な場合もあり、実現可能性には不透明な部分も残ります。日本の製薬業界は、米国市場への依存度が高いだけに、関税リスクを軽減するための戦略的な対応が求められるでしょう。生産拠点の米国移転やサプライチェーンの再構築、価格戦略の見直しなどが検討されていますが、業界全体の再編を促す可能性も議論されています。